Lady PRIDE
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antique store The land of Nod
OPEN 15:00~
CLOSE ~27:00
有栖院御国が営んでいる骨董品屋というよりかは雑貨屋に近いこの店は路地裏を進んだ奥にある。店主が基本的に留守の場合が多い為、店が開かれている事自体稀ではあるがイカれた博士がよく半ば住居侵入に近い方法で常駐しているので大抵は無人でない。客も全く来ないかと言えばそうでもなく、吸血鬼絡みの客から普通の一般人だってたまに来店する。
商品棚に並ぶ商品はヨハネス・ミーミル・ファウストゥス――例のイカれた博士の作った対吸血鬼用の聖水だったり、吸血鬼の作ったボトルシップだったり、またまた吸血鬼の作った人形だったり。
「ジェジェ、これボトルシップの新作?」
「それはまだ……完成していない……」
「そうなの?」
机に向かいながらジェジェは目の前の洋瓶に部品の一つをピンセットで掴み入れながら答える。シャーロットはじぃ、と隣の机に置かれたボトルシップを見つめた。接着乾燥中、ということだろうか。
ボトルの中に作られた帆船は精巧で自分にはとても作れそうにない。最近見た日本のアニメの様に、物を小さくできる光線を出すライトと物を大きくできる光線を出すライトをセットで所持していれば作れるのかしら、と取り止めの無い想像をする。椅子に座ったまま、机に上半身を預けたシャーロットはぱたぱたと足を振る。
「これも売っちゃうの?」
「売れればな……」
「……貴方が作ったものが別の人のものになっちゃうのって、なんか、気に入らないわ」
さっきから微妙に不機嫌そうな様子だったのはそれが原因か。ジェジェはまた一つボトルシップを組み立てようとしていた手を一度止めた。そして手を止めたまま、自分から見て右の壁に置かれた棚へと視線を向ける。
童話やおとぎ話好きの子供の脳内にイメージとして存在するような可愛らしい人形たちが、お茶会を楽しむかのように人形サイズのテーブルとチェアに鎮座している。それは少女が作ったにしては衣服の細部まで繊細に拘られていて、一見してとても質の良いものだ。それらはシャーロットが片手間に気まぐれて作っているものである。
「…………おまえが作る人形もすぐ、売れるだろう……」
「そういう事じゃないのよっ」
ジェジェがぼそぼそ、と呟く。その呟きを聞き逃す事をしなかったシャーロットはボトルシップを見つめたまま頬を膨らませた。
「それにドールはせっかく作っても御国が店に並べてくれないの。この前売れたのも出かける時に私が棚に並べて、ヨハンが気分屋で店番してた時に売れてただけ」
「ああ……」
だから、御国が拗ねていたわけか。とジェジェは納得した様に声を溢し作業を再開させる。シャーロットは店に並んだボトルシップを自身が買い占める事も出来ると思っていたが、御国から「シャーロットが買ったら店の利益にならないだろ?」と意地悪を言われたため、仕方なく眺めるだけで我慢していた。
買う事は出来なくても売れなければ見ていられる、それに完成までの様子を間近で見る事が出来るのは自分だけだから、と。
――それが最近、ジェジェのボトルシップにもファンがついたのか、店に置いてあった物が軒並みすぐに売れてしまうのだ。
「私もジェジェの作ったボトルシップ欲しいのに」
そうとも、これは客になれる見知らぬ誰かへの嫉妬であり、彼のものが全て自分の物であればと思う傲慢なのだと理解している。別にボトルシップなら何でもいい訳じゃない。彼の作ったボトルシップが欲しいのだ。あああ、と絞るような奇声を小さく上げながら、あまりのやるせなさにシャーロットはぐりぐりと頭を机に組んだ腕へと擦り付けながらばたばたと足を振る。机が振動で僅かに揺れた。
「……」
ジェジェはまた手を止めて、左横の机でそんな行動を起こしているシャーロットを紙袋越しに見つめた。
子供か、と呆れるところはある。実際、欲しい物を貰えない子供の様に駄々をこねているのは、面影からして十分に幼さ残る少女だ。数百年近く変わらぬ容姿と共に、こうした可愛らしい気ままさも変わる事は無いな、と思いながらジェジェはピンセットを机に置いた。
「シャーロット……」
「? なに、ジェジェ?」
「おいで……」
顔を上げたシャーロットはジェジェの言葉に反射的に飛びつくような勢いで抱き着いた。
そもそもとしての身長差、体格差が酷い為にジェジェの方も支えなくてはシャーロットは彼に近づけない。細い腕をジェジェの背中にまわして、シャーロットはぐりぐりと頭をジェジェの胸元に擦り付けた。ほんの少し、硝煙のにおいが鼻腔を満たした。硝煙や血のにおいなんて、花に紅茶や、お菓子の甘い匂いが似合う淑女には不似合いな香りではあるけれど、こうしていると落ち着く。
暫くされるがままになっていたジェジェが少し迷って声をかけようとしたタイミングで、シャーロットはバッと顔を上げた。
「ありがとうジェジェ! 私少しナイーブになってたみたい! 邪魔してごめんなさい。もう大丈夫よ、紅茶でも淹れて来るわ」
一瞬、ばちりと至近距離で交わった赤と赤の視線は本当に一瞬の事で、思いのままに言うだけ言ってぱっ、とジェジェから離れたシャーロットは嬉しそうに笑っている。そのままたったっという効果音を付けるに相応しい小走りで、スカートの裾を翻しながらシャーロットは奥の部屋へと消えて行った。
「…………」
残されたのは抱きしめようとして中途半端な位置で止まったままの自分の腕と、これまた何百年と変わらない自分の間の悪さを痛感して恥いるような感情だけだ。消えて行ったぬくもりを思い出しながら普段よりははっきりとした声色でジェジェは呟く。
「……邪魔な、はずがない……」
ボトルシップを作る作業に戻ろうとして、身じろいだ時ふと鼻腔を知った甘い香りがくすぐる。先程、服に僅かにシャーロットの匂いが移ったのか。
そう考えれば、ほんの少し満たされる気がした。
OPEN 15:00~
CLOSE ~27:00
有栖院御国が営んでいる骨董品屋というよりかは雑貨屋に近いこの店は路地裏を進んだ奥にある。店主が基本的に留守の場合が多い為、店が開かれている事自体稀ではあるがイカれた博士がよく半ば住居侵入に近い方法で常駐しているので大抵は無人でない。客も全く来ないかと言えばそうでもなく、吸血鬼絡みの客から普通の一般人だってたまに来店する。
商品棚に並ぶ商品はヨハネス・ミーミル・ファウストゥス――例のイカれた博士の作った対吸血鬼用の聖水だったり、吸血鬼の作ったボトルシップだったり、またまた吸血鬼の作った人形だったり。
「ジェジェ、これボトルシップの新作?」
「それはまだ……完成していない……」
「そうなの?」
机に向かいながらジェジェは目の前の洋瓶に部品の一つをピンセットで掴み入れながら答える。シャーロットはじぃ、と隣の机に置かれたボトルシップを見つめた。接着乾燥中、ということだろうか。
ボトルの中に作られた帆船は精巧で自分にはとても作れそうにない。最近見た日本のアニメの様に、物を小さくできる光線を出すライトと物を大きくできる光線を出すライトをセットで所持していれば作れるのかしら、と取り止めの無い想像をする。椅子に座ったまま、机に上半身を預けたシャーロットはぱたぱたと足を振る。
「これも売っちゃうの?」
「売れればな……」
「……貴方が作ったものが別の人のものになっちゃうのって、なんか、気に入らないわ」
さっきから微妙に不機嫌そうな様子だったのはそれが原因か。ジェジェはまた一つボトルシップを組み立てようとしていた手を一度止めた。そして手を止めたまま、自分から見て右の壁に置かれた棚へと視線を向ける。
童話やおとぎ話好きの子供の脳内にイメージとして存在するような可愛らしい人形たちが、お茶会を楽しむかのように人形サイズのテーブルとチェアに鎮座している。それは少女が作ったにしては衣服の細部まで繊細に拘られていて、一見してとても質の良いものだ。それらはシャーロットが片手間に気まぐれて作っているものである。
「…………おまえが作る人形もすぐ、売れるだろう……」
「そういう事じゃないのよっ」
ジェジェがぼそぼそ、と呟く。その呟きを聞き逃す事をしなかったシャーロットはボトルシップを見つめたまま頬を膨らませた。
「それにドールはせっかく作っても御国が店に並べてくれないの。この前売れたのも出かける時に私が棚に並べて、ヨハンが気分屋で店番してた時に売れてただけ」
「ああ……」
だから、御国が拗ねていたわけか。とジェジェは納得した様に声を溢し作業を再開させる。シャーロットは店に並んだボトルシップを自身が買い占める事も出来ると思っていたが、御国から「シャーロットが買ったら店の利益にならないだろ?」と意地悪を言われたため、仕方なく眺めるだけで我慢していた。
買う事は出来なくても売れなければ見ていられる、それに完成までの様子を間近で見る事が出来るのは自分だけだから、と。
――それが最近、ジェジェのボトルシップにもファンがついたのか、店に置いてあった物が軒並みすぐに売れてしまうのだ。
「私もジェジェの作ったボトルシップ欲しいのに」
そうとも、これは客になれる見知らぬ誰かへの嫉妬であり、彼のものが全て自分の物であればと思う傲慢なのだと理解している。別にボトルシップなら何でもいい訳じゃない。彼の作ったボトルシップが欲しいのだ。あああ、と絞るような奇声を小さく上げながら、あまりのやるせなさにシャーロットはぐりぐりと頭を机に組んだ腕へと擦り付けながらばたばたと足を振る。机が振動で僅かに揺れた。
「……」
ジェジェはまた手を止めて、左横の机でそんな行動を起こしているシャーロットを紙袋越しに見つめた。
子供か、と呆れるところはある。実際、欲しい物を貰えない子供の様に駄々をこねているのは、面影からして十分に幼さ残る少女だ。数百年近く変わらぬ容姿と共に、こうした可愛らしい気ままさも変わる事は無いな、と思いながらジェジェはピンセットを机に置いた。
「シャーロット……」
「? なに、ジェジェ?」
「おいで……」
顔を上げたシャーロットはジェジェの言葉に反射的に飛びつくような勢いで抱き着いた。
そもそもとしての身長差、体格差が酷い為にジェジェの方も支えなくてはシャーロットは彼に近づけない。細い腕をジェジェの背中にまわして、シャーロットはぐりぐりと頭をジェジェの胸元に擦り付けた。ほんの少し、硝煙のにおいが鼻腔を満たした。硝煙や血のにおいなんて、花に紅茶や、お菓子の甘い匂いが似合う淑女には不似合いな香りではあるけれど、こうしていると落ち着く。
暫くされるがままになっていたジェジェが少し迷って声をかけようとしたタイミングで、シャーロットはバッと顔を上げた。
「ありがとうジェジェ! 私少しナイーブになってたみたい! 邪魔してごめんなさい。もう大丈夫よ、紅茶でも淹れて来るわ」
一瞬、ばちりと至近距離で交わった赤と赤の視線は本当に一瞬の事で、思いのままに言うだけ言ってぱっ、とジェジェから離れたシャーロットは嬉しそうに笑っている。そのままたったっという効果音を付けるに相応しい小走りで、スカートの裾を翻しながらシャーロットは奥の部屋へと消えて行った。
「…………」
残されたのは抱きしめようとして中途半端な位置で止まったままの自分の腕と、これまた何百年と変わらない自分の間の悪さを痛感して恥いるような感情だけだ。消えて行ったぬくもりを思い出しながら普段よりははっきりとした声色でジェジェは呟く。
「……邪魔な、はずがない……」
ボトルシップを作る作業に戻ろうとして、身じろいだ時ふと鼻腔を知った甘い香りがくすぐる。先程、服に僅かにシャーロットの匂いが移ったのか。
そう考えれば、ほんの少し満たされる気がした。