Lady PRIDE
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「は……っ、は……」
ぎり、と縄で物を縛る時によく似た音が聞こえる気がした。実際、首元に食い込むその手はまるで首を絞める縄のようだった。
――それならさしずめ、私は絞首刑を執行されている罪人かしら。罪人にはふかふかのベッドの上で殺される最後なんて似合わないと思うけれど。
なんて面白味の無い事を考えながらシャーロットは目を細めた。
薄暗い視界の中でも元より目がいい為か、それとも暗闇に目が慣れてしまった為かの理由はともあれ、自分の首を締め上げる男の顔がよく見える。優しくあたたかいあの庭で幼い頃から大切に育てられる姿を近く見て来ていたが、今の表情はそのどれにも当てはまらない。憎悪と恐怖と後悔と悲しみ、ああ、なんてひどい顔。
「……から、…………して、……れで……」
浅く息を繰り返してぼそぼそと呟くようなうわごとを溢し、理性を捨てた獣みたいに必死に首を締め付ける普段の余裕の欠片も感じられない顔。
しばらくそれを眺めていれば、漸くシャーロットの意識が霞みかけた。
一度は死んだ身でも首を絞められるって結構苦しいのよね。
抵抗するのは簡単だった。いくら自分自身の体躯が細く小さく幼子の様な見た目でも、何であるかは変わらない。人間と吸血鬼の差は、性別も見た目も関係ない。
「み……っに、……みくにっ!」
蹴り上げるか、掴み投げるか、やろうと思えばいくらでもできる。けど、彼に怪我をさせたい訳ではない。だからシャーロットは今更ながらに首を絞め続ける手首に手を添えて、喉から僅かに掠れた声を出した。空気を少し吸う為にその手頸へと爪を立てた事くらいは許されてもいいだろう。声を上げて、乞う様に顔を少しばかり苦し気に、大袈裟に歪めて見せた。
「っ……!?」
「は……ッ、げほっげほ……!」
頭の両側面についている物はちゃんと機能していた様で、御国は目を見開くと同時にシャーロットの喉元から手を放した。
分かっていたとはいえ、こう急速に酸素が体に入ってくるとむせる。顔を横に向けながら何度か咳を繰り返した。
淑女にあるまじき失態。こちらの方が余程シャーロットにとっては精神的に堪えた。
「何で、此処に居るんだよ」
「何言ってるのよ。貴方が私をベッドに引きずり込んだんじゃない」
「は……、嘘だろ?」
「私が嘘を吐く理由がないでしょ。バカね、夢と現実の境を見誤るなんて、貴方にアリスは似合わないわよ」
御国は力なく嘲笑したが、シャーロットはため息を吐きたげに言葉を続けた。まあ、勝手に部屋へ入ったのは自分で、うなされていた御国が心配で手を伸ばしてしまったのも自分であったから自業自得とも言えなくはない。だから経緯は語らない事にした。自分が不利な事は滅多に言う物じゃない。心の内でそんな事を考えながら、シャーロットは手を伸ばして御国の目元をそっと拭う。
「御国が泣きながらうなされる姿なんて久しぶりに見たわ」
からかう様に言ってやれば御国は羞恥に悶える様な、それとも怒りややるせなさに苛まれる様な、非常に微妙な顔になった。
――其れよりいつまで馬乗りになっているつもりなのかしら、もう貴方の年だとこれは事案よ事案。……と口に出しかけると、御国はそのままシャーロットの小さな肩へ顔を押し付けるように体勢を変える。シャーロットは思わず目を剥いた。
「ちょっと御国!」
「……」
「聞いてる? ……ああ、無視してるのね。そんなに私に情けない顔を見られたことがショックなの?」
「うるさい。ああ、くそ、最悪。ほんっとに最悪」
「別に笑わないわよ、私。御国がべそべそとお貴族のお坊ちゃまみたいに泣いてても」
「その言葉、悪意しか感じないんだけど……?」
くすくす笑い声を出しながらシャーロットの手はそっと御国の後ろ髪を撫でる。
屈辱だと思いながらも反論の仕様がない。いい年して情けない、そう分かってはいるのにこうして時々調子の悪さをも利用してシャーロットに縋る事を御国は止める事ができないでいる。悪い癖だ。
「あらそう? そう感じたのならごめんなさい。……というか、私としては早く退いて欲しいんだけど」
「無理やり押しのけて出てくぐらい出来るだろ、シャーロットは」
「それはそうよ。でも淑女 たる者、そんな力任せな暴力を振るうのは品が無いわ」
淑女 たる者、それはシャーロットの口癖みたいなものだ。御国は糸口を見つけた様ににやりと笑って、シャーロットの肩口から一度顔を上げた。至近距離で覗き込んだ真っ赤な瞳は宝石の様。逸らされる事なくただ真っ直ぐと御国を見返して、逆に魅入られてしまいそうだとも思う。
「ベッドの上に押し倒されてても淑女?」
「それをしたのは御国じゃない。ジェジェが見たら怒るかも……。だから早く退いてちょうだい」
「やだ。出て行きたいなら実力行使でどうぞ?」
シャーロットは、何かとジェジェを気にする。かつて色欲の下位でもないのに有栖院家に居たのもジェジェが理由だと言うし、ここまで御国を気に掛けるのもジェジェの主人だからという以上の理由はないのだろう。ジェジェは別に怒る事なんてないとは思うが、あいつはあいつでシャーロットを気にしているみたいだ。
だからこそ御国が気に食わないのもある。意地悪だと理解しながら、そんな事を言ったのもそれが御国にとっての理由だった。
「……。意地悪いわね。知ってたけど――っと!」
「うわっ!!」
いきなり胸倉を掴まれたかと思えば、凄い力で横に倒された。淑女は力任せの暴力を振るったりしない、なんてどの口が言ったものか。されるがままにシャーロットを見るが、向かい合う様に寝転がったままの彼女がベッドから出て行く様子はない。
「……で、シャーロットは何したい訳?」
「こっちの台詞でもあるけど敢えて言及はしないであげる」
「……」
「私は淑女 だけど、だからこそ泣いてる子供を放置するなんて出来ないの。だから今夜だけは、淑女ではなく御国のお人形さんとして傍に居てあげる。寂しいんでしょ?」
まるでそうだと決めつける様に確信めいた言い方だ。にっこりと確かに童話の世界から連れてきた人形の様に美しく愛らしい笑顔を向けられる。
十数年出会ってから一度も変わる事のない顔に御国は息を吐きながら苦笑した。薄暗い室内でも映えて見える白く細い首の赤い跡。
――――ああ、まるでオレだけのものになったみたいな、そんな歪んだ感情は浮かんですぐに、吐いた息と共にどこか遠くへ消した。
「……、意地が悪いなあ」
「お互いさま。それに光栄でしょ?」
「あーはいはい、そうそう」
「……。微妙にイラッとさせられたわ。やっぱり出てく」
「へー。淑女が一度言った事をすぐに気分で変えていいの?」
「むっ、淑女をはき違えないでっ!!」
ぎり、と縄で物を縛る時によく似た音が聞こえる気がした。実際、首元に食い込むその手はまるで首を絞める縄のようだった。
――それならさしずめ、私は絞首刑を執行されている罪人かしら。罪人にはふかふかのベッドの上で殺される最後なんて似合わないと思うけれど。
なんて面白味の無い事を考えながらシャーロットは目を細めた。
薄暗い視界の中でも元より目がいい為か、それとも暗闇に目が慣れてしまった為かの理由はともあれ、自分の首を締め上げる男の顔がよく見える。優しくあたたかいあの庭で幼い頃から大切に育てられる姿を近く見て来ていたが、今の表情はそのどれにも当てはまらない。憎悪と恐怖と後悔と悲しみ、ああ、なんてひどい顔。
「……から、…………して、……れで……」
浅く息を繰り返してぼそぼそと呟くようなうわごとを溢し、理性を捨てた獣みたいに必死に首を締め付ける普段の余裕の欠片も感じられない顔。
しばらくそれを眺めていれば、漸くシャーロットの意識が霞みかけた。
一度は死んだ身でも首を絞められるって結構苦しいのよね。
抵抗するのは簡単だった。いくら自分自身の体躯が細く小さく幼子の様な見た目でも、何であるかは変わらない。人間と吸血鬼の差は、性別も見た目も関係ない。
「み……っに、……みくにっ!」
蹴り上げるか、掴み投げるか、やろうと思えばいくらでもできる。けど、彼に怪我をさせたい訳ではない。だからシャーロットは今更ながらに首を絞め続ける手首に手を添えて、喉から僅かに掠れた声を出した。空気を少し吸う為にその手頸へと爪を立てた事くらいは許されてもいいだろう。声を上げて、乞う様に顔を少しばかり苦し気に、大袈裟に歪めて見せた。
「っ……!?」
「は……ッ、げほっげほ……!」
頭の両側面についている物はちゃんと機能していた様で、御国は目を見開くと同時にシャーロットの喉元から手を放した。
分かっていたとはいえ、こう急速に酸素が体に入ってくるとむせる。顔を横に向けながら何度か咳を繰り返した。
淑女にあるまじき失態。こちらの方が余程シャーロットにとっては精神的に堪えた。
「何で、此処に居るんだよ」
「何言ってるのよ。貴方が私をベッドに引きずり込んだんじゃない」
「は……、嘘だろ?」
「私が嘘を吐く理由がないでしょ。バカね、夢と現実の境を見誤るなんて、貴方にアリスは似合わないわよ」
御国は力なく嘲笑したが、シャーロットはため息を吐きたげに言葉を続けた。まあ、勝手に部屋へ入ったのは自分で、うなされていた御国が心配で手を伸ばしてしまったのも自分であったから自業自得とも言えなくはない。だから経緯は語らない事にした。自分が不利な事は滅多に言う物じゃない。心の内でそんな事を考えながら、シャーロットは手を伸ばして御国の目元をそっと拭う。
「御国が泣きながらうなされる姿なんて久しぶりに見たわ」
からかう様に言ってやれば御国は羞恥に悶える様な、それとも怒りややるせなさに苛まれる様な、非常に微妙な顔になった。
――其れよりいつまで馬乗りになっているつもりなのかしら、もう貴方の年だとこれは事案よ事案。……と口に出しかけると、御国はそのままシャーロットの小さな肩へ顔を押し付けるように体勢を変える。シャーロットは思わず目を剥いた。
「ちょっと御国!」
「……」
「聞いてる? ……ああ、無視してるのね。そんなに私に情けない顔を見られたことがショックなの?」
「うるさい。ああ、くそ、最悪。ほんっとに最悪」
「別に笑わないわよ、私。御国がべそべそとお貴族のお坊ちゃまみたいに泣いてても」
「その言葉、悪意しか感じないんだけど……?」
くすくす笑い声を出しながらシャーロットの手はそっと御国の後ろ髪を撫でる。
屈辱だと思いながらも反論の仕様がない。いい年して情けない、そう分かってはいるのにこうして時々調子の悪さをも利用してシャーロットに縋る事を御国は止める事ができないでいる。悪い癖だ。
「あらそう? そう感じたのならごめんなさい。……というか、私としては早く退いて欲しいんだけど」
「無理やり押しのけて出てくぐらい出来るだろ、シャーロットは」
「それはそうよ。でも
「ベッドの上に押し倒されてても淑女?」
「それをしたのは御国じゃない。ジェジェが見たら怒るかも……。だから早く退いてちょうだい」
「やだ。出て行きたいなら実力行使でどうぞ?」
シャーロットは、何かとジェジェを気にする。かつて色欲の下位でもないのに有栖院家に居たのもジェジェが理由だと言うし、ここまで御国を気に掛けるのもジェジェの主人だからという以上の理由はないのだろう。ジェジェは別に怒る事なんてないとは思うが、あいつはあいつでシャーロットを気にしているみたいだ。
だからこそ御国が気に食わないのもある。意地悪だと理解しながら、そんな事を言ったのもそれが御国にとっての理由だった。
「……。意地悪いわね。知ってたけど――っと!」
「うわっ!!」
いきなり胸倉を掴まれたかと思えば、凄い力で横に倒された。淑女は力任せの暴力を振るったりしない、なんてどの口が言ったものか。されるがままにシャーロットを見るが、向かい合う様に寝転がったままの彼女がベッドから出て行く様子はない。
「……で、シャーロットは何したい訳?」
「こっちの台詞でもあるけど敢えて言及はしないであげる」
「……」
「私は
まるでそうだと決めつける様に確信めいた言い方だ。にっこりと確かに童話の世界から連れてきた人形の様に美しく愛らしい笑顔を向けられる。
十数年出会ってから一度も変わる事のない顔に御国は息を吐きながら苦笑した。薄暗い室内でも映えて見える白く細い首の赤い跡。
――――ああ、まるでオレだけのものになったみたいな、そんな歪んだ感情は浮かんですぐに、吐いた息と共にどこか遠くへ消した。
「……、意地が悪いなあ」
「お互いさま。それに光栄でしょ?」
「あーはいはい、そうそう」
「……。微妙にイラッとさせられたわ。やっぱり出てく」
「へー。淑女が一度言った事をすぐに気分で変えていいの?」
「むっ、淑女をはき違えないでっ!!」