Lady PRIDE
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「シャーリーそれなんて歌?」
「マザーグースの歌よ。昔覚えたの」
「マザーグース? オレ、まだロンドン橋ぐらいしか知らないなぁ」
シャーロットが何気なく窓辺で口遊んだ歌は昔、英国に滞在していた時に幾つか覚えてしまった物だ。特に気に入っているという訳でもないが、ふと口から諳んじて居たのがその歌だった。
いつから聞いていたのか、窓辺の近くに生えているよく手入れされた木の上から聞きなれた少年の声が降ってくる。視線を向ければこの屋敷の長子、有栖院御国が木の枝に座っていた。
「今にロンドン橋のように落っこちるわよ?」
シャーロットは揶揄うような笑みを浮かべながら、窓枠に頬杖をつき御国を見つめる。木に登るのは子供としては元気でいい事かもしれないが、彼は次期当主としての期待を背負う大事なおぼっちゃまだ。落っこちて大怪我でもしたら一大事である。それが例え自業自得であったとしても。
実年齢はともかくとして、背丈も殆ど変わらないシャーロットに呆れかえった視線を向けられた事に些か腹が立ったのか御国はすぐさま反論する。
「落ちないって!」
「フラグって言うのよ、そういうの」
「もう慣れたって、ほら。 ……っ!?」
「!? ……ほら! 何やってるのバカッ!」
証明する為か、木の上で立って見せた御国は突然吹きつけた風に煽られて、ぐらりとバランスを崩す。シャーロットは驚きながらも直ぐ様窓枠に足をかけて、迷いなく蹴った。腕を広げて空中で御国を抱きかかえると勢いを殺してそのまま庭に降り立つ。
二階から飛び降りる程度、吸血鬼であるシャーロットには対した問題ではない。腕の中でぽかんと呆けた顔をしている御国を見て、ため息交じりの言葉を落とした。
「ほらね、言ったとおり落っこちたじゃない。猿も木から落ちる、日本のコトワザでしょ」
「……助けてくれたのはありがとう。でも、なんでお姫様抱っこなわけ」
「ん~、イヤガラセ? かしら」
「何それムカつく」
考えるように首を傾げながら爽やかな笑顔でイヤガラセと言い放ったシャーロット。同い年程の外見の女の子に横抱きで助けられるなんてまあ、それは恥ずかしいだろう。
御国は不機嫌を表すように眉を寄せ、手足をじたばたと動かして、シャーロットのお姫様抱っこから逃れようとする。シャーロットはちょっと、暴れないでよ! 助けられておいてなんだその態度は! とばかりにぱっと手を放し、御国を地面に落とした。
「いてっ! この、シャーロット!」
「何よ。離して欲しかったんでしょ?」
ひょいと掴みかかって来る御国の手を避けながら、それから暫く追いかけごっこに興じていたが、その内疲れたように二人は庭の木陰に座った。
「シャーリー。さっきの歌の歌詞ってどういう意味?」
「さっき? ……ああ、マザーグースね。ええと、日本語で言うと、女の子はお砂糖やスパイス、素敵なこと、そんなもので出来ている――だったかしら」
「? じゃあ男は何で出来てるわけ」
御国は首を傾げて尋ねる。後々にマザーグースに関しては調べようとは思っていたが、気になる物を聞いてみるくらいはいいだろう。シャーロットは吹き出すように笑い声を零しながら、言う。意地の悪い笑みを浮かべていた。
「ボロ布にカタツムリ、子犬のしっぽよ」
「はあ?」
「男の子は意味のないものが好きだから、きっとそんなものから出来ていて。女の子は甘いモノが好きだから、きっと甘いものから出来ている」
物を生徒に教える教師然とした口ぶりで指先を棒のように振って、そう告げる。シャーロットは表情を伺うように御国をちらりと見た。何とも微妙な顔をしている様だが、ボロ布にカタツムリに子犬のしっぽで出来ているなんて歌を聞かされればこんな顔にもなるものか、と思わないこともない。御国は少し悩むような素振りを見せながらも、やっぱり分からないと言いたげに肩をすくめた。
ちょうどその時、風が木々を揺らし、日陰にも木漏れ日が差し込んだ。御国はそれに大丈夫かと不安になって伺うようにシャーロットを見た。
シャーロットは下位吸血鬼だ、日光には弱い。少なくとも御国の知る屋敷内の色欲の下位吸血鬼は日光を浴びると灰になった。――だが、どうにもシャーロットは日光は苦手だが死ぬ事はないらしい。彼女は長く生き過ぎて心も体も本当に吸血鬼になってしまったからかもね、と以前適当な調子で言っていた。実際、シャーロットは少し眩しそうに目を細め、手で目元にかさを作っただけだ。何でもない事の様に木漏れ日を見上げて、先ほどの話を続ける。
「でも、甘いモノが好きな女の子って可愛いと思うわ。お姫様は甘いモノが好きって絵本にだって書かれてるもの」
「シャーリーもお姫様になりたいとか思ったりするわけ?」
「ふふっ、吸血鬼のお姫様なんて悪役じゃない。それも悪くないかもしれないけれど、私は淑女 で十分よ」
そう言って、シャーロットは微笑んだ。豊かな金糸の髪が風にそよぎ、木漏れ日に照らされて輝いているように御国には見える。そんな彼女が吸血鬼にはとても見えなくて、時々忘れてしまいそうになる。ふと、人間と吸血鬼の間に隔たる高い壁を感じた御国は少しつまらなそうな顔をしながらも笑い返した。
恋をしていた、きっとそう。
叶わない、恋をしていた。
今はまだ年が近く見えるから傍に居てもおかしくなくて、こうして取り止めのない話を交わす事も許されて、けれど――いつかはこんな日々も無くなるんだろう。
「御国。私、甘いケーキが食べたくなったわ」
「オレはなんか、コーヒーが飲みたい気分だ」
「えっ。貴方、もうコーヒー飲めるの? オトナなのね」
「なにその基準、ってシャーリーは飲めないの?」
「ミルクとお砂糖をたっぷり入れれば飲めるわよ」
「シャーリー。それ飲めない、って言わない?」
「マザーグースの歌よ。昔覚えたの」
「マザーグース? オレ、まだロンドン橋ぐらいしか知らないなぁ」
シャーロットが何気なく窓辺で口遊んだ歌は昔、英国に滞在していた時に幾つか覚えてしまった物だ。特に気に入っているという訳でもないが、ふと口から諳んじて居たのがその歌だった。
いつから聞いていたのか、窓辺の近くに生えているよく手入れされた木の上から聞きなれた少年の声が降ってくる。視線を向ければこの屋敷の長子、有栖院御国が木の枝に座っていた。
「今にロンドン橋のように落っこちるわよ?」
シャーロットは揶揄うような笑みを浮かべながら、窓枠に頬杖をつき御国を見つめる。木に登るのは子供としては元気でいい事かもしれないが、彼は次期当主としての期待を背負う大事なおぼっちゃまだ。落っこちて大怪我でもしたら一大事である。それが例え自業自得であったとしても。
実年齢はともかくとして、背丈も殆ど変わらないシャーロットに呆れかえった視線を向けられた事に些か腹が立ったのか御国はすぐさま反論する。
「落ちないって!」
「フラグって言うのよ、そういうの」
「もう慣れたって、ほら。 ……っ!?」
「!? ……ほら! 何やってるのバカッ!」
証明する為か、木の上で立って見せた御国は突然吹きつけた風に煽られて、ぐらりとバランスを崩す。シャーロットは驚きながらも直ぐ様窓枠に足をかけて、迷いなく蹴った。腕を広げて空中で御国を抱きかかえると勢いを殺してそのまま庭に降り立つ。
二階から飛び降りる程度、吸血鬼であるシャーロットには対した問題ではない。腕の中でぽかんと呆けた顔をしている御国を見て、ため息交じりの言葉を落とした。
「ほらね、言ったとおり落っこちたじゃない。猿も木から落ちる、日本のコトワザでしょ」
「……助けてくれたのはありがとう。でも、なんでお姫様抱っこなわけ」
「ん~、イヤガラセ? かしら」
「何それムカつく」
考えるように首を傾げながら爽やかな笑顔でイヤガラセと言い放ったシャーロット。同い年程の外見の女の子に横抱きで助けられるなんてまあ、それは恥ずかしいだろう。
御国は不機嫌を表すように眉を寄せ、手足をじたばたと動かして、シャーロットのお姫様抱っこから逃れようとする。シャーロットはちょっと、暴れないでよ! 助けられておいてなんだその態度は! とばかりにぱっと手を放し、御国を地面に落とした。
「いてっ! この、シャーロット!」
「何よ。離して欲しかったんでしょ?」
ひょいと掴みかかって来る御国の手を避けながら、それから暫く追いかけごっこに興じていたが、その内疲れたように二人は庭の木陰に座った。
「シャーリー。さっきの歌の歌詞ってどういう意味?」
「さっき? ……ああ、マザーグースね。ええと、日本語で言うと、女の子はお砂糖やスパイス、素敵なこと、そんなもので出来ている――だったかしら」
「? じゃあ男は何で出来てるわけ」
御国は首を傾げて尋ねる。後々にマザーグースに関しては調べようとは思っていたが、気になる物を聞いてみるくらいはいいだろう。シャーロットは吹き出すように笑い声を零しながら、言う。意地の悪い笑みを浮かべていた。
「ボロ布にカタツムリ、子犬のしっぽよ」
「はあ?」
「男の子は意味のないものが好きだから、きっとそんなものから出来ていて。女の子は甘いモノが好きだから、きっと甘いものから出来ている」
物を生徒に教える教師然とした口ぶりで指先を棒のように振って、そう告げる。シャーロットは表情を伺うように御国をちらりと見た。何とも微妙な顔をしている様だが、ボロ布にカタツムリに子犬のしっぽで出来ているなんて歌を聞かされればこんな顔にもなるものか、と思わないこともない。御国は少し悩むような素振りを見せながらも、やっぱり分からないと言いたげに肩をすくめた。
ちょうどその時、風が木々を揺らし、日陰にも木漏れ日が差し込んだ。御国はそれに大丈夫かと不安になって伺うようにシャーロットを見た。
シャーロットは下位吸血鬼だ、日光には弱い。少なくとも御国の知る屋敷内の色欲の下位吸血鬼は日光を浴びると灰になった。――だが、どうにもシャーロットは日光は苦手だが死ぬ事はないらしい。彼女は長く生き過ぎて心も体も本当に吸血鬼になってしまったからかもね、と以前適当な調子で言っていた。実際、シャーロットは少し眩しそうに目を細め、手で目元にかさを作っただけだ。何でもない事の様に木漏れ日を見上げて、先ほどの話を続ける。
「でも、甘いモノが好きな女の子って可愛いと思うわ。お姫様は甘いモノが好きって絵本にだって書かれてるもの」
「シャーリーもお姫様になりたいとか思ったりするわけ?」
「ふふっ、吸血鬼のお姫様なんて悪役じゃない。それも悪くないかもしれないけれど、私は
そう言って、シャーロットは微笑んだ。豊かな金糸の髪が風にそよぎ、木漏れ日に照らされて輝いているように御国には見える。そんな彼女が吸血鬼にはとても見えなくて、時々忘れてしまいそうになる。ふと、人間と吸血鬼の間に隔たる高い壁を感じた御国は少しつまらなそうな顔をしながらも笑い返した。
恋をしていた、きっとそう。
叶わない、恋をしていた。
今はまだ年が近く見えるから傍に居てもおかしくなくて、こうして取り止めのない話を交わす事も許されて、けれど――いつかはこんな日々も無くなるんだろう。
「御国。私、甘いケーキが食べたくなったわ」
「オレはなんか、コーヒーが飲みたい気分だ」
「えっ。貴方、もうコーヒー飲めるの? オトナなのね」
「なにその基準、ってシャーリーは飲めないの?」
「ミルクとお砂糖をたっぷり入れれば飲めるわよ」
「シャーリー。それ飲めない、って言わない?」
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