灰色の空
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
09.枯れない花
自室の机の上。
小さな瓶に生けられた一輪のピンクのチューリップ。
かつては小花が添えられた可愛らしい小さな花束だったが、命短い花たちは少しずつ枯れ落ち、今はそのチューリップだけが残っていた。
〇〇は毎日、祈るように水を換えてきた。けれど、その一輪もまた、花びらの先がわずかに乾き、明日には散ってしまうかもしれない危うさを湛えている。
「……枯れちゃうの、やだな……」
ぽつりと、自分でも驚くほど子供じみた独白が漏れた。
死神と呼ばれている少女の冷徹さは微塵も感じられないほどに、慈しみで溢れた目線をその花に向ける。
アレンから貰った初めての贈り物。
世界で一番優しい記憶の形。
〇〇はしばらくその花を見つめていたが、意を決したように花瓶を手に取り、自室の扉を開いた。
ちいさなチューリップの花瓶を隠すように抱えて訪れたのは、科学班のラボ。〇〇はおずおずとジョニーのデスクへ近づいた。
普段は事務的な報告や、武器のメンテナンスの進捗を確認するためにしか訪れない場所。新入りの班員たちが「死神が来たぞ……」と言わんばかりに顔を伏せる中、彼女はそこに居たジョニーとリーバー班長に声を掛けた。
「あ、あの……お忙しいところ、すみません」
「ん? おお、〇〇じゃないか。どうしたんだい?」
ジョニーが作業の手を止め、リーバーもコーヒーを置いて視線を送った。普段とは様子の違う、真っ赤な顔のまま震える手で一輪のチューリップを差し出している。その光景に、二人は「おや?」と顔を見合わせた。
「これ…枯らさずに、ずっと残しておく方法……ありませんか。…どうしても……これだけは、なくしたくなくて……」
消え入りそうな声。 相当勇気を振り絞ってやってきたのだろう。科学班の新入りたちは遠巻きに見ていたが、昔の彼女を知る二人は、その切実な「願い」をすぐに理解し、リーバーが答えた。
「……なるほどな。任せろ、〇〇。科学班の総力を挙げて、その『宝物』を永遠にしてやるよ」
「……! ありがとうございます。……よろしくお願いします…」
「これ預かっていい?」というジョニーに花を託し、逃げるように部屋を去っていく〇〇。その背中を見送りながら、リーバーは優しく目を細めた。
「…ジョニー、気合入れてやるぞ」
「イエッサー!」
…………
その出来事から数十分後。
リナリーとアレンが、報告書を提出するために科学班を訪れた。
「ジョニー、リーバー班長、お疲れ様!」
「やあ、リナリー、アレン。」
おかえり、と作業中のジョニーがにこやかに迎え入れる中、アレンがふとジョニーの作業台に目をやると、そこには見覚えのあるピンクのチューリップが置いてある。それを見た瞬間、アレンの足が止まった。
「……ジョニー。その花、どうしたんですか?」
「あぁ、これ? さっき探索部隊の〇〇が持ってきてさ。『どうしても枯らしたくないんです』って、相談されたんだよね。……珍しいよね、大事な人にでも貰ったのかな?」
ジョニーが何気なく放った言葉に、
リナリーが「……っ!」と両手で口元を押さえた。
「〇〇……! あなたって子は……!!」
嬉しさと愛しさが爆発して、リナリーの目にはみるみる涙が溜まっていく。
「アレンくん……あなたがあげたお花、〇〇にとって一生の宝物になっちゃったんだよ……!」
一方のアレンは、あまりの衝撃と愛しさに顔を伏せて片手で目元を覆った。完璧な紳士の仮面が、今ばかりは完全に剥がれ落ちている。耳の先まで真っ赤に染まった彼は、震える声で呟いた。
「……ズルいですよ、それは……。…ああもう…!」
二人の様子を見ていたジョニーとリーバーは、顔を見合わせて「ははーん」とニヤリと笑った。
「なんだ、贈り主はアレンだったのか! やるなぁ、アレン!」
「照れんなよアレン!まぁ任せとけって!」
二人のおちょくりに、アレンは返事もできないまま、ただ深く溜息をついて俯いていた。
……
数日後…
〇〇はジョニーからの呼び出しに応じ、科学班のラボへと向かっていた。
(……『できた』って、言ってたけど。一体、どうなったんだろう)
胸の鼓動が、少しだけ速くなる。期待と不安が入り混じった、不思議な感覚。
扉を開けると、いつもの喧騒の中にジョニーとリーバーの姿があった。
「あ、〇〇! 来てくれたね!」
ジョニーが、眼鏡をずり上げながら満面の笑みで迎えてくれた。
「待ってたよ! こないだのチューリップ、最高の仕上がりになったんだ!」
「……本当ですか…!…ありがとうございます」
〇〇はおずおずと、ジョニーのデスクへ近づいた。
「いやぁ、君の熱意に応えたくてさ、僕らも色々と調べたんだよ!プリザーブドフラワーっていう、画期的な加工法を見つけたんだ! これはね、エタノール液でまず花の色素と水分を完全に脱色・脱水して、その後に特別な保存液を浸透させることで、花の細胞を特殊な樹脂で置き換えるんだ。そうすることで、生花のようなみずみずしさと柔らかさを保ったまま、半永久的に……」
「ジョニー!」
ジョニーの説明が止まらなくなりかけたその時、横からリーバーが苦笑しながらツッコミを入れた。
「詳しい説明はいいから、早く〇〇に渡してやれって!」
「あはは、ごめんごめん! つい嬉しくてさ」
ジョニーは頭をかきながら、デスクの上にあった小さなガラスの箱を〇〇の方へそっと差し出した。
「……っ!」
その箱には、一輪のピンクのチューリップがちょこんと収められていた。かつて花瓶に生けられていた時と同じ、みずみずしい色。花びらの一枚一枚が、まるで今も生きているかのように、柔らかく、けれど力強く咲き誇っている。
「わぁ……」
〇〇の口から、無意識に感嘆の声が漏れた。
先日までの萎れかけていたチューリップがこれほどまでに美しく、永遠に留められるという事実は、奇跡のように感じられた。
「これ……。……枯れない、んですか……?」
指先で、そっとガラスの箱に触れる。
「そう!枯れないんだ!」
ジョニーが続けて言った。
「君の願いを、ちゃんと叶えたかったんだ。…大切な思い出だろうからね」
「……ありがとう、ございます。……ジョニー、リーバー班長」
〇〇は、ガラスの箱を両手で大切に抱きしめながら心からの感謝を伝えた。
「……本当に…すごい技術ですね。尊敬します…」
ガラスの箱の中で美しく咲く花を見つめながら、何度も感嘆の言葉を漏らす彼女の様子を見たジョニーとリーバーは、満足そうに顔を見合わせてニヤリと笑った。
「よかったな、〇〇!」
リーバーが、コーヒーを飲みながら優しく目を細めた。
「また何かあったら、いつでも頼れよな。俺たちが何とかしてやるから」
「……はい…」
嬉しそうに小さく返事をした彼女は扉の前で改めて、本当にありがとうございました、と言って去っていった。
「アレン…まじで頼んだぞ…」
〇〇が見えなくなってから、リーバーは小さな声で呟いた。
……
大切な人たちのあたたかさにつつまれて
〇〇の心の中にある「境界線」が、少しずつ崩れていく。
ラボを去る彼女の足取りは、いつになく軽かった。
自室に戻ると、ガラスの箱をデスクの一番目立つ場所に置いて愛おしそうに眺めた。
(……アレン、さん)
彼の名前を、心の中で呟いてみる。
アレンの、あの優しい微笑みが脳裏をかすめてなんだか無性に彼の声が聞きたくなった。
09.枯れない花 fin
自室の机の上。
小さな瓶に生けられた一輪のピンクのチューリップ。
かつては小花が添えられた可愛らしい小さな花束だったが、命短い花たちは少しずつ枯れ落ち、今はそのチューリップだけが残っていた。
〇〇は毎日、祈るように水を換えてきた。けれど、その一輪もまた、花びらの先がわずかに乾き、明日には散ってしまうかもしれない危うさを湛えている。
「……枯れちゃうの、やだな……」
ぽつりと、自分でも驚くほど子供じみた独白が漏れた。
死神と呼ばれている少女の冷徹さは微塵も感じられないほどに、慈しみで溢れた目線をその花に向ける。
アレンから貰った初めての贈り物。
世界で一番優しい記憶の形。
〇〇はしばらくその花を見つめていたが、意を決したように花瓶を手に取り、自室の扉を開いた。
ちいさなチューリップの花瓶を隠すように抱えて訪れたのは、科学班のラボ。〇〇はおずおずとジョニーのデスクへ近づいた。
普段は事務的な報告や、武器のメンテナンスの進捗を確認するためにしか訪れない場所。新入りの班員たちが「死神が来たぞ……」と言わんばかりに顔を伏せる中、彼女はそこに居たジョニーとリーバー班長に声を掛けた。
「あ、あの……お忙しいところ、すみません」
「ん? おお、〇〇じゃないか。どうしたんだい?」
ジョニーが作業の手を止め、リーバーもコーヒーを置いて視線を送った。普段とは様子の違う、真っ赤な顔のまま震える手で一輪のチューリップを差し出している。その光景に、二人は「おや?」と顔を見合わせた。
「これ…枯らさずに、ずっと残しておく方法……ありませんか。…どうしても……これだけは、なくしたくなくて……」
消え入りそうな声。 相当勇気を振り絞ってやってきたのだろう。科学班の新入りたちは遠巻きに見ていたが、昔の彼女を知る二人は、その切実な「願い」をすぐに理解し、リーバーが答えた。
「……なるほどな。任せろ、〇〇。科学班の総力を挙げて、その『宝物』を永遠にしてやるよ」
「……! ありがとうございます。……よろしくお願いします…」
「これ預かっていい?」というジョニーに花を託し、逃げるように部屋を去っていく〇〇。その背中を見送りながら、リーバーは優しく目を細めた。
「…ジョニー、気合入れてやるぞ」
「イエッサー!」
…………
その出来事から数十分後。
リナリーとアレンが、報告書を提出するために科学班を訪れた。
「ジョニー、リーバー班長、お疲れ様!」
「やあ、リナリー、アレン。」
おかえり、と作業中のジョニーがにこやかに迎え入れる中、アレンがふとジョニーの作業台に目をやると、そこには見覚えのあるピンクのチューリップが置いてある。それを見た瞬間、アレンの足が止まった。
「……ジョニー。その花、どうしたんですか?」
「あぁ、これ? さっき探索部隊の〇〇が持ってきてさ。『どうしても枯らしたくないんです』って、相談されたんだよね。……珍しいよね、大事な人にでも貰ったのかな?」
ジョニーが何気なく放った言葉に、
リナリーが「……っ!」と両手で口元を押さえた。
「〇〇……! あなたって子は……!!」
嬉しさと愛しさが爆発して、リナリーの目にはみるみる涙が溜まっていく。
「アレンくん……あなたがあげたお花、〇〇にとって一生の宝物になっちゃったんだよ……!」
一方のアレンは、あまりの衝撃と愛しさに顔を伏せて片手で目元を覆った。完璧な紳士の仮面が、今ばかりは完全に剥がれ落ちている。耳の先まで真っ赤に染まった彼は、震える声で呟いた。
「……ズルいですよ、それは……。…ああもう…!」
二人の様子を見ていたジョニーとリーバーは、顔を見合わせて「ははーん」とニヤリと笑った。
「なんだ、贈り主はアレンだったのか! やるなぁ、アレン!」
「照れんなよアレン!まぁ任せとけって!」
二人のおちょくりに、アレンは返事もできないまま、ただ深く溜息をついて俯いていた。
……
数日後…
〇〇はジョニーからの呼び出しに応じ、科学班のラボへと向かっていた。
(……『できた』って、言ってたけど。一体、どうなったんだろう)
胸の鼓動が、少しだけ速くなる。期待と不安が入り混じった、不思議な感覚。
扉を開けると、いつもの喧騒の中にジョニーとリーバーの姿があった。
「あ、〇〇! 来てくれたね!」
ジョニーが、眼鏡をずり上げながら満面の笑みで迎えてくれた。
「待ってたよ! こないだのチューリップ、最高の仕上がりになったんだ!」
「……本当ですか…!…ありがとうございます」
〇〇はおずおずと、ジョニーのデスクへ近づいた。
「いやぁ、君の熱意に応えたくてさ、僕らも色々と調べたんだよ!プリザーブドフラワーっていう、画期的な加工法を見つけたんだ! これはね、エタノール液でまず花の色素と水分を完全に脱色・脱水して、その後に特別な保存液を浸透させることで、花の細胞を特殊な樹脂で置き換えるんだ。そうすることで、生花のようなみずみずしさと柔らかさを保ったまま、半永久的に……」
「ジョニー!」
ジョニーの説明が止まらなくなりかけたその時、横からリーバーが苦笑しながらツッコミを入れた。
「詳しい説明はいいから、早く〇〇に渡してやれって!」
「あはは、ごめんごめん! つい嬉しくてさ」
ジョニーは頭をかきながら、デスクの上にあった小さなガラスの箱を〇〇の方へそっと差し出した。
「……っ!」
その箱には、一輪のピンクのチューリップがちょこんと収められていた。かつて花瓶に生けられていた時と同じ、みずみずしい色。花びらの一枚一枚が、まるで今も生きているかのように、柔らかく、けれど力強く咲き誇っている。
「わぁ……」
〇〇の口から、無意識に感嘆の声が漏れた。
先日までの萎れかけていたチューリップがこれほどまでに美しく、永遠に留められるという事実は、奇跡のように感じられた。
「これ……。……枯れない、んですか……?」
指先で、そっとガラスの箱に触れる。
「そう!枯れないんだ!」
ジョニーが続けて言った。
「君の願いを、ちゃんと叶えたかったんだ。…大切な思い出だろうからね」
「……ありがとう、ございます。……ジョニー、リーバー班長」
〇〇は、ガラスの箱を両手で大切に抱きしめながら心からの感謝を伝えた。
「……本当に…すごい技術ですね。尊敬します…」
ガラスの箱の中で美しく咲く花を見つめながら、何度も感嘆の言葉を漏らす彼女の様子を見たジョニーとリーバーは、満足そうに顔を見合わせてニヤリと笑った。
「よかったな、〇〇!」
リーバーが、コーヒーを飲みながら優しく目を細めた。
「また何かあったら、いつでも頼れよな。俺たちが何とかしてやるから」
「……はい…」
嬉しそうに小さく返事をした彼女は扉の前で改めて、本当にありがとうございました、と言って去っていった。
「アレン…まじで頼んだぞ…」
〇〇が見えなくなってから、リーバーは小さな声で呟いた。
……
大切な人たちのあたたかさにつつまれて
〇〇の心の中にある「境界線」が、少しずつ崩れていく。
ラボを去る彼女の足取りは、いつになく軽かった。
自室に戻ると、ガラスの箱をデスクの一番目立つ場所に置いて愛おしそうに眺めた。
(……アレン、さん)
彼の名前を、心の中で呟いてみる。
アレンの、あの優しい微笑みが脳裏をかすめてなんだか無性に彼の声が聞きたくなった。
09.枯れない花 fin