灰色の空
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08.翌朝
翌朝、教団の食堂。
〇〇はいつも通り「探索部隊の〇〇」として扉をくぐった。昨夜リナリーに胸の内を吐露してしまった熱を、自分だけの領域に大切に閉じ込めたつもりだった。
(……落ち着け。仕事に集中しなくちゃ、)
そう自分に言い聞かせながらも、無意識に銀髪の姿を探してしまう。だが、目的の人物は見当たらず、彼女は微かに胸を撫で下ろすと同時に、すこし落胆した自分に気がついて、ため息を漏らした。
「はぁ…」
トレイを手に取りパンの列に並ぶ。すると、斜め前にいた団員がおずおずと振り返って声をかけてきた。
「あ…あの、〇〇さん。おはようございます」
「…えっ、あ……お、おはよう………」
〇〇はまさか話しかけられるとは思わず、驚きながらも挨拶の言葉を返した。
(……な、何だ? 事務連絡か…?)
昨日まで、彼女が背後に立てば「死神が来た」とばかりに道を譲っていたはずの男だ。それが今日は、なぜか頬を赤らめて落ち着きなく視線を泳がせている。
挨拶を返された団員は「っ! はい!」と顔を輝かせ、弾かれたように去っていった。
その後も、周囲からの視線を感じつつ「おはよう」「お疲れ様」と、ぽつぽつと何度か声をかけられた。
(……なんなんだ…)
困惑し、眉間の皺を深くしながら、〇〇はいつもの端の席で手早く朝食を済ませた。
食べ終えた食器を片付けようとトレイを持ち上げた、その時。
「あの、〇〇さん。少し、いいでしょうか」
ある探索班の若い男が、意を決したような顔で目の前に立った。〇〇は思わず身構える。
「……な、なんですか…」
「えっと…あなたの、現場での無駄のない動き、ずっと尊敬していたんです。……死神、なんて呼ぶ奴もいますけど、俺はあの、いつもすごいなって思ってて…」
男は少し頬を赤らめ、頭をかきながら続けた。
「もしよければ……今度、時間を作って訓練をつけてくれませんか? あなたみたいに動けるようになりたくて」
「…………」
〇〇は固まった。
尊敬している、と言われたことも、個人的に訓練に誘われたことも、これまでの人生で一度もなかった。
どう返答したらいいか分からないでいると
その時、背後にふわりと温かな、けれどどこか冷ややかな気配が寄り添った。
「おはようございます、〇〇さん。……おや、朝から熱心な勧誘ですね」
「……っ!?」
柔らかな声で自身の名前を呼ぶ声に心臓が跳ね、反射的に振り返ろうとした拍子に、手元のトレイが大きく傾く。
ガシャァァァン!!
静かな食堂に、陶器の割れる音と金属音が響き渡った。
「……あ、あ、ああ……」
沸騰したように赤くなる顔。昨日のこと思い出し、彼に見られているという事実と、大きな音をたて周りの視線を集めてしまったことが、彼女の思考を完全にショートさせた。
「……っ、す、すみません……!すぐ、片付けます……!」
〇〇は慌てて膝をつき、震える指先で破片をかき集めようとした。
そこへ、迷いのない手つきで白い手袋をはめた手が伸び、彼女の指先を優しく制した。
「そのまま触ったらダメ。怪我しちゃいます」
彼は極めて自然に〇〇の隣に跪くと、手際よく破片をまとめ始めた。
「……ア、アレンさん……。……すみません、ありがとうございます……」
〇〇は俯き、真っ赤な顔で消え入りそうな声を出す。アレンは作業を終えて立ち上がると、一連の流れを見ていた勧誘男の方へ、一点の曇りもない笑顔を向けて言い放った。
「彼女、これから僕と任務の打ち合わせがあるんです。……訓練の件なら、また別の機会に、"僕を通して"お願いできますか?」
「え、あ……はい、すみません……! 失礼します!」
男が気圧されて去っていくのを横目に、アレンは〇〇に向き直った。
「怪我はありませんか?」
「は、はい…本当に…すみません…」
「気にしないでください。それより、昨日はありがとうございました。よく眠れましたか?」
「……っ!」
不意に振られた昨日の話題。
「……あ、ええ。……こちらこそ、ありがとうございました。……よく、眠れ、ました……」
嘘だ。ほとんど一睡もできなかった。
顔を真っ赤に染めてまともにアレンの顔を見られず、指先をぎゅっと握りしめて俯く〇〇。そのあまりに分かりやすい「あたふた」っぷりを目の当たりにして、アレンの口角がわずかに、愉しげに上がった。
(……そんなに真っ赤になって。……リナリーから聞いた通りですね)
自覚した途端に、これほど脆く、可愛らしくなるなんて。アレンは紳士の仮面を崩さぬまま、自分にだけ向けられるその動揺を、心の奥で存分に味わっていた。
そこへ、ラビがニヤニヤしながらやってきた。
「よお! おふたりさん、朝から派手にやったな!にしても〇〇ちゃん、なんかめっちゃ注目集めちゃってんね。特に男連中から」
「…な、なんの事ですか…私、任務の準備があるので、これで失礼します!」
アレンに手伝ってもらった食器を、
謝罪の一言と共に返却口に押し込むと、〇〇は逃げるように食堂を後にした。
「……あーあ、行っちゃったさ。……にしてもアレン、複雑さね〜。〇〇ちゃんがあんなに男たちの視線を釘付けにしてるの、お前的にはどうなんさ?」
アレンは去っていく〇〇の背中に向けて、熱い視線を投げながら答える。
「……不愉快ですね。……彼女のあんな顔、僕だけが知っていればいいのに」
「うわ、出たさ。中身は真っ黒だな!アレンは」
「褒め言葉として受け取っておきますよ。……さあ、これからどうしていきましょうかね」
アレンが穏やかな笑みを崩さぬまま、静かに言葉を繋ぐ。その余裕たっぷりの横顔を見て、ラビは「やれやれ」と呆れたように笑った。
「リナリーも昨日言ってたけどよー、ぶっちゃけ超脈アリっていうか、もう落ちてるようにしか見えなくね?!アレンさんはどうすんの? さっさと捕まえちゃうワケ?」
ラビの直球すぎる問いかけに、アレンはティーカップの縁をなぞり、楽しげに目を細めた。
「……そうですね。……ですが、あんなに可愛らしい反応を見せてくれるんです。もう少し、このまどろっこしい時間を楽しませてもらっても、罰は当たらないでしょう?」
「……性格悪いさー、アレンは」
ラビが鼻を鳴らす横で、アレンは彼女の真っ赤になった姿を思い返し微笑を浮かべていた。
08.翌朝 fin
翌朝、教団の食堂。
〇〇はいつも通り「探索部隊の〇〇」として扉をくぐった。昨夜リナリーに胸の内を吐露してしまった熱を、自分だけの領域に大切に閉じ込めたつもりだった。
(……落ち着け。仕事に集中しなくちゃ、)
そう自分に言い聞かせながらも、無意識に銀髪の姿を探してしまう。だが、目的の人物は見当たらず、彼女は微かに胸を撫で下ろすと同時に、すこし落胆した自分に気がついて、ため息を漏らした。
「はぁ…」
トレイを手に取りパンの列に並ぶ。すると、斜め前にいた団員がおずおずと振り返って声をかけてきた。
「あ…あの、〇〇さん。おはようございます」
「…えっ、あ……お、おはよう………」
〇〇はまさか話しかけられるとは思わず、驚きながらも挨拶の言葉を返した。
(……な、何だ? 事務連絡か…?)
昨日まで、彼女が背後に立てば「死神が来た」とばかりに道を譲っていたはずの男だ。それが今日は、なぜか頬を赤らめて落ち着きなく視線を泳がせている。
挨拶を返された団員は「っ! はい!」と顔を輝かせ、弾かれたように去っていった。
その後も、周囲からの視線を感じつつ「おはよう」「お疲れ様」と、ぽつぽつと何度か声をかけられた。
(……なんなんだ…)
困惑し、眉間の皺を深くしながら、〇〇はいつもの端の席で手早く朝食を済ませた。
食べ終えた食器を片付けようとトレイを持ち上げた、その時。
「あの、〇〇さん。少し、いいでしょうか」
ある探索班の若い男が、意を決したような顔で目の前に立った。〇〇は思わず身構える。
「……な、なんですか…」
「えっと…あなたの、現場での無駄のない動き、ずっと尊敬していたんです。……死神、なんて呼ぶ奴もいますけど、俺はあの、いつもすごいなって思ってて…」
男は少し頬を赤らめ、頭をかきながら続けた。
「もしよければ……今度、時間を作って訓練をつけてくれませんか? あなたみたいに動けるようになりたくて」
「…………」
〇〇は固まった。
尊敬している、と言われたことも、個人的に訓練に誘われたことも、これまでの人生で一度もなかった。
どう返答したらいいか分からないでいると
その時、背後にふわりと温かな、けれどどこか冷ややかな気配が寄り添った。
「おはようございます、〇〇さん。……おや、朝から熱心な勧誘ですね」
「……っ!?」
柔らかな声で自身の名前を呼ぶ声に心臓が跳ね、反射的に振り返ろうとした拍子に、手元のトレイが大きく傾く。
ガシャァァァン!!
静かな食堂に、陶器の割れる音と金属音が響き渡った。
「……あ、あ、ああ……」
沸騰したように赤くなる顔。昨日のこと思い出し、彼に見られているという事実と、大きな音をたて周りの視線を集めてしまったことが、彼女の思考を完全にショートさせた。
「……っ、す、すみません……!すぐ、片付けます……!」
〇〇は慌てて膝をつき、震える指先で破片をかき集めようとした。
そこへ、迷いのない手つきで白い手袋をはめた手が伸び、彼女の指先を優しく制した。
「そのまま触ったらダメ。怪我しちゃいます」
彼は極めて自然に〇〇の隣に跪くと、手際よく破片をまとめ始めた。
「……ア、アレンさん……。……すみません、ありがとうございます……」
〇〇は俯き、真っ赤な顔で消え入りそうな声を出す。アレンは作業を終えて立ち上がると、一連の流れを見ていた勧誘男の方へ、一点の曇りもない笑顔を向けて言い放った。
「彼女、これから僕と任務の打ち合わせがあるんです。……訓練の件なら、また別の機会に、"僕を通して"お願いできますか?」
「え、あ……はい、すみません……! 失礼します!」
男が気圧されて去っていくのを横目に、アレンは〇〇に向き直った。
「怪我はありませんか?」
「は、はい…本当に…すみません…」
「気にしないでください。それより、昨日はありがとうございました。よく眠れましたか?」
「……っ!」
不意に振られた昨日の話題。
「……あ、ええ。……こちらこそ、ありがとうございました。……よく、眠れ、ました……」
嘘だ。ほとんど一睡もできなかった。
顔を真っ赤に染めてまともにアレンの顔を見られず、指先をぎゅっと握りしめて俯く〇〇。そのあまりに分かりやすい「あたふた」っぷりを目の当たりにして、アレンの口角がわずかに、愉しげに上がった。
(……そんなに真っ赤になって。……リナリーから聞いた通りですね)
自覚した途端に、これほど脆く、可愛らしくなるなんて。アレンは紳士の仮面を崩さぬまま、自分にだけ向けられるその動揺を、心の奥で存分に味わっていた。
そこへ、ラビがニヤニヤしながらやってきた。
「よお! おふたりさん、朝から派手にやったな!にしても〇〇ちゃん、なんかめっちゃ注目集めちゃってんね。特に男連中から」
「…な、なんの事ですか…私、任務の準備があるので、これで失礼します!」
アレンに手伝ってもらった食器を、
謝罪の一言と共に返却口に押し込むと、〇〇は逃げるように食堂を後にした。
「……あーあ、行っちゃったさ。……にしてもアレン、複雑さね〜。〇〇ちゃんがあんなに男たちの視線を釘付けにしてるの、お前的にはどうなんさ?」
アレンは去っていく〇〇の背中に向けて、熱い視線を投げながら答える。
「……不愉快ですね。……彼女のあんな顔、僕だけが知っていればいいのに」
「うわ、出たさ。中身は真っ黒だな!アレンは」
「褒め言葉として受け取っておきますよ。……さあ、これからどうしていきましょうかね」
アレンが穏やかな笑みを崩さぬまま、静かに言葉を繋ぐ。その余裕たっぷりの横顔を見て、ラビは「やれやれ」と呆れたように笑った。
「リナリーも昨日言ってたけどよー、ぶっちゃけ超脈アリっていうか、もう落ちてるようにしか見えなくね?!アレンさんはどうすんの? さっさと捕まえちゃうワケ?」
ラビの直球すぎる問いかけに、アレンはティーカップの縁をなぞり、楽しげに目を細めた。
「……そうですね。……ですが、あんなに可愛らしい反応を見せてくれるんです。もう少し、このまどろっこしい時間を楽しませてもらっても、罰は当たらないでしょう?」
「……性格悪いさー、アレンは」
ラビが鼻を鳴らす横で、アレンは彼女の真っ赤になった姿を思い返し微笑を浮かべていた。
08.翌朝 fin