灰色の空
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05.自覚
約束の日の朝。
教団内のある一室で、〇〇は鏡の前に立ち尽くしていた。
傍らでは、リナリーが楽しそうにブラシを動かし、彼女の艶やかな髪を編み込んでいく。
「……リナリー、やっぱりやりすぎじゃないかな。これじゃ、まるで……」
「完璧。すっごくかわいいよ、〇〇」
リナリーは鏡越しにウィンクして、彼女の肩を優しく叩いた。
「今日は『ファインダーの〇〇』はお休み。難しいことは考えないで、素直に楽しんでおいで。……ね?」
薄く化粧も施してもらいつつ
親友の心強い言葉に背中を押され、〇〇は教団の外へと向かった。
いつも身に纏う団服ではなく、リナリーと選んだ柔らかなオフホワイトのワンピース。風になびく裾が、自分ではない誰かのようで落ち着かない。
その時、廊下の向こうからラビが歩いてくるのが見えた。〇〇は反射的にうつむき、足早に通り過ぎようとする。
「……お?」
ラビが足を止めた。その視線が、すれ違った可憐な後ろ姿に釘付けになる。
「わお、ストライク……! 教団にんな可愛い子がいたっけ……って、あれ?」
ラビの片目が驚愕に見開かれた。見覚えのある歩き方、そして一瞬だけ見えた横顔。
「……マジか。」
ラビは声をかけようとして、思い直したように口を閉ざした。この後、彼女と会うであろう「親友」の顔が浮かんだからだ。
「……これは、アレンの奴……相当、気合入れていかないと大変さねぇ」
ニヤニヤとした笑みを浮かべながら、ラビは波乱の予感に肩をすくめた。
…
広場には、約束の30分も前に着いてしまった。
「……落ち着け。ただの食事、ただの外出だ……」
そう自分に言い聞かせても、胸のドクドクという鼓動が耳元まで響く。
「…… 〇〇さん…?」
不意に名前を呼ばれ、心臓が跳ねた。
振り返ると、そこには私服姿のアレンが立っていた。いつもより大人びて見えるジャケット姿。その銀色の髪が陽光に透け、あまりに端整な彼の姿に、〇〇の呼吸が止まりそうになる。
「すみません……待たせてしまいましたか?」
「いえ、私も今来たところです、ウォーカーさん」
「……アレン、でいいですよ。今日はお仕事じゃないんですから」
「えっ、あ……では…アレン、さん」
慣れない呼び方に喉が熱くなる。アレンは一瞬、〇〇の姿を眩しそうに見つめると、真っ直ぐに彼女の瞳を覗き込んだ。
「……今日の〇〇さん、驚くほど綺麗です。……見惚れてしまって、声をかけるのが遅れました」
「……っ そんな、やめてください。似合わなすぎて、恥ずかしくて死にそうです……」
「本当のこと言ったんですよ?とっても素敵です」
何も言えず真っ赤になって俯く〇〇の隣に立ち「さぁ、行きましょうか」と歩き出したアレン。
街の喧騒の中歩いていると、ふわりと甘く瑞々しい香りが漂ってきた。
「……あ、いい匂い……」
〇〇が思わず呟くと、そこには色とりどりの花が並ぶ小さな花屋があった。
「〇〇さん、お花好きなんですか?」
「あ、いや、えっと……。普段は、こういうものに縁がないので、つい……」
「ふふ、ちょっと待っててくださいね」
アレンはそう言い残すと、ひらりと花屋の店先へ向かった。店員と二言三言交わし、彼が選んだのは、彼女のワンピースによく似合う、淡いピンクの小さな花束だった。
「はい、これ」
「……私に、花なんて…似合いません」
「いいえ。……あなたが思うよりずっと、あなたはこういう綺麗なものが似合う人です。……僕が、あなたに渡したかったんです」
徹底的な「女の子」としての扱いに、〇〇は心がかき乱される。
自分は死体を片付け、遺品を拾い、感情を殺して生きてきた人間なのに…。
……
アレンが案内してくれたのは、隠れ家のような静かなカフェだった。
しばらくして運ばれてきたのは、宝石のように美しいフルーツのパフェと、紅茶の香りのする焼き立てのスコーン。
「……っ、美味しい……こんなに美味しいの、初めてです……」
一口食べた瞬間、〇〇の瞳がキラキラと輝きだした。
「甘くて、でも優しくて……しあわせです」
そういいながら夢中で食べ進める〇〇。その頬が緩み、少女のような無垢な笑顔が溢れる。
アレンは自分の皿にはほとんど手をつけず、頬杖をついて、そんな彼女をじっと見つめていた。その瞳には、深い愛おしさが宿っている。
(……ああ。やっぱり、連れてきてよかった)
他の誰にも見せたことのない、この無防備で幸せそうな顔。
アレンは、彼女の口元についた小さなクリームを指でそっと拭いながら、独占欲にも似た情熱を押し殺すように微笑んだ。
「……そんなふうに喜んでもらえると、僕までしあわせになります。」
そう言われ、どう返事をしたらいいか分からなかった〇〇は
爆発してしまいそうな心臓を落ち着かせるかのように少しぬるくなった紅茶を飲み干した。
……
もう1箇所いきたいところがあるらしく
「付き合ってくれますか」というアレンに連れられやってきたのは、丘の上にある美しい展望台だった。
眼下には街並みが広がり、黄金色の夕光が世界を包み込んでいる。
壮大な景色に見とれながらも不意に横をみると
夕暮れの太陽に照らされた彼の横顔が、
あまりに綺麗で
目を、奪われてしまった。
心臓がドクンと鳴り
その瞬間、〇〇は自分の中にあった「不可解な動揺」の正体を自覚してしまう
(……ああ。私は、この人のことが――)
けれど、自覚した瞬間に、自分の中にある冷たい現実が心を刺す。
「死神。」
「…え?」
突然彼女から発せられた言葉にアレンは聞き返すように言った。
「……アレンさん。私、知ってるんです。自分が周りでどんな噂をされているか」
〇〇は花束を握りしめ、声は震えていた。
「冷徹で…死神で……。
でも、否定できなかったんです。だって、感情を殺してきたのは事実だから。……私なんかが、こんな風に笑ったり、お花をもらったりする、資格なんて……」
「〇〇さん」
アレンの声が、彼女の言葉を優しく遮った。
「あなたが仲間を想って流した涙を、僕は知っています。あなたがどれほど自分を傷つけてまで、誰かのために祈っているかも、知っています」
アレンは〇〇の正面に立ち、その瞳を真っ直ぐに見つめた。
「噂なんて、真実の欠片も映していません。僕が感じているあなたは、誰よりも温かくて、守りたいほどに愛らしい……僕にとって、特別な女性です」
「……ッ!」
堪えていた涙が、溢れ出した。
アレンが、自分でも嫌いだった重い殻を、粉々に壊してくれた。
「死神」ではなく「〇〇」として、今、この光の中に立っていることを許してくれた。
まだ、この想いを伝える勇気はない。
けれど。いつかは。
「……ありがとう、ございます…」
〇〇は涙を拭い、彼がくれた花を抱きしめた。
二人の間に流れる時間は、これまでで一番優しく、そして切なく、特別なものへと変わっていた。
05自覚 fin
約束の日の朝。
教団内のある一室で、〇〇は鏡の前に立ち尽くしていた。
傍らでは、リナリーが楽しそうにブラシを動かし、彼女の艶やかな髪を編み込んでいく。
「……リナリー、やっぱりやりすぎじゃないかな。これじゃ、まるで……」
「完璧。すっごくかわいいよ、〇〇」
リナリーは鏡越しにウィンクして、彼女の肩を優しく叩いた。
「今日は『ファインダーの〇〇』はお休み。難しいことは考えないで、素直に楽しんでおいで。……ね?」
薄く化粧も施してもらいつつ
親友の心強い言葉に背中を押され、〇〇は教団の外へと向かった。
いつも身に纏う団服ではなく、リナリーと選んだ柔らかなオフホワイトのワンピース。風になびく裾が、自分ではない誰かのようで落ち着かない。
その時、廊下の向こうからラビが歩いてくるのが見えた。〇〇は反射的にうつむき、足早に通り過ぎようとする。
「……お?」
ラビが足を止めた。その視線が、すれ違った可憐な後ろ姿に釘付けになる。
「わお、ストライク……! 教団にんな可愛い子がいたっけ……って、あれ?」
ラビの片目が驚愕に見開かれた。見覚えのある歩き方、そして一瞬だけ見えた横顔。
「……マジか。」
ラビは声をかけようとして、思い直したように口を閉ざした。この後、彼女と会うであろう「親友」の顔が浮かんだからだ。
「……これは、アレンの奴……相当、気合入れていかないと大変さねぇ」
ニヤニヤとした笑みを浮かべながら、ラビは波乱の予感に肩をすくめた。
…
広場には、約束の30分も前に着いてしまった。
「……落ち着け。ただの食事、ただの外出だ……」
そう自分に言い聞かせても、胸のドクドクという鼓動が耳元まで響く。
「…… 〇〇さん…?」
不意に名前を呼ばれ、心臓が跳ねた。
振り返ると、そこには私服姿のアレンが立っていた。いつもより大人びて見えるジャケット姿。その銀色の髪が陽光に透け、あまりに端整な彼の姿に、〇〇の呼吸が止まりそうになる。
「すみません……待たせてしまいましたか?」
「いえ、私も今来たところです、ウォーカーさん」
「……アレン、でいいですよ。今日はお仕事じゃないんですから」
「えっ、あ……では…アレン、さん」
慣れない呼び方に喉が熱くなる。アレンは一瞬、〇〇の姿を眩しそうに見つめると、真っ直ぐに彼女の瞳を覗き込んだ。
「……今日の〇〇さん、驚くほど綺麗です。……見惚れてしまって、声をかけるのが遅れました」
「……っ そんな、やめてください。似合わなすぎて、恥ずかしくて死にそうです……」
「本当のこと言ったんですよ?とっても素敵です」
何も言えず真っ赤になって俯く〇〇の隣に立ち「さぁ、行きましょうか」と歩き出したアレン。
街の喧騒の中歩いていると、ふわりと甘く瑞々しい香りが漂ってきた。
「……あ、いい匂い……」
〇〇が思わず呟くと、そこには色とりどりの花が並ぶ小さな花屋があった。
「〇〇さん、お花好きなんですか?」
「あ、いや、えっと……。普段は、こういうものに縁がないので、つい……」
「ふふ、ちょっと待っててくださいね」
アレンはそう言い残すと、ひらりと花屋の店先へ向かった。店員と二言三言交わし、彼が選んだのは、彼女のワンピースによく似合う、淡いピンクの小さな花束だった。
「はい、これ」
「……私に、花なんて…似合いません」
「いいえ。……あなたが思うよりずっと、あなたはこういう綺麗なものが似合う人です。……僕が、あなたに渡したかったんです」
徹底的な「女の子」としての扱いに、〇〇は心がかき乱される。
自分は死体を片付け、遺品を拾い、感情を殺して生きてきた人間なのに…。
……
アレンが案内してくれたのは、隠れ家のような静かなカフェだった。
しばらくして運ばれてきたのは、宝石のように美しいフルーツのパフェと、紅茶の香りのする焼き立てのスコーン。
「……っ、美味しい……こんなに美味しいの、初めてです……」
一口食べた瞬間、〇〇の瞳がキラキラと輝きだした。
「甘くて、でも優しくて……しあわせです」
そういいながら夢中で食べ進める〇〇。その頬が緩み、少女のような無垢な笑顔が溢れる。
アレンは自分の皿にはほとんど手をつけず、頬杖をついて、そんな彼女をじっと見つめていた。その瞳には、深い愛おしさが宿っている。
(……ああ。やっぱり、連れてきてよかった)
他の誰にも見せたことのない、この無防備で幸せそうな顔。
アレンは、彼女の口元についた小さなクリームを指でそっと拭いながら、独占欲にも似た情熱を押し殺すように微笑んだ。
「……そんなふうに喜んでもらえると、僕までしあわせになります。」
そう言われ、どう返事をしたらいいか分からなかった〇〇は
爆発してしまいそうな心臓を落ち着かせるかのように少しぬるくなった紅茶を飲み干した。
……
もう1箇所いきたいところがあるらしく
「付き合ってくれますか」というアレンに連れられやってきたのは、丘の上にある美しい展望台だった。
眼下には街並みが広がり、黄金色の夕光が世界を包み込んでいる。
壮大な景色に見とれながらも不意に横をみると
夕暮れの太陽に照らされた彼の横顔が、
あまりに綺麗で
目を、奪われてしまった。
心臓がドクンと鳴り
その瞬間、〇〇は自分の中にあった「不可解な動揺」の正体を自覚してしまう
(……ああ。私は、この人のことが――)
けれど、自覚した瞬間に、自分の中にある冷たい現実が心を刺す。
「死神。」
「…え?」
突然彼女から発せられた言葉にアレンは聞き返すように言った。
「……アレンさん。私、知ってるんです。自分が周りでどんな噂をされているか」
〇〇は花束を握りしめ、声は震えていた。
「冷徹で…死神で……。
でも、否定できなかったんです。だって、感情を殺してきたのは事実だから。……私なんかが、こんな風に笑ったり、お花をもらったりする、資格なんて……」
「〇〇さん」
アレンの声が、彼女の言葉を優しく遮った。
「あなたが仲間を想って流した涙を、僕は知っています。あなたがどれほど自分を傷つけてまで、誰かのために祈っているかも、知っています」
アレンは〇〇の正面に立ち、その瞳を真っ直ぐに見つめた。
「噂なんて、真実の欠片も映していません。僕が感じているあなたは、誰よりも温かくて、守りたいほどに愛らしい……僕にとって、特別な女性です」
「……ッ!」
堪えていた涙が、溢れ出した。
アレンが、自分でも嫌いだった重い殻を、粉々に壊してくれた。
「死神」ではなく「〇〇」として、今、この光の中に立っていることを許してくれた。
まだ、この想いを伝える勇気はない。
けれど。いつかは。
「……ありがとう、ございます…」
〇〇は涙を拭い、彼がくれた花を抱きしめた。
二人の間に流れる時間は、これまでで一番優しく、そして切なく、特別なものへと変わっていた。
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