灰色の空
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12.ボーイズトーク
教団の廊下を抜ける風は冷たいが、窓から差し込む陽光は穏やかな昼下がり。
アレン・ウォーカーは、数日ぶりに訪れた「空白」の時間を持て余していた。
任務が一段落し、身体を休めるようにと命じられた休息の日々。
だが、彼の心はちっとも休まってなどいなかった。
(…… 〇〇さん、今日もいないな…)
食堂のテーブルに突っ伏したまま、アレンは深く重いため息を吐いた。
再会の夜、次は形に残るプレゼントを…なんて約束を交わしたというのに、現実は非情だ。
自分に時間ができれば彼女が外征に出て、彼女が戻れば自分が呼び出される。たまに廊下ですれ違っても、お疲れ様です、という短い挨拶を交わすのが精一杯。
思い通りにいかないもどかしさが、胸の奥でチリチリと燻っていた。
……
「よぉアレン、何してんのさ。そんなに項垂れてっとジジイになっちまうぜ?」
聞き慣れた軽い声に顔を上げると、ラビがリーバー班長と並んでこちらへ歩いてくるところだった。
「……ラビ、リーバー班長。お疲れ様です」
「おう、アレンも一息ついてるみたいだな」
リーバーが苦笑しながら隣の椅子を引く。
それからしばらくは、最近の伯爵側の動きや、各支部の戦況についての報告といった、エクソシストらしい事務的な会話が続いた。
だが、ラビがニヤニヤと含み笑いを浮かべた瞬間、空気は一変した。
「そーいやアレン、〇〇ちゃんには会ったんか?」
その名が出た瞬間、アレンの眉間にピシリと皺が寄った。
「……全然。すれ違うことすら、たまにですよ」
「あー、そりゃ災難だったな。俺はこないだ、あいつと一緒に飯食ったけどな。相変わらずなんてゆーかさ、小動物みたいで可愛かったさー」
ピキ、とアレンの背後で何かが鳴った。
「……ラビ。……君、いつの間に彼女と食事なんて?」
「んー?別に任務の帰りにタイミングが合っただけだって!〇〇ちゃん、俺の話で楽しそうに笑ってくれてさぁ……」
「おいおいラビ、アレンの目が笑ってないぞ。」
リーバーが宥めに入るが、火に油を注ぐ結果にしかならない。
「でもまぁ、確かにうちの若造どもも言ってたなぁ」
リーバーがふと思い出したように言葉を繋ぐ。
「〇〇が最近、表情が柔らかくなったって。以前は壁作ってるみたいなところがあったけど、最近は話しやすいし、よく見ると可愛い、とかなんとか言われてたぜ」
「……ぐ、ぬ……」
アレンの奥歯がギリ、と鳴った。
自分があの夜、必死に彼女の心を溶かそうとしたことに対する皮肉な結果に、独占欲が限界値を突破した。
アレンはゆっくりと顔を上げると、ラビとリーバーが思わず息を呑むほど、鋭く、執着に満ちた瞳で二人を見据えた。
「……もう、我慢なりません…」
「……お?」
「まどろっこしいのは、もうおしまいです。……もう、早く僕だけのものにしてしまいたい。」
低い、けれど揺るぎない宣言。
ラビは一瞬呆気にとられた後、堪えきれないといった様子で「おっほほ!」と声を上げた。
「おうおう!ついに行くんか! 紳士の仮面、ついに脱ぎ捨てちゃうわけ?」
「…うるさいです、ラビ…」
そんなアレンの様子を、リーバーは少しだけ真面目な顔で見つめていた。
「アレン…… 〇〇が笑えるようになったのは、間違いなくお前のおかげだ。俺らも、あいつがここで幸せそうにしてるのを見るのはめちゃくちゃ嬉しいんだよ」
リーバーはアレンの肩を、ポンと叩いた。
「……あいつのこと、幸せにしてやってくれよな」
「……言われなくても、そのつもりです」
アレンは立ち上がると、最後にラビを冷ややかに一瞥した。
「ラビ、くれぐれも彼女に変なちょっかいを出さないように。……次は、ただじゃおきませんよ?」
「へいへい、怖い怖い」
ラビに釘をさした後アレンは、ではまた、とだけ言い残し自室に戻って行った。
……
残された二人。ラビは椅子に背を預け、おもしれぇ、と腹を抱えて笑った。
「アレンのやつ、余裕こいてやがったからな、ちょっと小突いてやったら、火が着いたみたいさ」
「……てか、これ確実に両思いだろ。脈しかねェじゃんかよ…」
リーバーが呆れたようにため息をつき、去っていった背中を眺める。
「全く……青春だなぁ、おい」
……
リーバーの「幸せにしてやってくれ」という言葉をおもいかえしながら、アレンは廊下の先をじっと見据えた。
アレン・ウォーカーの心に灯った火は、迷いのない決意となってその胸を焼き始めていた。
12.ボーイズトーク fin
教団の廊下を抜ける風は冷たいが、窓から差し込む陽光は穏やかな昼下がり。
アレン・ウォーカーは、数日ぶりに訪れた「空白」の時間を持て余していた。
任務が一段落し、身体を休めるようにと命じられた休息の日々。
だが、彼の心はちっとも休まってなどいなかった。
(…… 〇〇さん、今日もいないな…)
食堂のテーブルに突っ伏したまま、アレンは深く重いため息を吐いた。
再会の夜、次は形に残るプレゼントを…なんて約束を交わしたというのに、現実は非情だ。
自分に時間ができれば彼女が外征に出て、彼女が戻れば自分が呼び出される。たまに廊下ですれ違っても、お疲れ様です、という短い挨拶を交わすのが精一杯。
思い通りにいかないもどかしさが、胸の奥でチリチリと燻っていた。
……
「よぉアレン、何してんのさ。そんなに項垂れてっとジジイになっちまうぜ?」
聞き慣れた軽い声に顔を上げると、ラビがリーバー班長と並んでこちらへ歩いてくるところだった。
「……ラビ、リーバー班長。お疲れ様です」
「おう、アレンも一息ついてるみたいだな」
リーバーが苦笑しながら隣の椅子を引く。
それからしばらくは、最近の伯爵側の動きや、各支部の戦況についての報告といった、エクソシストらしい事務的な会話が続いた。
だが、ラビがニヤニヤと含み笑いを浮かべた瞬間、空気は一変した。
「そーいやアレン、〇〇ちゃんには会ったんか?」
その名が出た瞬間、アレンの眉間にピシリと皺が寄った。
「……全然。すれ違うことすら、たまにですよ」
「あー、そりゃ災難だったな。俺はこないだ、あいつと一緒に飯食ったけどな。相変わらずなんてゆーかさ、小動物みたいで可愛かったさー」
ピキ、とアレンの背後で何かが鳴った。
「……ラビ。……君、いつの間に彼女と食事なんて?」
「んー?別に任務の帰りにタイミングが合っただけだって!〇〇ちゃん、俺の話で楽しそうに笑ってくれてさぁ……」
「おいおいラビ、アレンの目が笑ってないぞ。」
リーバーが宥めに入るが、火に油を注ぐ結果にしかならない。
「でもまぁ、確かにうちの若造どもも言ってたなぁ」
リーバーがふと思い出したように言葉を繋ぐ。
「〇〇が最近、表情が柔らかくなったって。以前は壁作ってるみたいなところがあったけど、最近は話しやすいし、よく見ると可愛い、とかなんとか言われてたぜ」
「……ぐ、ぬ……」
アレンの奥歯がギリ、と鳴った。
自分があの夜、必死に彼女の心を溶かそうとしたことに対する皮肉な結果に、独占欲が限界値を突破した。
アレンはゆっくりと顔を上げると、ラビとリーバーが思わず息を呑むほど、鋭く、執着に満ちた瞳で二人を見据えた。
「……もう、我慢なりません…」
「……お?」
「まどろっこしいのは、もうおしまいです。……もう、早く僕だけのものにしてしまいたい。」
低い、けれど揺るぎない宣言。
ラビは一瞬呆気にとられた後、堪えきれないといった様子で「おっほほ!」と声を上げた。
「おうおう!ついに行くんか! 紳士の仮面、ついに脱ぎ捨てちゃうわけ?」
「…うるさいです、ラビ…」
そんなアレンの様子を、リーバーは少しだけ真面目な顔で見つめていた。
「アレン…… 〇〇が笑えるようになったのは、間違いなくお前のおかげだ。俺らも、あいつがここで幸せそうにしてるのを見るのはめちゃくちゃ嬉しいんだよ」
リーバーはアレンの肩を、ポンと叩いた。
「……あいつのこと、幸せにしてやってくれよな」
「……言われなくても、そのつもりです」
アレンは立ち上がると、最後にラビを冷ややかに一瞥した。
「ラビ、くれぐれも彼女に変なちょっかいを出さないように。……次は、ただじゃおきませんよ?」
「へいへい、怖い怖い」
ラビに釘をさした後アレンは、ではまた、とだけ言い残し自室に戻って行った。
……
残された二人。ラビは椅子に背を預け、おもしれぇ、と腹を抱えて笑った。
「アレンのやつ、余裕こいてやがったからな、ちょっと小突いてやったら、火が着いたみたいさ」
「……てか、これ確実に両思いだろ。脈しかねェじゃんかよ…」
リーバーが呆れたようにため息をつき、去っていった背中を眺める。
「全く……青春だなぁ、おい」
……
リーバーの「幸せにしてやってくれ」という言葉をおもいかえしながら、アレンは廊下の先をじっと見据えた。
アレン・ウォーカーの心に灯った火は、迷いのない決意となってその胸を焼き始めていた。
12.ボーイズトーク fin
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