灰色の空
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01.出会い
黒の教団は、常に誰かの死の匂いが染み付いている。
ファインダーとして戦場の後片付けを任される〇〇にとって、それは日常であり、心を摩痺させなければ務まらない役目だった。
……
アレン・ウォーカーというエクソシストと同じ任務に就いて数日。二人の間に交わされるのは、必要最低限の事務的な言葉だけだった。
「ウォーカーさん、西側の被害状況確認、完了しました」
「ありがとうございます、〇〇さん。では、僕はこれより周辺の警戒に戻ります」
丁寧だが、一定の距離を保つアレンの物腰。
〇〇もまた、彼を一人の強力な「兵器」として認識し、それ以上に踏み込むことはしなかった。
深入りすれば、彼が死んだときに自分の心が持たない。
そう、学習していたから。
任務の最終日前夜。
雨が上がり、月が顔を出した古い廃村の片隅で、〇〇は焚き火の傍らに座っていた。
その手の中にあったのは、泥に汚れた、何の変哲もない銀色のボタン。
「……それは、どなたかの形見ですか?」
不意に背後から声をかけられ、〇〇は肩を揺らした。いつの間にか戻っていたアレンが、静かな瞳で彼女の手元を見つめている。
「……いえ、ただの遺品です。先日の戦闘で亡くなった、私の班の子が付けていたもの。……あの子、故郷に妹がいるから、死ぬわけにはいかないって、ずっと言ってたんですけどね」
感情を排した、淡々とした声。
けれど、ボタンを握りしめる指先は白く震えていた。
〇〇はぽつり、ぽつりと、自分でも驚くほど素直に言葉を零していく。
「ファインダーは使い捨て。分かっているんです。私も、数えきれないくらいの仲間を見送って、もう涙なんて枯れました」
アレンは黙って隣に座った。
かけるべき言葉を探すように少しの間を置き、彼は自分の十字架が埋め込まれた左手をじっと見つめてから、穏やかに言った。
「僕は、死にませんよ」
「……え?」
「僕は死にません。……だから、〇〇さんが僕のボタンを拾う日は来ません。安心してください」
あまりに真っ直ぐな言葉に、〇〇は思わず顔を上げ、彼の横顔を盗み見た。
そこには、自分と同じように数多の喪失を乗り越え、それでも前を見ようとする、強靭で孤独な光が宿っていた。
「ふっ……傲慢ですね、エクソシスト様は」
〇〇は自嘲気味に、けれど悲しげに鼻で笑った。
「いつかその言葉が嘘になったとき、私はどうすればいいんですか」
「その時は、盛大に僕の悪口でも言ってください。
……さて」
アレンは空気を入れ替えるように、パンと手を叩いた。
「しんみりするのは終わりです。せっかくの雨上がりですから、もう少し楽しいお話をしましょう」
そこからアレンが話し出したのは、教団の食堂でラビが仕掛けた悪戯の失敗談や、コムイ室長がリナリーに怒られて泣きべそをかいていた、他愛もない日常の騒動だった。
「……それで、室長が『リナリィィ!』って叫びながら、ゴーレムに追いかけ回されて……」
アレンが身振り手振りを交えて、少し大袈裟に冗談めかして話す様子に、〇〇の鉄面皮がわずかに緩む。
そして。
「……ふっ、はははっ!」
不意に〇〇の口から、抑えきれない笑い声が溢れ出した。
「……!」
アレンが、ハッとしたように言葉を止め、
彼女を見つめる。
焚き火の爆ぜる音と、彼女の澄んだ笑い声。
月光に照らされた〇〇の顔は、先ほどまでの「死を数えるファインダー」ではなく、
ただの、年相応の少女の顔をしていた。
「……そんなふうに、笑うんですね」
アレンの呆然とした、けれどどこか熱を持った呟きに、〇〇は急に我に返った。
頬がカッと熱くなるのを感じ、慌てて視線を逸らし、口元を隠す。
「……笑って、ないです。」
「いや、今のは完全に笑っていましたよ」
「気のせいですよ……さあ、明日も早いんです。移動しましょう。」
〇〇は逃げるように立ち上がり、荷物をまとめて歩き出した。
背後でアレンが「あ、待ってくださいよ!」と追いかけてくる足音。
彼女の心臓は、いつもとは違うリズムで、激しく鼓動を打っていた。
…
教団に戻ってからの日常は、相変わらずだ。
アレンが食堂や廊下で見かける〇〇の様子は、以前と変わらず、淡々と事務をこなし、感情を表に出さない、冷徹なまでのファインダーの姿。
けれど、アレンの視線は無意識に彼女を追ってしまう。
(……また、見たいな)
あの夜、月光の下で見せた、嘘のない笑顔。
「ウォーカーさん、どうかされましたか?」
「……いえ、なんでもありません。お疲れ様です、〇〇さん」
事務的な挨拶を交わしながらも、アレンの胸の奥には、消えない火が灯っていた。
黒の教団は、常に誰かの死の匂いが染み付いている。
ファインダーとして戦場の後片付けを任される〇〇にとって、それは日常であり、心を摩痺させなければ務まらない役目だった。
……
アレン・ウォーカーというエクソシストと同じ任務に就いて数日。二人の間に交わされるのは、必要最低限の事務的な言葉だけだった。
「ウォーカーさん、西側の被害状況確認、完了しました」
「ありがとうございます、〇〇さん。では、僕はこれより周辺の警戒に戻ります」
丁寧だが、一定の距離を保つアレンの物腰。
〇〇もまた、彼を一人の強力な「兵器」として認識し、それ以上に踏み込むことはしなかった。
深入りすれば、彼が死んだときに自分の心が持たない。
そう、学習していたから。
任務の最終日前夜。
雨が上がり、月が顔を出した古い廃村の片隅で、〇〇は焚き火の傍らに座っていた。
その手の中にあったのは、泥に汚れた、何の変哲もない銀色のボタン。
「……それは、どなたかの形見ですか?」
不意に背後から声をかけられ、〇〇は肩を揺らした。いつの間にか戻っていたアレンが、静かな瞳で彼女の手元を見つめている。
「……いえ、ただの遺品です。先日の戦闘で亡くなった、私の班の子が付けていたもの。……あの子、故郷に妹がいるから、死ぬわけにはいかないって、ずっと言ってたんですけどね」
感情を排した、淡々とした声。
けれど、ボタンを握りしめる指先は白く震えていた。
〇〇はぽつり、ぽつりと、自分でも驚くほど素直に言葉を零していく。
「ファインダーは使い捨て。分かっているんです。私も、数えきれないくらいの仲間を見送って、もう涙なんて枯れました」
アレンは黙って隣に座った。
かけるべき言葉を探すように少しの間を置き、彼は自分の十字架が埋め込まれた左手をじっと見つめてから、穏やかに言った。
「僕は、死にませんよ」
「……え?」
「僕は死にません。……だから、〇〇さんが僕のボタンを拾う日は来ません。安心してください」
あまりに真っ直ぐな言葉に、〇〇は思わず顔を上げ、彼の横顔を盗み見た。
そこには、自分と同じように数多の喪失を乗り越え、それでも前を見ようとする、強靭で孤独な光が宿っていた。
「ふっ……傲慢ですね、エクソシスト様は」
〇〇は自嘲気味に、けれど悲しげに鼻で笑った。
「いつかその言葉が嘘になったとき、私はどうすればいいんですか」
「その時は、盛大に僕の悪口でも言ってください。
……さて」
アレンは空気を入れ替えるように、パンと手を叩いた。
「しんみりするのは終わりです。せっかくの雨上がりですから、もう少し楽しいお話をしましょう」
そこからアレンが話し出したのは、教団の食堂でラビが仕掛けた悪戯の失敗談や、コムイ室長がリナリーに怒られて泣きべそをかいていた、他愛もない日常の騒動だった。
「……それで、室長が『リナリィィ!』って叫びながら、ゴーレムに追いかけ回されて……」
アレンが身振り手振りを交えて、少し大袈裟に冗談めかして話す様子に、〇〇の鉄面皮がわずかに緩む。
そして。
「……ふっ、はははっ!」
不意に〇〇の口から、抑えきれない笑い声が溢れ出した。
「……!」
アレンが、ハッとしたように言葉を止め、
彼女を見つめる。
焚き火の爆ぜる音と、彼女の澄んだ笑い声。
月光に照らされた〇〇の顔は、先ほどまでの「死を数えるファインダー」ではなく、
ただの、年相応の少女の顔をしていた。
「……そんなふうに、笑うんですね」
アレンの呆然とした、けれどどこか熱を持った呟きに、〇〇は急に我に返った。
頬がカッと熱くなるのを感じ、慌てて視線を逸らし、口元を隠す。
「……笑って、ないです。」
「いや、今のは完全に笑っていましたよ」
「気のせいですよ……さあ、明日も早いんです。移動しましょう。」
〇〇は逃げるように立ち上がり、荷物をまとめて歩き出した。
背後でアレンが「あ、待ってくださいよ!」と追いかけてくる足音。
彼女の心臓は、いつもとは違うリズムで、激しく鼓動を打っていた。
…
教団に戻ってからの日常は、相変わらずだ。
アレンが食堂や廊下で見かける〇〇の様子は、以前と変わらず、淡々と事務をこなし、感情を表に出さない、冷徹なまでのファインダーの姿。
けれど、アレンの視線は無意識に彼女を追ってしまう。
(……また、見たいな)
あの夜、月光の下で見せた、嘘のない笑顔。
「ウォーカーさん、どうかされましたか?」
「……いえ、なんでもありません。お疲れ様です、〇〇さん」
事務的な挨拶を交わしながらも、アレンの胸の奥には、消えない火が灯っていた。
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