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図書委員の当番も終わり帰宅しようと廊下を歩いていると
体育館に明かりが点いているのが見えた。
時計は既に7時を指している。

「すごいな、こんな時間までやってるんだ...」
独り言は廊下で響くこともなく消え、突然寂しくなった。

「お腹もすいたし、早く帰ろう」
手袋をきゅっとはめて、下駄箱へ急ぐ。

当たり前だが、下駄箱にあるのは上履き達だけ。
自分の下駄箱にあるローファーを手にとり、上履きをしまい
靴を履き替えて外にでた。

「寒い...」
吐き出す言葉は白い煙となり、夜空に消えていく。
門を目指し歩いていると、

「山田さん?」と後ろから呼ぶ声がした。

振り向くとそこには
冬にもかかわらず半袖の赤葦君がいた。

「赤葦君、部活終わり?」
そう聞くと彼は頷き
「山田さんはどうしたの?たしか帰宅部だよね」と
耳なじみのいい声で聞かれた。

「うん、今日は委員会の当番でね
 気づいたらこんな時間。いつもこんな時間まで部活なの?
 すごいね、お疲れ様。」

そう返事をして
またね、と言おうとすると

「もう着替えて帰るだけだから、送る。
 ちょっとまってて」と言い、彼は体育館のドアに戻り

「お疲れ様です、お先に失礼します」
といいこっちへ戻ってきた。

ドアから顔を出した先輩らしき人が
「えー、あかーし帰るの?!
もうちょっとトス上げてよ!」と言っているが

「失礼します」といった後私に
「すぐ戻るから待ってて」と言い残し
彼は部室へ消えていった。

ん?あれ?一緒に帰るって事なのかな。
赤葦君とは2年間同じクラスだがとても仲が良いかというと否だ。

時々複数で雑談をすることはあっても、2人で話した事は
数える程度。

「まあ、いっか。ちょっと夜道怖かったし」と
自分を納得させる様に小さく呟き彼を待った。

3分ほどで制服に着替えた赤葦君が戻ってきて
「お待たせ」と小走りにかけよってきた。

「ううん、全然。
 一緒に帰ってくれるんだよね?ありがとう。」
そう告げると
「うん、暗いし、心配だからね」と言われた。

クラスの子達が「赤葦君ってカッコいいけど
クールっていうかとっつきにくいよね」と
言っているのを聞いたことがあり
似たようなことを思っていた私は、なんだ優しいなあ。
明日友達に言おう。ちょろいって言われそうだけど。と
考えながら歩いていた。

「松田さんって学校徒歩圏内だよね?」
「そう10分くらいー。近いから梟谷にしたんだよ」
「そうなんだ」
「赤葦君も徒歩圏内?」
「んー」

あれ濁された?と思ったがその後は
私の委員会の話、赤葦君の部活の先輩の話、
クラスの誰と誰が付き合ってるとか
普通の友達と話す様なことを話した。

会話続くかな、なんて心配はよそに途切れることなく
気づけば私の家が見えてきた。

「あ、もうついた。赤葦君ありがとう。
今更ですが、何も聞かずに家まで送ってもらっちゃったけど
赤葦君もこっちの方に住んでるの?」

そう聞くと
「ううん、電車通学だよ」と返事が返ってきた。

「え!駅こっちきちゃうと遠回りだよ!」
「知ってる」
「...なんだかごめんね?」
「いいよ俺が送りたかったから。」

その言葉に何も返せずに息をのむと

「さすがの俺も、好きな子一人で返せないし
 一緒に帰りたかったらからこちらこそありがとうだよ。」
といつもと何一つ変わらない顔で言われた。

突然の事に「うへぇ?!」と変な声が出た。
恥ずかしい。

それを聞いた赤葦君は
「再来週、土曜日だけど、うちの学校で練習試合が
 あるんだ。よかったら山田さん応援に来てよ」といい
 手を振ってきた道を戻っていった。

何か言わなきゃ、何か言わなきゃ、と思うも
言葉が出てこない。

やっとでた言葉は赤葦君の後ろ姿が少し
小さくなったところで「い、行きます!」という
ものだった。

振り返った赤葦君は笑って、もう一度手を振ってくれた。
胸の前で小さく手を振り返し、私はそのままその場を動くことができず赤葦君の背中が見えなくなるまで立ち尽くしていた。

最後、曲がり角を曲がるとき
こっちをみて赤葦君が笑った(気がして)
単純な私はもう今日は寝るまで赤葦君のことが
頭から離れないのだ。



(赤葦くんさらっと好きといったよね?!)
(好きだって言ったけど明日からちゃんと目合うかな)
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