1章
おなまえ
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名前が那田蜘蛛山に着いたとき、辺りはもう暗くなっていた。
自分よりも強いであろう鬼の気配を辿り、山の奥へ進むが、強い刺激臭に頭がくらくらしてきていた。
ここに来るまでに、何人もの亡骸となった鬼殺隊員を見かけて気分が悪くなるだけでなく、喉の奥まで痛くなるような匂いで、名前の気分は最悪であった。
(この山、鬼が複数いるな…。)
名前が鬼殺隊士に見つからなかったのはただ運が良かったのもあるが、名前の気配を鬼と認知できない隊士しかこの山にいないという状況だからであった。
さっさと下山したい名前は、この山で最も強いであろう鬼の下へ向かった。
カサカサと小さな蜘蛛が歩き回る中、名前はお堂のようなものを見つけた。
「ここは…?」
名前がお堂に近づこうとすると、背後から声をかけられた。
「君、誰?」
振り向くと白髪の少年が立っていた。
(全く気配がしなかった…。)
名前はこの山の中でずっと探してきた自分より強い鬼が、目の前の少年であることを悟った。
しかし少年から敵意は感じられなかった。
名前が同じ鬼だったので少年は襲わなかったのだろう。
「何?話せないの?」
黙ったままの名前に少年は再度声をかけた。
名前は正直に自分の目的を話すことにした。
「わ、私は名前。貴方のような強い鬼と話しに来たの。」
「僕と話…?何の用?」
感情の読み取れない表情の少年に向き合い、名前は尋ねた。
「私のことを鬼した、黒髪の男を知っていますか?」
「何言ってんの?そんなの無惨様に決まってるじゃん。」
少年は当たり前のように名前を言った。
その名を聞いた瞬間、名前は自分の血液が燃えるように熱くなるのを感じた。
(無惨…それが私が殺すべき男の名前…。)
ドクドクと激しく血が巡る。
探し求めてきた男の初めての情報に、名前は強い喜びを感じ笑みを浮かべた。
自分自身の力で得た喜びの感情に、名前は人間時の両親から与えられてきた喜びとの大きな違いを感じていた。
名前が喜びをかみしめている間、少年の鬼、累は名前を観察していた。
累にとっては自分の家族に害を与えない鬼ならば興味は無かったが、目の前に立つ鬼がどうして喜んでいるのかさっぱり理解ができなかった。
さらに言えば、累の前に現れる鬼はすべて累に助けを乞う鬼ばかりだった。
名前は全くその素振りは見せず、累にとってはそれが新鮮であった。
「あの、その無惨という男はどこにいるかも知っていたりしませんか?」
累が興味を持っていることもつゆ知らず、名前はさらに尋ねた。
「さあ…この近くにはいないと思うけど。」
累の答えに少しだけ名前の表情が曇ったものの、また笑顔を浮かべて感謝を述べ、累のもとから去っていこうとした。
「待って。」
(無惨の居場所を知らないならば、もうこの山には用はない。
臭いし、早く下山しよう…。)
名前は累にお辞儀をし、立ち去ろうとした。
「待って。」
踵を返そうとしたとき累に引き留められた。
「君は僕よりも弱いよね。それなのに僕に助けを乞わなかった。どうして?」
「どうしてって…。」
「君もわかるだろ?どんどん鬼狩りがやってきてる。無事にここから出れる保証なんてないよ。」
確かに、名前も鬼狩りの気配を感じ取っていた。
入山したときに比べると人数も増え、おそらく強い鬼狩りもいると分かっていた。
名前が黙り込んだのを見て、累は言葉を続けた。
「僕の家族にならない?そうしたら僕の力を分けてあげる。
僕の力を得れば強くなって鬼狩りなんて怖くないよ。
それに家族だから、父さんと母さんが守ってくれる。
君にとっても悪い話じゃないだろう?」
累は名前に笑いかけながら、名前の手を取った。
「僕の、姉さんになってよ。」
名前は累を見つめ返し、優しく手を離した。
「ごめんなさい。私は確かに弱いけれど、この山にずっといることはできないの。」
「死んでしまうとしても?」
累は溜息を吐きながら名前に聞き返す。
名前はもう一度累を見つめなおし、こう答えた。
「目的を果たすまで、私は死ねないわ。」
名前が去ったあと、累は自分の記憶にない女性が頭の中に思い浮かんだ。
綺麗な着物を着た優しい笑顔を浮かべる女性だった。
(誰だ…?)
その姿は一瞬で消え去り累は首を傾げた。
思い浮かんだ女性が、人間だった頃の本当の母親であることを累は知らない。
名前を通してほんの少しだけ記憶が戻ったのだが、累はそのことには気が付かず、山の中腹に向かうのだった。