1章
おなまえ
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(危なかった…!本当に危なかった…!!)
名前は焦っていた。
鬼狩りの前ではその表情は一切見せなかったが、その場から離れた途端冷や汗でいっぱいだった。
(実力のある鬼狩りほど、私に気づきやすくなっている…。
柱なんかに見つかったら私なんて一瞬で殺される…!)
あの町から遠く離れ、鬼狩りの少年が追ってこないことを確認した名前はしゃがみ込んで息を整えていた。
(もうあの町には行けない…。)
名前が鬼となって5ヶ月。
人間を食べずに過ごしてきた名前も、いよいよ限界であった。
このままでは自我を失い、辺り構わず人間を襲ってしまうと感じた名前がたどり着いた先が、あの町の死体安置所だった。
(死体……死体なら私が殺したわけではないし…。)
理性よりも食欲が勝り、人間を食べるという行為に対して名前は躊躇いがなくなっていた。
涎が垂れ、ふらふらと死体に近づいた。
(あぁ…やっとだ……。)
近くにあった死体の腕にかぶりつこうとした瞬間、名前の頭の中に両親の顔が浮かんだ。
「!!!」
名前は死体から手を離した。
「私…いったい何を……。」
手を離した勢いで、死体の顔にかけられた真っ白な布がずれ、名前がかぶりつこうとした人の顔が露わになった。
自分の父親と同じ年くらいの男性だった。
(この人の家族は?奥さんがいるかもしれない。
もしかしたら子供がいるかもしれない。
死んじゃった瞬間でお別れなの?そんなことないよね。
だって、私も、父上と母上を埋葬したもの。
そうやってやっと送り出してあげたんたもの。)
名前は自分の行為に恐怖を覚え、自分自身を強く抱きしめた。
鬼は人間を食べつくしてしまう。
下手したら何も残らない。
そうなったら、残された人間は墓を作り埋葬することができなくなってしまうのだ。
食欲に占められた頭の中にわずかに残された理性で、名前はどうにか思いとどまることができた。
ふらつく体で立ち上がり、身を隠すため町近くの山へ向かった。
その翌日、洞窟の中に身を隠した名前の近くを人間が通りかかった。
「全く、なんで俺たちがこんな奴らを埋めなきゃいけないんだよ。」
「こんなことするために役人になったわけじゃねぇよな…。」
「ったく。適当に埋めて戻ろうぜ。どうせ罪人で身寄りもない奴だろ?」
「そうそう。しかも3日後にもまた罪人の死体が届くんだろ?めんどくせぇなぁ…。」
あの町の役人たちが、死体を運んでいるようだった。
名前がこっそりついていくと、適当に穴を掘りその死体を埋めてさっさと去っていった。
もう名前は限界だった。
先ほどの話から、ここに埋められた死体は罪人で身寄りのない人間、つまり悲しむ人間はいないということだった。
名前は必死で穴を掘り返し、
初めて人間を食べた。
無我夢中で食べ、死体の欠片も何もなくなった時、名前の中から人間の感覚がなくなった。
名前はもう迷わなかった。
(役人たちの話から、3日後に罪人の死体があの死体安置所に届くはず。
その時を狙狙えば…。)
そうしてあの死体消失事件が発生したのだった。
(鬼として、鬼狩りに殺される前にあの男を見つけ出し、殺さなければ。)
名前は両親の仇である男の居場所を知る為に、鬼からも情報を聞き出すことを決めた。
人間を食べたことで完全な鬼となった名前は、強い鬼の気配を感じる方角、那田蜘蛛山へ向かったのだった。