2章
おなまえ
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翌朝。
名前は出発前の検査をしていた。
「うん、輸血したおかげでだいぶ良くなりましたね。一日でここまで回復できるなんて、やはり鬼の回復力は侮れませんね。」
「ありがとうございます、しのぶさん。」
「この後は日中の移動になるので、恐らく禰豆子さんのように籠か何かに押し込められると思います。頑張って我慢してくださいね。」
しのぶは少しだけ楽しそうに笑った。
名前はしのぶの心遣いに感謝するも、この後ぎゅうぎゅうに押し込められる未来を思い苦笑した。
しばらくしのぶと雑談していると、扉の方からか女の子の声が聞こえた。
「しのぶ様、お迎えの方がいらしております。」
「分かりました。」
名前もその言葉に反応し、感謝の言葉を述べて立ち上がった。
「名前さん。」
しのぶに呼び止められ、扉に向かおうとしていた名前は振り返る。
少しだけ申し訳なさそうな表情をしたしのぶが続けた。
「不死川さんのことを許せとは言いません。名前さんの話を聞かずに判断している彼に、勿論非があります。ただ、彼にも事情があることを分かっていただいてほしいです。勝手なお願いだとは思いますが…。」
しのぶの言葉に名前は笑った。
「大丈夫ですよ。あの人は確かに私の命を狙いますが、その行動は間違っていません。私が鬼であることを証明してくれる人なんです。人間の心や尊厳を持って生きている私は、人間に近いだけであって鬼であることは変わらない。」
少しだけ視線を落とし、自分の手を見た。
爪は鋭く、怪我をしていたはずの箇所は傷一つ残っていない。
「私は、自分が鬼であることだけはずっと自覚しておく必要があると思っています。勿論いつかはあの人とも分かり合いたいですけど…。でもそれは人間に戻ってからで構わないです。」
名前の言葉にしのぶは少し驚いた。
(名前さんは人間に近しい存在。でも彼女自身は、鬼であることを否定しながら人間の意識を持って人間と同じように生きたい訳では無い。…彼女の中でも考え方がきっと変わっていっている。)
「名前さんは、強いですね。」
「え…?」
しのぶはまたいつもの笑顔に戻り、またお会いしましょうと言って名前を部屋から追い出した。
しのぶの最後の言葉にぽかんとしつつも、名前は部屋に向かって一度礼をした。
そして視線を動かした。
廊下の曲がり角に隠れ、がたがたと震える三人の女の子達がそこにはいた。
「こ、こちらになります…!」
名前の前を歩く三人娘は、名前からだいぶ距離を取って案内していた。
蝶屋敷で過ごしている間、名前は三人をよく見かけていた。
しかし面と向かって話すことは無く、きちんと顔を見るのも初めてだった。
カチコチになって歩く三人に、名前は可愛いと思うと同時に恐怖を与えていることに申し訳なさを感じた。
「このお部屋になります!」
「中で隠の方がお待ちです!」
「隠の方の指示に従ってください!」
三人娘が部屋の前に立ち、名前に向かって言った。
名前は自分の中で精一杯の優しい笑顔を浮かべて三人に言った。
「ありがとう。……ごめんね。」
お礼と謝罪を言ってすぐに名前は部屋の中に入っていった。
三人娘、きよ、なほ、すみはその言葉と表情に呆気に取られた。
三人が鬼を恐怖に感じるのは当たり前である。身内を鬼に殺されただけではなく、蝶屋敷内に禰豆子以外の鬼が入った来たことが無いからである。
しのぶから名前が人を襲わないという説明を受けていたとはいえ、やはり自分たちだけで鬼を相手することは覚悟が必要であった。
実際に会ってみた名前は、見た目はほとんど人間と変わらない上に、自分達を怖がらせないようにしてくれていることがひしひしと伝わってきた。
三人は名前が出てきたらきちんと見送ろうと心に決めた。
名前が部屋の中に入ると、全身黒ずくめで目元だけ見えている人物四人と、人一人が入れそうな大きな籠があった。
四人は名前を激しく警戒しているようだった。
(さっきの三人も、この人たちも、戦う力がない。だから鬼である私が怖いんだ。)
名前はそう思うとすぐに膝をつき、頭を下げた。
「名前と申します。お聞きかもしれませんが私は人を襲いません。皆さんの不安をこれで拭えるとは思っておりませんが、私を恋柱様の所までお連れしてくださる皆さまのお心遣いに感謝致します。よろしくお願いします。」
名前の突然の行動に四人は驚いたようだった。
鬼を運ぶ、と聞かされてきた隠の四人は相当の覚悟を持ってここに来ていた。
鬼を運ぶことなど今まで一度もない上に、万が一自分が食われることがあったらと思うと、ここまで来る足が重かった。
さらに言えば、拘束されているだろうと思っていた鬼が、自らの足でここに赴いてきたことに驚いていた。
隠の一人が決心して声を発した。
「は…はじめまして。規則のため名を名乗ることは出来ませんが、よろしくお願いします。」
「はい、お願いします。あと不安なら手足を縛ってもらっても構いません。」
名前は隠達が動くまでは、頭を上げなかった。
まずは、少しでも自分に対する恐怖を無くして欲しかった。
隠達は困ったように顔を見合わせた。
「籠に鍵が掛かるので問題ないです。貴女も縛られたままでは窮屈かと思いますので。」
「その、もう顔を上げてください…。」
「私達は任せられたことはやり遂げます。貴女を恋柱様の元まできちんと送らせていただきます。」
名前はゆっくりと顔を上げた。
最初よりは優しげな目で名前を見つめる四人がそこにはいた。
その距離は確実に縮まっていた。
名前は出発前の検査をしていた。
「うん、輸血したおかげでだいぶ良くなりましたね。一日でここまで回復できるなんて、やはり鬼の回復力は侮れませんね。」
「ありがとうございます、しのぶさん。」
「この後は日中の移動になるので、恐らく禰豆子さんのように籠か何かに押し込められると思います。頑張って我慢してくださいね。」
しのぶは少しだけ楽しそうに笑った。
名前はしのぶの心遣いに感謝するも、この後ぎゅうぎゅうに押し込められる未来を思い苦笑した。
しばらくしのぶと雑談していると、扉の方からか女の子の声が聞こえた。
「しのぶ様、お迎えの方がいらしております。」
「分かりました。」
名前もその言葉に反応し、感謝の言葉を述べて立ち上がった。
「名前さん。」
しのぶに呼び止められ、扉に向かおうとしていた名前は振り返る。
少しだけ申し訳なさそうな表情をしたしのぶが続けた。
「不死川さんのことを許せとは言いません。名前さんの話を聞かずに判断している彼に、勿論非があります。ただ、彼にも事情があることを分かっていただいてほしいです。勝手なお願いだとは思いますが…。」
しのぶの言葉に名前は笑った。
「大丈夫ですよ。あの人は確かに私の命を狙いますが、その行動は間違っていません。私が鬼であることを証明してくれる人なんです。人間の心や尊厳を持って生きている私は、人間に近いだけであって鬼であることは変わらない。」
少しだけ視線を落とし、自分の手を見た。
爪は鋭く、怪我をしていたはずの箇所は傷一つ残っていない。
「私は、自分が鬼であることだけはずっと自覚しておく必要があると思っています。勿論いつかはあの人とも分かり合いたいですけど…。でもそれは人間に戻ってからで構わないです。」
名前の言葉にしのぶは少し驚いた。
(名前さんは人間に近しい存在。でも彼女自身は、鬼であることを否定しながら人間の意識を持って人間と同じように生きたい訳では無い。…彼女の中でも考え方がきっと変わっていっている。)
「名前さんは、強いですね。」
「え…?」
しのぶはまたいつもの笑顔に戻り、またお会いしましょうと言って名前を部屋から追い出した。
しのぶの最後の言葉にぽかんとしつつも、名前は部屋に向かって一度礼をした。
そして視線を動かした。
廊下の曲がり角に隠れ、がたがたと震える三人の女の子達がそこにはいた。
「こ、こちらになります…!」
名前の前を歩く三人娘は、名前からだいぶ距離を取って案内していた。
蝶屋敷で過ごしている間、名前は三人をよく見かけていた。
しかし面と向かって話すことは無く、きちんと顔を見るのも初めてだった。
カチコチになって歩く三人に、名前は可愛いと思うと同時に恐怖を与えていることに申し訳なさを感じた。
「このお部屋になります!」
「中で隠の方がお待ちです!」
「隠の方の指示に従ってください!」
三人娘が部屋の前に立ち、名前に向かって言った。
名前は自分の中で精一杯の優しい笑顔を浮かべて三人に言った。
「ありがとう。……ごめんね。」
お礼と謝罪を言ってすぐに名前は部屋の中に入っていった。
三人娘、きよ、なほ、すみはその言葉と表情に呆気に取られた。
三人が鬼を恐怖に感じるのは当たり前である。身内を鬼に殺されただけではなく、蝶屋敷内に禰豆子以外の鬼が入った来たことが無いからである。
しのぶから名前が人を襲わないという説明を受けていたとはいえ、やはり自分たちだけで鬼を相手することは覚悟が必要であった。
実際に会ってみた名前は、見た目はほとんど人間と変わらない上に、自分達を怖がらせないようにしてくれていることがひしひしと伝わってきた。
三人は名前が出てきたらきちんと見送ろうと心に決めた。
名前が部屋の中に入ると、全身黒ずくめで目元だけ見えている人物四人と、人一人が入れそうな大きな籠があった。
四人は名前を激しく警戒しているようだった。
(さっきの三人も、この人たちも、戦う力がない。だから鬼である私が怖いんだ。)
名前はそう思うとすぐに膝をつき、頭を下げた。
「名前と申します。お聞きかもしれませんが私は人を襲いません。皆さんの不安をこれで拭えるとは思っておりませんが、私を恋柱様の所までお連れしてくださる皆さまのお心遣いに感謝致します。よろしくお願いします。」
名前の突然の行動に四人は驚いたようだった。
鬼を運ぶ、と聞かされてきた隠の四人は相当の覚悟を持ってここに来ていた。
鬼を運ぶことなど今まで一度もない上に、万が一自分が食われることがあったらと思うと、ここまで来る足が重かった。
さらに言えば、拘束されているだろうと思っていた鬼が、自らの足でここに赴いてきたことに驚いていた。
隠の一人が決心して声を発した。
「は…はじめまして。規則のため名を名乗ることは出来ませんが、よろしくお願いします。」
「はい、お願いします。あと不安なら手足を縛ってもらっても構いません。」
名前は隠達が動くまでは、頭を上げなかった。
まずは、少しでも自分に対する恐怖を無くして欲しかった。
隠達は困ったように顔を見合わせた。
「籠に鍵が掛かるので問題ないです。貴女も縛られたままでは窮屈かと思いますので。」
「その、もう顔を上げてください…。」
「私達は任せられたことはやり遂げます。貴女を恋柱様の元まできちんと送らせていただきます。」
名前はゆっくりと顔を上げた。
最初よりは優しげな目で名前を見つめる四人がそこにはいた。
その距離は確実に縮まっていた。