2章
おなまえ
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しのぶは淡々と話し始めた。
「私の姉は鬼に殺されました。優しい姉は、鬼と仲良くすることを夢見ていました。ずっと鬼と人間の和解を求め続けていたのです。しかし、そんな姉を無慈悲に鬼は殺しました。それ以来、私は鬼を恨んでいます。」
名前はゆっくりと起き上がってその話に耳を傾けていた。
しのぶの視線は名前の手元にあり、目が合うことは無かった。
「この屋敷にいる子達は皆、親や家族を鬼に殺されています。最初は辛そうだった子達も、少しずつ笑顔を取り戻して今は元気に働いてくれています。でも、鬼がいなければあの子達も辛い思いをすることは無かった。人間にとって鬼は恨むべき害悪の存在でしかないんです。」
名前がこの屋敷に来て、話す機会があったのはしのぶとカナヲだけである。
しかし、診察室と自室の間の移動で何人もの女の子達を見かけた。
どの子も忙しそうにパタパタと駆け回りながら、懸命に働いている様子だった。
名前よりも年下の子もいた。
名前はその時、その子達は出稼ぎにでも来ているのかと思っていたが、その考えが誤っていたことを今の話を聞いて理解した。
名前はぐっと唇を噛んだ。
「でも私は、いつの日か姉の夢を叶えたいと思っています。」
しのぶは視線を名前の手元から顔に移し、じっと目を見つめ返した。
「貴女が飢餓状態になって人間の意識を失っても、人間を食べないことは証明されました。もう私は貴女を疑うことはありません。でも私はそう簡単に鬼への恨みを忘れることなどできない。」
名前はしのぶと初めてあった時、しのぶから感じた鬼への憎悪を思い出していた。
(そうか、この人もかけがえのない肉親や家族を殺されていたんだ…。私と一緒なんだ。だから私はこの人と話したいと思ったんだ。)
「憎しみや恨みは、晴らすまでは消えない…。」
名前がぽつりと呟いた。
名前自身も、強い憎しみの感情を抱えている。
それがそう簡単に消え去ることは無いと分かっている。
しのぶは名前の言葉に少しだけ難しい表情を浮かべたものの、すぐに言葉を続けた。
「はい、名前さんの言う通り鬼を殲滅させるまではこの思いは消えないと思います。…でも、貴女には姉の夢を…いえ、私の夢を叶える手伝いをして欲しいんです。」
しのぶの言葉に名前は驚き、拒否した。
「私は鬼ですよ。人間の尊厳を持って生きたいと思っているとはいえ、体は人間じゃないんです。人間も、食べてしまっています…。鬼を恨んでいる胡蝶さんにとっては、憎むべき存在です。そんな存在が人間と仲良くなるなんて、胡蝶さんの夢に泥を塗っているようなものです!」
「いいえ、それは違います。」
名前の必死の否定も、しのぶは受け入れなかった。
それどころか、名前に対してふんわりと優しく笑った。
「禰豆子さんや名前さんこそ、人間と鬼を繋ぐことのできる存在です。貴女という存在がいないと、私の夢は叶えられません。」
「………っでも…!」
「名前さん。」
反論しようとする名前の唇を、しのぶが優しく撫でた。
「こんなに強く噛んでは駄目ですよ、跡が残ってしまいます。女の子なんですから気をつけないと。」
家族にするかのような優しい手つきに、名前は言葉を失い、しのぶを見つめた。
しのぶはふふ、と笑い名前の頭を撫でた。
「名前さん、貴女は確かに鬼です。でも人間の持つ優しい心を持っています。これからは仲間として、私達鬼殺隊と共に戦ってください。」
「…っはい!」
名前はぐっと涙を堪え、強く答えた。
しのぶが部屋を出ると、扉の横にカナヲがいた。
困ったように視線を彷徨わせているカナヲを見て、しのぶは嬉しそうに笑った。
「名前さんなら目が覚めていますよ。」
「…………。」
「カナヲ。同い年の女の子同士話してみたらどうですか?」
そう言ってしのぶはカナヲの横を通って、自室の方へ戻って行った。
しばらく名前の個室の扉と、しのぶが去っていった方を見比べたあと、自身の持つ硬貨をじっと見つめた。
表、と書かれた硬貨は最後に投げた時から変わらない。
(自分の心の声を聞く…。)
カナヲは硬貨をしまい、名前の部屋の扉の前に立った。
一度深呼吸を行い、扉を叩く。
優しい声に迎えられて、たどたどしくカナヲが話し出すまで、あと数十秒。
「私の姉は鬼に殺されました。優しい姉は、鬼と仲良くすることを夢見ていました。ずっと鬼と人間の和解を求め続けていたのです。しかし、そんな姉を無慈悲に鬼は殺しました。それ以来、私は鬼を恨んでいます。」
名前はゆっくりと起き上がってその話に耳を傾けていた。
しのぶの視線は名前の手元にあり、目が合うことは無かった。
「この屋敷にいる子達は皆、親や家族を鬼に殺されています。最初は辛そうだった子達も、少しずつ笑顔を取り戻して今は元気に働いてくれています。でも、鬼がいなければあの子達も辛い思いをすることは無かった。人間にとって鬼は恨むべき害悪の存在でしかないんです。」
名前がこの屋敷に来て、話す機会があったのはしのぶとカナヲだけである。
しかし、診察室と自室の間の移動で何人もの女の子達を見かけた。
どの子も忙しそうにパタパタと駆け回りながら、懸命に働いている様子だった。
名前よりも年下の子もいた。
名前はその時、その子達は出稼ぎにでも来ているのかと思っていたが、その考えが誤っていたことを今の話を聞いて理解した。
名前はぐっと唇を噛んだ。
「でも私は、いつの日か姉の夢を叶えたいと思っています。」
しのぶは視線を名前の手元から顔に移し、じっと目を見つめ返した。
「貴女が飢餓状態になって人間の意識を失っても、人間を食べないことは証明されました。もう私は貴女を疑うことはありません。でも私はそう簡単に鬼への恨みを忘れることなどできない。」
名前はしのぶと初めてあった時、しのぶから感じた鬼への憎悪を思い出していた。
(そうか、この人もかけがえのない肉親や家族を殺されていたんだ…。私と一緒なんだ。だから私はこの人と話したいと思ったんだ。)
「憎しみや恨みは、晴らすまでは消えない…。」
名前がぽつりと呟いた。
名前自身も、強い憎しみの感情を抱えている。
それがそう簡単に消え去ることは無いと分かっている。
しのぶは名前の言葉に少しだけ難しい表情を浮かべたものの、すぐに言葉を続けた。
「はい、名前さんの言う通り鬼を殲滅させるまではこの思いは消えないと思います。…でも、貴女には姉の夢を…いえ、私の夢を叶える手伝いをして欲しいんです。」
しのぶの言葉に名前は驚き、拒否した。
「私は鬼ですよ。人間の尊厳を持って生きたいと思っているとはいえ、体は人間じゃないんです。人間も、食べてしまっています…。鬼を恨んでいる胡蝶さんにとっては、憎むべき存在です。そんな存在が人間と仲良くなるなんて、胡蝶さんの夢に泥を塗っているようなものです!」
「いいえ、それは違います。」
名前の必死の否定も、しのぶは受け入れなかった。
それどころか、名前に対してふんわりと優しく笑った。
「禰豆子さんや名前さんこそ、人間と鬼を繋ぐことのできる存在です。貴女という存在がいないと、私の夢は叶えられません。」
「………っでも…!」
「名前さん。」
反論しようとする名前の唇を、しのぶが優しく撫でた。
「こんなに強く噛んでは駄目ですよ、跡が残ってしまいます。女の子なんですから気をつけないと。」
家族にするかのような優しい手つきに、名前は言葉を失い、しのぶを見つめた。
しのぶはふふ、と笑い名前の頭を撫でた。
「名前さん、貴女は確かに鬼です。でも人間の持つ優しい心を持っています。これからは仲間として、私達鬼殺隊と共に戦ってください。」
「…っはい!」
名前はぐっと涙を堪え、強く答えた。
しのぶが部屋を出ると、扉の横にカナヲがいた。
困ったように視線を彷徨わせているカナヲを見て、しのぶは嬉しそうに笑った。
「名前さんなら目が覚めていますよ。」
「…………。」
「カナヲ。同い年の女の子同士話してみたらどうですか?」
そう言ってしのぶはカナヲの横を通って、自室の方へ戻って行った。
しばらく名前の個室の扉と、しのぶが去っていった方を見比べたあと、自身の持つ硬貨をじっと見つめた。
表、と書かれた硬貨は最後に投げた時から変わらない。
(自分の心の声を聞く…。)
カナヲは硬貨をしまい、名前の部屋の扉の前に立った。
一度深呼吸を行い、扉を叩く。
優しい声に迎えられて、たどたどしくカナヲが話し出すまで、あと数十秒。