2章
おなまえ
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「な…なん、で……?」
名前はカナヲの腕を自身から遠ざけようと、弱い力で押し返した。
苦しそうに涎を垂らしながらも、名前はカナヲを食べることを拒否したのだ。
その仕草にカナヲは心底驚いた。
(この状態で、血の匂いに惹かれないの?どうして鬼なのに食べることを拒否するの?)
カナヲは目の前の光景を信じることが出来なかった。
そんなカナヲを見ることなく、名前はヴーッと唸り、貧血状態にも関わらず自分の腕を引っ掻いた。
すると、名前を取り囲むように藤の花が咲いた。
カナヲは警戒するように刀を抜いたが、名前がカナヲに襲いかかることは無く、むしろその藤の花が名前をさらに苦しめているようだった。
「グガァァァアアアアアア!!」
名前は人としての意識を失いながらも、自らの血気術、藤花ノ宴を発動させたのである。
目の前の人間への食欲よりも、人間として生きたい欲が勝ったからこそ、藤花ノ宴で自分の気を失わせようとしたのだ。
呻き声を上げながらもがく名前を、カナヲは息も出来ずに見つめていた。
そのうち、ぷつりと糸が切れた様に力を失い名前はその場に倒れ込んだ。
倒れ込むと同時に、藤の花も姿を消した。
カナヲはその場から動けないまま、死んでしまったかのような名前を見つめた。
(食べるのを拒否したどころか、自分の命を削るかのような行為…。鬼なのに、どうして?もしかして、鬼の中に人間の意識が宿っているの?)
恐る恐る名前に近づき、カナヲが名前に触れようとした瞬間、ぽんっと優しく肩を叩かれた。
ばっと後ろを振り返るとそこには、
「師範……!」
困ったような笑みを浮かべたしのぶが、音もなく後ろに現れていた。
「カナヲ、随分無茶をしましたね。」
しのぶはちらりとカナヲの腕の傷を見た。
カナヲはすぐさま刀を鞘に収め、焦った表情を浮かべた。
「ご、ごめんなさい…。勝手なことをしました。」
「そうですね、困ったものです。」
「……………。」
カナヲはだらだらと冷や汗をかき、しのぶの目を見れずに足元を見つめる。
(指示以外のことをしてしまった。どうしよう、どうしよう…。)
カナヲの心の内を察してか、しのぶは少しだけくすりと笑った。
「自分自身を傷つけるなんて許しませんよ。傷が残ったらどうするんですか?」
「え……?」
しのぶの言葉にぱっと顔を上げ、カナヲはその表情を見た。
慈愛に満ちた、優しい顔をしたしのぶがそこにいた。
それを見て、カナヲは力が抜けたようにその場に座り込んだ。
「カナヲが何か考えて行動するようになって私は嬉しいです。名前さんのことも、カナヲがここまで体を張ってくれたことで完全に疑いは晴れました。ありがとうございます。でも、自分の体は大切にしてくださいね、女の子なんですから。」
茶目っ気に笑うしのぶに、カナヲはもう一度だけごめんなさい、と呟いた。
そんなカナヲの頭を優しく撫で、しのぶは名前の元へ向かった。
その二日後、名前の目が覚めた。
与えられた個室の布団に寝かされていて、常に名前を見張っていたカナヲの姿はそこにはなかった。
(あれ、私…いつから眠っていたんだろ…?)
名前の記憶は一週間前で止まっていた。
人の言語が話せなくなった時、名前の人間としての意識は名前の意識の奥底へ眠ってしまっていたのである。
そのため、名前自身はしのぶやカナヲを物欲しそうに見つめたことも、カナヲの血だらけの腕を突きつけられたことも全く覚えていなかった。
横を見ると点滴が自分に刺さっており、そこから血が供給されているのが分かった。
(点滴?あれ、もう採血とかは終わったのかな?)
名前が不思議そうに点滴を見つめていると、コンコンっと扉が叩かれ、しのぶが現れた。
「名前さん!良かったです、お目覚めになられて。体の方はどうですか?」
「あ、いえ、何ともないです。」
「本当に良かった…。」
しのぶは名前の横に腰掛け、ほっとしたように笑った。
名前はしのぶが心配している理由がわからないので、曖昧な表情を浮かべた。
その様子の名前を見て、しのぶはゆっくりと話し始めた。
「まずは、名前さんに謝らなければいけません。無理をさせてしまいすみませんでした。」
「へっ!?いえ、無理なんてそんな…。」
「今回、貴女が本当に人を食べない鬼なのか確認するために、摂取量以上の採血や実験を行わせていただきました。医療に携わる人間として、最低なことをしてしまったことをお詫びさせてください。」
しのぶは頭を下げ、名前が何を言ってもしばらく頭を上げることは無かった。
顔を上げた時、しのぶの表情は覚悟を決めたものになっていた。
「名前さんへ正式にお願いします。私達の力になってもらえないでしょうか。」
名前の瞳に自分の真剣な表情が写り、しのぶは自分自身を見つめ返した。
名前はカナヲの腕を自身から遠ざけようと、弱い力で押し返した。
苦しそうに涎を垂らしながらも、名前はカナヲを食べることを拒否したのだ。
その仕草にカナヲは心底驚いた。
(この状態で、血の匂いに惹かれないの?どうして鬼なのに食べることを拒否するの?)
カナヲは目の前の光景を信じることが出来なかった。
そんなカナヲを見ることなく、名前はヴーッと唸り、貧血状態にも関わらず自分の腕を引っ掻いた。
すると、名前を取り囲むように藤の花が咲いた。
カナヲは警戒するように刀を抜いたが、名前がカナヲに襲いかかることは無く、むしろその藤の花が名前をさらに苦しめているようだった。
「グガァァァアアアアアア!!」
名前は人としての意識を失いながらも、自らの血気術、藤花ノ宴を発動させたのである。
目の前の人間への食欲よりも、人間として生きたい欲が勝ったからこそ、藤花ノ宴で自分の気を失わせようとしたのだ。
呻き声を上げながらもがく名前を、カナヲは息も出来ずに見つめていた。
そのうち、ぷつりと糸が切れた様に力を失い名前はその場に倒れ込んだ。
倒れ込むと同時に、藤の花も姿を消した。
カナヲはその場から動けないまま、死んでしまったかのような名前を見つめた。
(食べるのを拒否したどころか、自分の命を削るかのような行為…。鬼なのに、どうして?もしかして、鬼の中に人間の意識が宿っているの?)
恐る恐る名前に近づき、カナヲが名前に触れようとした瞬間、ぽんっと優しく肩を叩かれた。
ばっと後ろを振り返るとそこには、
「師範……!」
困ったような笑みを浮かべたしのぶが、音もなく後ろに現れていた。
「カナヲ、随分無茶をしましたね。」
しのぶはちらりとカナヲの腕の傷を見た。
カナヲはすぐさま刀を鞘に収め、焦った表情を浮かべた。
「ご、ごめんなさい…。勝手なことをしました。」
「そうですね、困ったものです。」
「……………。」
カナヲはだらだらと冷や汗をかき、しのぶの目を見れずに足元を見つめる。
(指示以外のことをしてしまった。どうしよう、どうしよう…。)
カナヲの心の内を察してか、しのぶは少しだけくすりと笑った。
「自分自身を傷つけるなんて許しませんよ。傷が残ったらどうするんですか?」
「え……?」
しのぶの言葉にぱっと顔を上げ、カナヲはその表情を見た。
慈愛に満ちた、優しい顔をしたしのぶがそこにいた。
それを見て、カナヲは力が抜けたようにその場に座り込んだ。
「カナヲが何か考えて行動するようになって私は嬉しいです。名前さんのことも、カナヲがここまで体を張ってくれたことで完全に疑いは晴れました。ありがとうございます。でも、自分の体は大切にしてくださいね、女の子なんですから。」
茶目っ気に笑うしのぶに、カナヲはもう一度だけごめんなさい、と呟いた。
そんなカナヲの頭を優しく撫で、しのぶは名前の元へ向かった。
その二日後、名前の目が覚めた。
与えられた個室の布団に寝かされていて、常に名前を見張っていたカナヲの姿はそこにはなかった。
(あれ、私…いつから眠っていたんだろ…?)
名前の記憶は一週間前で止まっていた。
人の言語が話せなくなった時、名前の人間としての意識は名前の意識の奥底へ眠ってしまっていたのである。
そのため、名前自身はしのぶやカナヲを物欲しそうに見つめたことも、カナヲの血だらけの腕を突きつけられたことも全く覚えていなかった。
横を見ると点滴が自分に刺さっており、そこから血が供給されているのが分かった。
(点滴?あれ、もう採血とかは終わったのかな?)
名前が不思議そうに点滴を見つめていると、コンコンっと扉が叩かれ、しのぶが現れた。
「名前さん!良かったです、お目覚めになられて。体の方はどうですか?」
「あ、いえ、何ともないです。」
「本当に良かった…。」
しのぶは名前の横に腰掛け、ほっとしたように笑った。
名前はしのぶが心配している理由がわからないので、曖昧な表情を浮かべた。
その様子の名前を見て、しのぶはゆっくりと話し始めた。
「まずは、名前さんに謝らなければいけません。無理をさせてしまいすみませんでした。」
「へっ!?いえ、無理なんてそんな…。」
「今回、貴女が本当に人を食べない鬼なのか確認するために、摂取量以上の採血や実験を行わせていただきました。医療に携わる人間として、最低なことをしてしまったことをお詫びさせてください。」
しのぶは頭を下げ、名前が何を言ってもしばらく頭を上げることは無かった。
顔を上げた時、しのぶの表情は覚悟を決めたものになっていた。
「名前さんへ正式にお願いします。私達の力になってもらえないでしょうか。」
名前の瞳に自分の真剣な表情が写り、しのぶは自分自身を見つめ返した。