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2章

おなまえ

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苗字
名前

蝶屋敷に来て二週間。
しのぶの予定通り、名前は毎日の採血と鬼の体を使用しての実験を繰り返していた。
その結果名前はすっかり疲弊し、与えられた個室で横になっていた。

(思ってた以上に辛い。実験のせいもあって自分の血が不足しているのが分かる…。)

遊郭での戦いの時のように、体に上手く力が入らない状態になっていた。
そんな名前を、じっと見張る人物がいた。
しのぶの継子、栗花落カナヲである。
カナヲは表情を一度も変えることなく、名前を見つめ続けていた。
最初は部屋の中に他人がいることで落ち着かなかった名前だったが、だんだんと慣れ、時たま話しかけるようにしていた。
しかしカナヲが返事をすることは無く、何を考えているのかわからない表情で見つめ返されるだけだった。
そのうち名前も諦め、話しかけることは無くなった。



動かない名前を見ながら、カナヲは考えていた。

(どうしてこの鬼を生かしておくんだろう?師範の言っていた実験も、既にある程度の成果が出ているはず。こんなに弱った鬼を斬ることは容易いし、わざわざここで世話をする必要があるのだろうか。)

ぼうっと考えながらも、カナヲは常に目の前の鬼が不自然な動きをしたら斬る準備が出来ていた。

(まぁいいや。私は師範の指示に従うまで。)

カナヲはそう思い、今日も名前を見張った。




さらに一週間後。
名前は完全に飢餓状態となった。
珠世からの輸血も、カナヲが見張る中では受け取ることが出来ず、毎日の多量出血が名前を追い詰めていた。
だんだんと会話も出来なくなり、しのぶやカナヲを物欲しそうな目で見ることも増えてきていた。
しのぶはその様子を見て、そろそろ限界であることを悟った。

(これ以上、彼女を追い詰めることは出来ませんね。この状態でも誰にも噛みつかないことが一番の証拠。今夜を乗り切ったら解放しましょう。)

しのぶは毎日の採血と名前の体を使った研究を重ねるだけではなく、実は藤の花の毒も少しだけ名前に飲ませていた。
その影響で体はどんどん弱り、3週間という短い期間で飢餓状態にすることが出来たのである。
しかしそれでも、名前はしのぶに襲いかかることはなかった。
今もヴーッと呻き声をあげるものの、大人しくしている。
名前の中の人間の部分が、鬼の本能を押さえ込んでいるのだ。


「カナヲ。」
「はい、師範。」
名前さんを見張るのは今日で最後ね。」

後ろに控えていたカナヲに名前を預け、しのぶは部屋をあとにした。






しのぶが出て行った部屋で、カナヲは名前をじっと見つめていた。
名前はフーッフーッと苦しそうに息をしていた。

(今日で最後?これでこの鬼は解放されてしまうってこと?)

カナヲの目には、名前は食欲を我慢している鬼にしか見えなかった。
人間、には全く見えなかった。

(もし、もしこの鬼が師範を恨んで襲いかかってきたらどうする?今ここで仕留めないと、私達に危害が与えられる可能性があるんじゃ?でも師範は、この鬼が人を襲わないと判断した。だから今日で解放する。その命令には従わないと…。でも、でも万が一何かあったら…?)

カナヲはぐるぐると考えを巡らせる。
棒立ちになりながら、カナヲは苦しそうな名前を見つめる。
そのとき、ふっと頭の中にある言葉が思い浮かんだ。



『カナヲの心のままに行動する』



その言葉と共に優しげな笑顔が頭をよぎる。
そしてその瞬間、しばらく合うことのなかった視線が絡んだ。
カナヲが見たのは、人を食べる鬼の目だった。


その目を見てすぐにカナヲは自身の腕に刀で傷を作った。
ぽたぽたと血が流れ出す。
人の血の匂いに、名前は瞬時に反応した。

「ガァァァアアア!」

力なく倒れ込んでいた名前だったが、すぐに体を起こしカナヲを物欲しそうに見つめた。
その様子にカナヲは初めて表情を崩し、にたりと笑った。

「どうしたの?食べたかったら噛みつきに来ていいよ。貴女、鬼なんだから。」

名前は口からぼたぼたと涎を垂らした。
滴り落ちる血から目を離すことが出来なかった。

「貴女は鬼なの。その運命から逃れることは出来ないの、本当に可哀想。それが嫌ならさっさと終わらせてしまった方が良いでしょう?」

カナヲは一歩一歩名前に近づき、目の前に腕を差し出した。

「ほら、これに噛み付けば貴女のこと終わらせてあげるから。」

笑顔で言うカナヲの表情を見ることなく、名前はその腕に向かって体を動かした。
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