1章
おなまえ
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「最近、あそこから死体が消えてるんですってね。」
「そうらしいわね。でも何故か罪人の死体ばかりらしいわよ!」
「気味が悪いわよね、どうして消えるのかしら…?」
「そうね…。でも、どこの誰かわからないこの村に関係のない人ばかりなのでしょう?この辺りに家族がいる人じゃないし…。」
「不気味な話だけど、お役人さんたちも正直助かってるって言ってたわ。葬儀もしないような悲しむ人がいない人間の墓を作る必要がなくなって仕事が減るって!」
鼓の屋敷での戦いの後、炭治郎、善逸、伊之助たち三人は藤の花の家紋の家で休息をとっていた。
あと数日で完治だろうと医者に言われ、僅かな休息の時間を利用し、近くの町を訪れていた。
そんな中、善逸は自身の耳に入ったのある噂話を二人に話していた。
「なるほど…死体が消えているのか…。」
「なるほど…じゃねぇぇえええ!!
聞いてた!?俺の話!!死体が!消えてるの!!
つまり死体が自分で動いて消えてるってことでしょう!?
お化けじゃない!絶対にお化けじゃないこんなの!!
いぃぃぃぃやぁぁぁぁぁああああ!!」
「うっせーな紋逸!!」
炭治郎は真剣に頷いて聞いていたが、善逸は叫びだし、伊之助は耳を塞ぎながら善逸に怒鳴っていた。
鎹鴉から鬼の情報は来ていないが、炭治郎も鼻を利かせ気配を探った。
「そうだな…確かになんだか奇妙な匂いはするな…。鬼か…?」
「もう鬼でもお化けでもどっちでもいいよぉ!
炭治郎、もうこの町から出よう!!帰ろうよぉ!!」
善逸は泣きながら炭治郎の袖を引っ張った。
そんな善逸と対照的に、伊之助は自慢の2本の刀を構えながら言った。
「何ィ!鬼がいんのか!どこだ!?どこだ紋治郎!」
「俺は炭治郎だ!!」
善逸、伊之助と会話をしながら、炭治郎は不思議に思っていた。
(鬼の匂いと似ている…?今まで嗅いだことの無い匂いだ…。)
初めて嗅ぐ匂いの正体を突き止めるため、炭治郎は二人に言った。
「念のため、今晩その死体が消えた場所に行ってみよう。
鴉も何も言っていないし、人が襲われているわけでもないから、鬼じゃない可能性もあるが…。」
その日の晩。
炭治郎と伊之助は藤の花の家紋の家から出て、再び町へ下りてきていた。
「紋逸の野郎、本当に弱味噌だぜ!」
「伊之助!今回は任務じゃないし俺が気になっただけだから、善逸に無理はさせられないよ。」
善逸は町に下りるのを拒否した。
本人曰く、鬼だったら自分が殺されるし、お化けだったら尚更殺されるとのことだった。
炭治郎としては、善逸にも奇妙な匂いの正体の音を聞いてほしかったが、任務ではないことを強制するという選択肢は炭治郎の中にはなかった。
(鬼でなければ問題ない。
ただ、鬼だった場合、何故『生きている人間』ではなくわざわざ『死体』を食べるんだ?)
炭治郎は考えながら、死体が消えているというこの町の死体安置所へ足を進めた。
死体安置所はひっそりとしていた。
昼間、町の人に聞き込みをした時も言っていたが、特に見張りの人間などもいないようだ。
「誰もいないぜ、鬼なんていねぇじゃねぇか!」
伊之助はぷんすか怒り、刀を振り回す。
伊之助の言う通り、見渡す限り死体が横たわっているだけだった。
どの死体にも布がきちんとかぶせられ、荒らされた様子もなかった。
しかし炭治郎はその場に残る匂いと感じる違和感を拭えなかった。
(何か…変じゃないか……?)
「伊之助、俺はちょっと入口の方を見てくる。」
「ふん!勝手にしたらいいんじゃねェの!」
不貞腐れている伊之助をその場に残し、炭治郎は入口へ戻った。
(あれ?)
炭治郎が入口の戻ると、一人の女性が急いで立ち去るところだった。
その匂いは、ずっと感じていた鬼に近い匂いだった。
「あの!」
炭治郎はその女性を追いかけ、腕をつかみ声をかけた。
振り向いた女性は、名前であった。
(まずい…!鬼狩りだ……!)
名前は鬼滅隊の隊服を傍目に捉えると、急いでこの場をあとにしようとした。
しかし腕を掴まれこの場を離れることは叶わなかった。
名前はどうにかここから逃げ出す方法を瞬時に考え、人間のフリをすることにした。
意を決して振り向き、目の前に立つと鬼狩りと目を合わせた。
(私と同い年くらいの男の子だ…。
今まで会ってきた鬼狩りの中では一番若いかもしれない…。)
「何か、私に御用でしょうか?」
目の前の少年の若さに驚きつつも、落ち着きを払って返答した。
名前の人間のイメージは母親だった。
母親は常に笑顔で誰からも好かれる愛想の良い人だった。
その真似をして、名前は困ったような笑顔を携えながら見つめ返した。
名前の鬼とも人間とも違う匂いに戸惑っていた炭治郎だったが、人間らしい表情に尚更戸惑いを覚えた。
「えっと…この死体安置所から死体が消えているそうで…。怪しい人物を見かけませんでしたか?」
「ごめんなさい、私この町の者じゃなくて…。今朝この町についたばかりなんです。」
「あ、そうなんですね!すみません、いきなりこんな話をして…。」
炭治郎は素直に頭を下げると、女性は顔を上げてくださいと慌てて言った。
普通の人間同士のやり取りに、炭治郎は考えすぎだったかと息を吐いた。
「しかし、こんな時間に女性の一人歩きは感心しません!宿まで送ります!」
炭治郎は意気揚々と言ったが、その申し出に女性は首を振った。
「いえ、もうこの角を曲がったところが宿なので。
お心遣いありがとうございます。」
女性はぺこりと一礼し、角を曲がった。
炭治郎は女性が角を曲がったところまで見送り、安心した直後、
「!」
炭治郎は女性を追いかけて角を曲がった。
そこには、
「どこに行った……!?」
先ほどまで話していた女性どころか、宿など存在していなかった。
(あの女性はやはり人間ではなかった…!
でもあの匂いは鬼とも違う…。
どちらかと言えば珠世さんや愈史郎さんたちに近いような…。)
炭治郎は匂いを追おうとしたが、何故かその場に残る強い藤の花の香りで匂いがかき消されていた。