1章
おなまえ
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「いつまで俺を抱えてんだゴラァ!!」
ドカっと名前の脇腹を殴り、名前の腕から伊之助が抜け出した。
おそらく山を二つほど超えただろう。
もう、柱は追ってきてはいなかった。
「な、何するんですか!」
殴られた腹を抑え、名前はキッと伊之助を睨みつける。
「こっちの台詞だ!何逃げ出してんだよ!!俺はあの風のオッサンとやり合いたかったんだよ!!」
ムキーッ!と伊之助が怒りを露わにする。
名前は目を見開き伊之助に怒鳴る。
「貴方じゃ勝てないでしょう!自分でもわかってるくせに!」
「あァ!?おめェに何が分かんだよ!てかおめェこそ何殺されそうになってんだよ!!せっかく救われた命だろ!?」
「私だって言ったわ。でも聞き入れてもらえなかったの!ていうか貴方の上官でしょ!?どうなってるのよ鬼殺隊!!」
「知るか!!おめェが自分の命も守れねぇ弱味噌なのが悪ィんじゃねぇのか!!」
名前も伊之助も立場を忘れ、激しく言い争った。
しかし、伊之助の最後の一言に名前は口を噤んだ。
言い返せなかったのだ。
急に黙り込んだ名前に伊之助は少しだけ警戒する。
(なんで急に黙ったんだ…?)
伊之助は名前の心情がさっぱりわからなかった。
任務の後、山の近くを通りかかり強い者の気配を感じとった伊之助は、自分より強い者と戦うという本能に従い、山へ踏み入れた。
すると、風柱である不死川実弥と自らが一度殺しにかかった鬼がいた。
あの鬼は炭治郎から味方であると教えられただけでなく、無限列車で共に煉獄を救おうとし、そして煉獄に救われた鬼であった。
煉獄の死は伊之助に大きな影響を与えていた。
煉獄の意思に応え、強くなって生きていく。
伊之助はそれを自分自身だけでなく、あの場に居合わせた炭治郎や善逸、そして名前もそうすべきだと思ったのだ。
「私は…弱い。何も出来ない。煉獄さんにも…貴方にも守られて…。それを返すことさえ出来なかった。」
名前が自身に言い聞かせるかのような言葉を吐いた時、伊之助は何言ってんだコイツ、と思った。
「お前まだ下向いてんのか。」
「え…?」
伊之助の言葉に名前は顔を上げる。
目の前に立つ伊之助がどんな表情をしているかは、猪の顔で覆われさっぱり分からなかった。
その場でしゃがみこんでいる名前の近くに寄り、視線を合わせるかのように伊之助もしゃがんだ。
「生き延びたなら、生きていくしかねーんだよ。あいつはおめェを守るためだけに死んだわけじゃねェ。恩を返されるために生きようとしたわけじゃねェ。」
伊之助は淡々と言う。
「俺たちに託したんだ、生きることを!無惨を倒すことを!ウジウジ悩んでる暇あったら生きて無惨を倒すために修行しやがれ!!」
伊之助の言葉に、名前はほろりと涙を流した。
その様子に伊之助は驚き、名前から一歩離れる。
(煉獄さんに何も返せないまま、逝ってしまったと思っていた。私が無力なばかりに。)
ひとつ、またひとつと涙が零れる。
(鬼である私を認めようとしてくれていた。…それなのに同類である鬼が煉獄さんを殺してしまった。煉獄さんは私を認めたことを後悔してるんじゃないかと思っていた。)
名前の目からは涙が止まらなかった。
(でも、そんな人じゃ、ない。)
死ぬ直前に向けた、名前への笑み。
誇り高く、伊之助の言う通り『生きることを託す』ような人。
名前はただただ、悲しかったのだ。
自分を認め、鬼となった私にも人間の尊厳を与えてくれた煉獄という男に、もう会えず話すことも出来ないことが悲しかった。
ひとつの人間の死が、名前の心を乱していたのだ。
煉獄が死んで、名前は初めて涙を流した。
わんわんと、大声で泣きわめいたのだった。
一通り泣き終えて顔を上げると、何故かまだ伊之助がいた。
とっくに居なくなっていると思っていたため、名前は心底驚いた。
「ご…ごめんなさい!」
名前は急いで謝った。
こんな醜態を晒したことと、怒りとはいえ怒鳴り散らしてしまったこと、そして自分を待っていてくれたことに対して謝ったのだ。
伊之助はフン、と言いつつも、やる!と言ってピカピカのどんぐりを差し出してきた。
名前がそれを受け取ると満足そうにした。
「それにしても、おめェ本当に弱いな。そんなんじゃ俺様どころか、他の鬼とかに殺られちまうんじゃねぇの?」
伊之助の言葉にぐうの音も出ない名前。
そんな名前に対して伊之助はフフン、と得意そうにすると、きょろきょろと何かを探し始めた。
近くに切り株があるのを見つけると、その上に堂々と立った。
「この嘴平伊之助様の子分にしてやる!おめェが死なないために、この俺様直々に鍛えてやらァ!」
名前はぽかんとその様子を見つめ、開いた口が塞がらなかった。
ドカっと名前の脇腹を殴り、名前の腕から伊之助が抜け出した。
おそらく山を二つほど超えただろう。
もう、柱は追ってきてはいなかった。
「な、何するんですか!」
殴られた腹を抑え、名前はキッと伊之助を睨みつける。
「こっちの台詞だ!何逃げ出してんだよ!!俺はあの風のオッサンとやり合いたかったんだよ!!」
ムキーッ!と伊之助が怒りを露わにする。
名前は目を見開き伊之助に怒鳴る。
「貴方じゃ勝てないでしょう!自分でもわかってるくせに!」
「あァ!?おめェに何が分かんだよ!てかおめェこそ何殺されそうになってんだよ!!せっかく救われた命だろ!?」
「私だって言ったわ。でも聞き入れてもらえなかったの!ていうか貴方の上官でしょ!?どうなってるのよ鬼殺隊!!」
「知るか!!おめェが自分の命も守れねぇ弱味噌なのが悪ィんじゃねぇのか!!」
名前も伊之助も立場を忘れ、激しく言い争った。
しかし、伊之助の最後の一言に名前は口を噤んだ。
言い返せなかったのだ。
急に黙り込んだ名前に伊之助は少しだけ警戒する。
(なんで急に黙ったんだ…?)
伊之助は名前の心情がさっぱりわからなかった。
任務の後、山の近くを通りかかり強い者の気配を感じとった伊之助は、自分より強い者と戦うという本能に従い、山へ踏み入れた。
すると、風柱である不死川実弥と自らが一度殺しにかかった鬼がいた。
あの鬼は炭治郎から味方であると教えられただけでなく、無限列車で共に煉獄を救おうとし、そして煉獄に救われた鬼であった。
煉獄の死は伊之助に大きな影響を与えていた。
煉獄の意思に応え、強くなって生きていく。
伊之助はそれを自分自身だけでなく、あの場に居合わせた炭治郎や善逸、そして名前もそうすべきだと思ったのだ。
「私は…弱い。何も出来ない。煉獄さんにも…貴方にも守られて…。それを返すことさえ出来なかった。」
名前が自身に言い聞かせるかのような言葉を吐いた時、伊之助は何言ってんだコイツ、と思った。
「お前まだ下向いてんのか。」
「え…?」
伊之助の言葉に名前は顔を上げる。
目の前に立つ伊之助がどんな表情をしているかは、猪の顔で覆われさっぱり分からなかった。
その場でしゃがみこんでいる名前の近くに寄り、視線を合わせるかのように伊之助もしゃがんだ。
「生き延びたなら、生きていくしかねーんだよ。あいつはおめェを守るためだけに死んだわけじゃねェ。恩を返されるために生きようとしたわけじゃねェ。」
伊之助は淡々と言う。
「俺たちに託したんだ、生きることを!無惨を倒すことを!ウジウジ悩んでる暇あったら生きて無惨を倒すために修行しやがれ!!」
伊之助の言葉に、名前はほろりと涙を流した。
その様子に伊之助は驚き、名前から一歩離れる。
(煉獄さんに何も返せないまま、逝ってしまったと思っていた。私が無力なばかりに。)
ひとつ、またひとつと涙が零れる。
(鬼である私を認めようとしてくれていた。…それなのに同類である鬼が煉獄さんを殺してしまった。煉獄さんは私を認めたことを後悔してるんじゃないかと思っていた。)
名前の目からは涙が止まらなかった。
(でも、そんな人じゃ、ない。)
死ぬ直前に向けた、名前への笑み。
誇り高く、伊之助の言う通り『生きることを託す』ような人。
名前はただただ、悲しかったのだ。
自分を認め、鬼となった私にも人間の尊厳を与えてくれた煉獄という男に、もう会えず話すことも出来ないことが悲しかった。
ひとつの人間の死が、名前の心を乱していたのだ。
煉獄が死んで、名前は初めて涙を流した。
わんわんと、大声で泣きわめいたのだった。
一通り泣き終えて顔を上げると、何故かまだ伊之助がいた。
とっくに居なくなっていると思っていたため、名前は心底驚いた。
「ご…ごめんなさい!」
名前は急いで謝った。
こんな醜態を晒したことと、怒りとはいえ怒鳴り散らしてしまったこと、そして自分を待っていてくれたことに対して謝ったのだ。
伊之助はフン、と言いつつも、やる!と言ってピカピカのどんぐりを差し出してきた。
名前がそれを受け取ると満足そうにした。
「それにしても、おめェ本当に弱いな。そんなんじゃ俺様どころか、他の鬼とかに殺られちまうんじゃねぇの?」
伊之助の言葉にぐうの音も出ない名前。
そんな名前に対して伊之助はフフン、と得意そうにすると、きょろきょろと何かを探し始めた。
近くに切り株があるのを見つけると、その上に堂々と立った。
「この嘴平伊之助様の子分にしてやる!おめェが死なないために、この俺様直々に鍛えてやらァ!」
名前はぽかんとその様子を見つめ、開いた口が塞がらなかった。