1章
おなまえ
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(あの人が私に向けてくれた笑顔が忘れられない。)
名前は一人、暗い山の中にいた。
煉獄が死んで数日、ぐちゃぐちゃの感情の中ひたすら山を徘徊していた。
鬼殺隊、ましてや柱から自分に向けられたあの笑顔は、鬼に対するものでは無かった。
さらに言えば、あの場で名前を拘束すれば陽の光で消滅させることも出来たのだ。
しかしあの柱はそんなことしなかった。
「どうして、私を生かそうとしてくれたんですか…。煉獄さん。」
炭治郎が呼んでいた、柱の名前を呟く。
名前はますます鬼殺隊が分からなくなった。
炭治郎、善逸、伊之助、煉獄。
伊之助は初めて会った時には名前を殺そうとしたものの、そのあとは一度も名前を襲わなくなった。
つまり、出会ってきた四人の鬼殺隊は自分を殺そうとしない。
鬼殺隊に対する疑問、煉獄の行動、そしてこの感情。
名前は頭の中がパンクしそうだった。
そんな名前がいくつもの山を超えて見つけたのは、小さな村だった。
日が落ちた時間にもかかわらず、やせ細った村人が何人も入口に立っていた。
そして名前の姿を見かけると、ぱぁっと表情を明るくさせて名前の方に走ってきた。
「こんばんは!旅の方ですか!!」
「こんな時間までご苦労なことだ、ぜひうちの村で休んでいってください!」
「美味しいご馳走もお出ししますわ!」
数人の村人が名前を取り囲み、一斉に話しかけられる。
名前の見た目は人間と同じのため、鬼殺隊や勘のいい人間、同種の鬼でない限り鬼と気づかれないことが多い。
ここの村人も名前のことを人間と思い込んでいるようだ。
わらわらと村人が集まり、名前の手を引いて村を案内する。
「あ、あの、せっかくのお誘いなんですけど…私、先を急ぐので……。」
人間の近くにいて食べてしまったらと思うと、村に留まることなど名前はできなかった。
名前の断りの言葉を聞くと、村人たちはさっと顔色を変えた。
「いや!一泊でいいのでぜひ!」
「夜になるとこの辺りは鬼が出るんです、危ないですから!」
焦ったように名前の腕を離すもんかとぎゅっと掴む村人達。
(いや、鬼、ここにいるんだけどな…。)
名前は困ったように笑い、どう断ろうか迷っていた。
村人達は名前を必死に引き留めようと、色々と言葉をかけていた。
そんなとき、一人の村人が名前から離れて駆けて行った。
「村長!!」
村の中で最も大きな家から、老人がゆっくりと出てきた。
それに気づくと村人達はみんな、村長、と言って老人の元に寄って行った。
「村長、体調が良くないのに出てきてはいけません!お体に触ります!」
村の女性は村長に向かって心配そうに言った。
村長は苦しそうに咳をして、名前を見つめて言った。
「こんばんはお嬢さん。村のものが失礼をしたね。」
「いえ、そんなことはないです!」
「皆、旅の人が来ると喜んでしまってつい引き止めてしまったのじゃよ。無礼を許しておくれ。」
村長のその言葉に名前はブンブンと首を振る。
「歓迎を受けることに慣れていなくて、お気持ちは凄く嬉しいです。」
名前のその言葉に村長はほっとした顔を見せた。
「一泊は難しいとのことじゃが、この老いぼれに村の外の話だけでも聞かせてもらえないかのぅ」
名前はこの誘いを断ることは出来なかった。
これ以上断り続けることに良心が痛んだのだ。
旅の話を聞きたいだけにしては、必死に引き止めていた村人達の様子には少しだけ疑問を抱いたものの、あたたかい歓迎は名前の気持ちを少しだけ浮上させた。
村長の家に招かれ、村の女性達が作ったという名産の飲み物を渡された。
不思議な香りのする紫色の飲み物で、特別な祝いでない限り飲まないものだという。
(それぞれの地域で色んな文化があるんだな…。)
名前は飲み物を見ながらぼんやりと思った。
自分の家があったところでも、と思い出そうとした時、ふとその記憶が薄れていることに気がついた。
(あれ、なんだっけ…思い出せない……。)
鬼でいる時間が長ければ長いほど、人間だった頃の記憶を失うと珠世が言っていた。
名前はまた自分が人間から鬼に近づいたと感じた。
その名前の思いも露知らず、名前を人間だと思い込んでいる村長の声が響いた。
「この村に久方振りのお客様じゃ。様々な話を聞き村の発展に役立たてようぞ。では、皆の者。乾杯。」
村長の声を皮切りにその場にいる全員が手に持っている飲み物を飲み干した。
名前もそれに習い、ぐいっと飲み干す。
そこでぷつんと、名前の意識は途絶えたのだった。
名前は一人、暗い山の中にいた。
煉獄が死んで数日、ぐちゃぐちゃの感情の中ひたすら山を徘徊していた。
鬼殺隊、ましてや柱から自分に向けられたあの笑顔は、鬼に対するものでは無かった。
さらに言えば、あの場で名前を拘束すれば陽の光で消滅させることも出来たのだ。
しかしあの柱はそんなことしなかった。
「どうして、私を生かそうとしてくれたんですか…。煉獄さん。」
炭治郎が呼んでいた、柱の名前を呟く。
名前はますます鬼殺隊が分からなくなった。
炭治郎、善逸、伊之助、煉獄。
伊之助は初めて会った時には名前を殺そうとしたものの、そのあとは一度も名前を襲わなくなった。
つまり、出会ってきた四人の鬼殺隊は自分を殺そうとしない。
鬼殺隊に対する疑問、煉獄の行動、そしてこの感情。
名前は頭の中がパンクしそうだった。
そんな名前がいくつもの山を超えて見つけたのは、小さな村だった。
日が落ちた時間にもかかわらず、やせ細った村人が何人も入口に立っていた。
そして名前の姿を見かけると、ぱぁっと表情を明るくさせて名前の方に走ってきた。
「こんばんは!旅の方ですか!!」
「こんな時間までご苦労なことだ、ぜひうちの村で休んでいってください!」
「美味しいご馳走もお出ししますわ!」
数人の村人が名前を取り囲み、一斉に話しかけられる。
名前の見た目は人間と同じのため、鬼殺隊や勘のいい人間、同種の鬼でない限り鬼と気づかれないことが多い。
ここの村人も名前のことを人間と思い込んでいるようだ。
わらわらと村人が集まり、名前の手を引いて村を案内する。
「あ、あの、せっかくのお誘いなんですけど…私、先を急ぐので……。」
人間の近くにいて食べてしまったらと思うと、村に留まることなど名前はできなかった。
名前の断りの言葉を聞くと、村人たちはさっと顔色を変えた。
「いや!一泊でいいのでぜひ!」
「夜になるとこの辺りは鬼が出るんです、危ないですから!」
焦ったように名前の腕を離すもんかとぎゅっと掴む村人達。
(いや、鬼、ここにいるんだけどな…。)
名前は困ったように笑い、どう断ろうか迷っていた。
村人達は名前を必死に引き留めようと、色々と言葉をかけていた。
そんなとき、一人の村人が名前から離れて駆けて行った。
「村長!!」
村の中で最も大きな家から、老人がゆっくりと出てきた。
それに気づくと村人達はみんな、村長、と言って老人の元に寄って行った。
「村長、体調が良くないのに出てきてはいけません!お体に触ります!」
村の女性は村長に向かって心配そうに言った。
村長は苦しそうに咳をして、名前を見つめて言った。
「こんばんはお嬢さん。村のものが失礼をしたね。」
「いえ、そんなことはないです!」
「皆、旅の人が来ると喜んでしまってつい引き止めてしまったのじゃよ。無礼を許しておくれ。」
村長のその言葉に名前はブンブンと首を振る。
「歓迎を受けることに慣れていなくて、お気持ちは凄く嬉しいです。」
名前のその言葉に村長はほっとした顔を見せた。
「一泊は難しいとのことじゃが、この老いぼれに村の外の話だけでも聞かせてもらえないかのぅ」
名前はこの誘いを断ることは出来なかった。
これ以上断り続けることに良心が痛んだのだ。
旅の話を聞きたいだけにしては、必死に引き止めていた村人達の様子には少しだけ疑問を抱いたものの、あたたかい歓迎は名前の気持ちを少しだけ浮上させた。
村長の家に招かれ、村の女性達が作ったという名産の飲み物を渡された。
不思議な香りのする紫色の飲み物で、特別な祝いでない限り飲まないものだという。
(それぞれの地域で色んな文化があるんだな…。)
名前は飲み物を見ながらぼんやりと思った。
自分の家があったところでも、と思い出そうとした時、ふとその記憶が薄れていることに気がついた。
(あれ、なんだっけ…思い出せない……。)
鬼でいる時間が長ければ長いほど、人間だった頃の記憶を失うと珠世が言っていた。
名前はまた自分が人間から鬼に近づいたと感じた。
その名前の思いも露知らず、名前を人間だと思い込んでいる村長の声が響いた。
「この村に久方振りのお客様じゃ。様々な話を聞き村の発展に役立たてようぞ。では、皆の者。乾杯。」
村長の声を皮切りにその場にいる全員が手に持っている飲み物を飲み干した。
名前もそれに習い、ぐいっと飲み干す。
そこでぷつんと、名前の意識は途絶えたのだった。