1章
おなまえ
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先頭車両に向かう途中、名前は禰豆子と善逸を見かけた。
善逸は頭から血を流して倒れていたが、禰豆子が傍にいて介抱しているようだった。
二人のことも心配だったが、名前はこの嫌な予感の払拭を優先したかった。
最終車両から先頭車両までの移動は、鬼であればそんなに時間はかからないはずだが、名前はもどかしいほど長い時間に感じた。
そしてやっと先頭車両が見えてきた時、名前は悪寒の正体を知った。
名前が視界に捉えたのは倒れている炭治郎、その横に立つ伊之助、その奥にこちらに背を向けている煉獄。
そして、煉獄の胸を腕で貫いている鬼がいた。
名前は目を見開いた。
つい先程まで自分を斬ろうとしていた男が、鬼に殺されている。
名前にとっては信じ難い光景だった。
本来、鬼である名前からしたら柱のが死ぬことは好都合だ。
何故なら自分の命を脅かす存在が消えるからである。
しかし、目の前でもうまもなく死ぬであろう男を見て、名前は咄嗟に助けなくてはと思った。
(この柱には、借りがある…!)
名前のことを斬らずに見逃したこの人間を、どうにか救いたかった。
もう手遅れだという思いに気づかぬふりをして、名前は必死に足を動かした。
ある程度のところまで近づくと、柱の胸を貫いている鬼の姿形が良く見えた。
全身に刺青が入っており、名前では到底叶わないことがひと目でわかるくらい鍛えられた体つきだった。
さらにその眼には、『上弦』と『参』が刻まれていた。
上弦の鬼という存在については、珠世から聞いていた。
無惨直属の鬼で無惨の血を濃く受け継いでいる、と珠世が言っていた。
この話を聞いた時、戦って勝てる相手ではないから、上手いこと情報だけ仕入れたいと名前は思ったのだった。
しかし、名前は足を止めなかった。
確実に自分より強い鬼だが、怯えている余裕などなかった。
恩人を助けるために、動きたいと思ったのだ。
(まもなく夜が明ける…!)
空が明るくなってきたのを名前と上弦の参は察した。
今の位置では太陽の光が自分を照らすことに気がついた上弦の参が、柱から離れ太陽の光から逃げようと動き出した。
同時に炭治郎が刀を持って動いた。
自分の脚力では上弦の参に追いつくことは出来ないと判断した名前は、右腕を思いっきり引っ掻いた。
『血鬼術 藤花ノ宴』
名前の血鬼術が発動する。
逃げようとする上弦の参のもとまで、藤の花の幻影が咲き誇った。
ほんの一瞬、おそらく瞬き一回にも満たない時間だったが上弦の参の動きが止まった。
それと同時に炭治郎が自分の日輪刀を上弦の参に投げて突き刺した。
「逃げるな卑怯者!!逃げるなァ!!」
炭治郎の叫びが響いた。
それでも上弦の参は徐々に遠くなっていく。
「いつだって鬼殺隊はお前らに有利な夜の闇の中で戦ってるんだ!生身の人間がだ!!傷だって簡単に塞がらない!失った手足が戻ることもない!!」
暗い森に向かって炭治郎は叫ぶ。
「逃げるな馬鹿野郎!!卑怯者!!」
上弦の参が逃げた方向へ炭治郎は進み続ける。
「お前なんかより煉獄さんの方がずっと強いんだ!!強いんだ!!煉獄さんは負けてない!!誰も死なせなかった!!」
炭治郎の目に、涙が溜まる。
「戦い抜いた!!守り抜いた!!お前の負けだ!!煉獄さんの勝ちだ!!」
涙を流しながらそのあとも炭治郎は叫び続けた。
名前はその様子を立ち尽くしたまま見ていた。
(柱は、死んでしまうのか。)
名前の一番の目的は、上弦の参から情報を聞き出すことだった。
しかしあの状況を前にして、名前の頭の中からそんなことはとっくに抜け落ちていた。
一度命を見逃してもらっただけの恩だったが、柱という鬼殺隊最強の存在が、鬼である自分と対話し見逃したことは名前のこれからに影響があると思ったのだ。
名前は、あの柱ときちんと話してみたかったのだ。
「もうそんなに叫ぶんじゃない。」
その場に、静かだが意思の強い声が響いた。
「腹の傷が開く、君も軽傷じゃないんだ。」
炭治郎はゆっくりと振り向き、煉獄を見つめた。
「竈門少年が死んでしまったら、俺の負けになってしまうぞ。それに…」
煉獄は炭治郎に語りかけ、次に名前の方を見つめて言った。
「鬼の少女よ、君もだ。そろそろ朝日が差す。鬼とはいえ人間のために戦った君が死んでしまったら、俺は全員を守ったことにならない。」
仲間に向けるかのような優しい笑みを名前に向けた。
もう夜は明けていた。
少しずつ日が差してきて名前のもとまで日が届いてしまうのも時間の問題だった。
名前は自分の感情が整理できなかった。
名前ができたのは、目の前の相手に最大の敬意を表し、深く頭を下げることだけだった。
そして、日の当たらない方向へひたすら走った。
涙は、流れなかった。
善逸は頭から血を流して倒れていたが、禰豆子が傍にいて介抱しているようだった。
二人のことも心配だったが、名前はこの嫌な予感の払拭を優先したかった。
最終車両から先頭車両までの移動は、鬼であればそんなに時間はかからないはずだが、名前はもどかしいほど長い時間に感じた。
そしてやっと先頭車両が見えてきた時、名前は悪寒の正体を知った。
名前が視界に捉えたのは倒れている炭治郎、その横に立つ伊之助、その奥にこちらに背を向けている煉獄。
そして、煉獄の胸を腕で貫いている鬼がいた。
名前は目を見開いた。
つい先程まで自分を斬ろうとしていた男が、鬼に殺されている。
名前にとっては信じ難い光景だった。
本来、鬼である名前からしたら柱のが死ぬことは好都合だ。
何故なら自分の命を脅かす存在が消えるからである。
しかし、目の前でもうまもなく死ぬであろう男を見て、名前は咄嗟に助けなくてはと思った。
(この柱には、借りがある…!)
名前のことを斬らずに見逃したこの人間を、どうにか救いたかった。
もう手遅れだという思いに気づかぬふりをして、名前は必死に足を動かした。
ある程度のところまで近づくと、柱の胸を貫いている鬼の姿形が良く見えた。
全身に刺青が入っており、名前では到底叶わないことがひと目でわかるくらい鍛えられた体つきだった。
さらにその眼には、『上弦』と『参』が刻まれていた。
上弦の鬼という存在については、珠世から聞いていた。
無惨直属の鬼で無惨の血を濃く受け継いでいる、と珠世が言っていた。
この話を聞いた時、戦って勝てる相手ではないから、上手いこと情報だけ仕入れたいと名前は思ったのだった。
しかし、名前は足を止めなかった。
確実に自分より強い鬼だが、怯えている余裕などなかった。
恩人を助けるために、動きたいと思ったのだ。
(まもなく夜が明ける…!)
空が明るくなってきたのを名前と上弦の参は察した。
今の位置では太陽の光が自分を照らすことに気がついた上弦の参が、柱から離れ太陽の光から逃げようと動き出した。
同時に炭治郎が刀を持って動いた。
自分の脚力では上弦の参に追いつくことは出来ないと判断した名前は、右腕を思いっきり引っ掻いた。
『血鬼術 藤花ノ宴』
名前の血鬼術が発動する。
逃げようとする上弦の参のもとまで、藤の花の幻影が咲き誇った。
ほんの一瞬、おそらく瞬き一回にも満たない時間だったが上弦の参の動きが止まった。
それと同時に炭治郎が自分の日輪刀を上弦の参に投げて突き刺した。
「逃げるな卑怯者!!逃げるなァ!!」
炭治郎の叫びが響いた。
それでも上弦の参は徐々に遠くなっていく。
「いつだって鬼殺隊はお前らに有利な夜の闇の中で戦ってるんだ!生身の人間がだ!!傷だって簡単に塞がらない!失った手足が戻ることもない!!」
暗い森に向かって炭治郎は叫ぶ。
「逃げるな馬鹿野郎!!卑怯者!!」
上弦の参が逃げた方向へ炭治郎は進み続ける。
「お前なんかより煉獄さんの方がずっと強いんだ!!強いんだ!!煉獄さんは負けてない!!誰も死なせなかった!!」
炭治郎の目に、涙が溜まる。
「戦い抜いた!!守り抜いた!!お前の負けだ!!煉獄さんの勝ちだ!!」
涙を流しながらそのあとも炭治郎は叫び続けた。
名前はその様子を立ち尽くしたまま見ていた。
(柱は、死んでしまうのか。)
名前の一番の目的は、上弦の参から情報を聞き出すことだった。
しかしあの状況を前にして、名前の頭の中からそんなことはとっくに抜け落ちていた。
一度命を見逃してもらっただけの恩だったが、柱という鬼殺隊最強の存在が、鬼である自分と対話し見逃したことは名前のこれからに影響があると思ったのだ。
名前は、あの柱ときちんと話してみたかったのだ。
「もうそんなに叫ぶんじゃない。」
その場に、静かだが意思の強い声が響いた。
「腹の傷が開く、君も軽傷じゃないんだ。」
炭治郎はゆっくりと振り向き、煉獄を見つめた。
「竈門少年が死んでしまったら、俺の負けになってしまうぞ。それに…」
煉獄は炭治郎に語りかけ、次に名前の方を見つめて言った。
「鬼の少女よ、君もだ。そろそろ朝日が差す。鬼とはいえ人間のために戦った君が死んでしまったら、俺は全員を守ったことにならない。」
仲間に向けるかのような優しい笑みを名前に向けた。
もう夜は明けていた。
少しずつ日が差してきて名前のもとまで日が届いてしまうのも時間の問題だった。
名前は自分の感情が整理できなかった。
名前ができたのは、目の前の相手に最大の敬意を表し、深く頭を下げることだけだった。
そして、日の当たらない方向へひたすら走った。
涙は、流れなかった。