1章
おなまえ
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名前が意識を取り戻して目を開けると、顔がくっつくくらいの距離で猪の顔が見えた。
「うわっ!?」
思わず後ずさると、猪は刀を構えながら名前をじっと見つめていた。
(まだあの山の中だ…というか、私、まだ生きてる…。)
意識を失ったのはそんなに長い時間ではないようだった。
藤の花と自らの血の匂いが漂っており、先程猪の男と戦って蓄積した疲労もまだ残っていた。
「おい!健太郎!!コイツ起きたぞ!」
猪の男は急に大声を出し、誰かに声をかけた。
すると、猪の男の後ろからもう一人の人間が現れた。
「良かったです。目覚めてくれて!
初めまして。俺は竈門炭治郎です。鬼である貴女にお聞きしたいことがあります。」
初めて人間を食べた、死体安置所の前で出会った少年が緊張した面持ちでこちらを見ていた。
名前は、意識を失う前にこの少年が猪の男から庇ってくれたことを思い出し、疑問を投げかけた。
「なぜ私を庇ったの?」
「俺には鬼に聞きたいことがあります。貴女からは伊之助への敵意を全く感じなかったので話が出来ると思ったんです。」
名前の目を真っ直ぐ見て、炭治郎はそう答えた。
名前は炭治郎の目を見返し、ちらりと後ろに立つ猪の男に目をやる。
(竈門さんが言っていることは本当だと思う…。けれど私がひとつでも変な動きをしたら、おそらく二人とも切りかかってくる。
どちらにしろ、この状態じゃ私は上手く動くこともできないけど。)
名前は深く息を吐き諦めたような笑顔を炭治郎に向けた。
「私は名前です。あの猪の男に切られて死ぬはずでした、まずは庇っていただきありがとうございました。」
名前が手をついて深く頭を下げると、炭治郎は驚いた様子だった。
(鬼なのに、ここまで知性や理性が残っている…。まるで珠世さんのようだ。)
炭治郎は名前を見てそう思った。
名前はそのまま言葉を続けた。
「竈門さんの聞きたいことが、私に答えられるものならお答えします。」
炭治郎は鼻を利かせ、その言葉が嘘ではないことを確認した。
後ろで伊之助が飽きてどこかに行ってしまった気配を感じたが、炭治郎は気にしないことにした。
炭治郎は名前に近づき、隣に座り込んだ。
その行動に今度は名前が驚いた。
「あの、弱っているとはいえ私は鬼ですよ。隣に座るなんて、そんな無防備なことして大丈夫ですか?」
「大丈夫です。名前さんからはそんな匂いしないから。」
炭治郎はあははと笑いながら言った。
名前は戸惑っていた。
自分に聞きたいことがあると言ったこの鬼狩りが自分を庇ったのは、情報を聞き出すためで、聞き出したあとは即刻首を切られると思っていた。
その人物が刀を鞘に収め、隣に座り込むなんて誰が予想しただろうか。
そんな名前を他所に、炭治郎は質問を投げかけた。
「名前さんはいつから鬼に?」
「えっと、半年くらい前です。」
そうなんですねー、と朗らかに言う炭治郎にますます戸惑いを覚える名前。
「俺も半年前くらいに鬼殺隊に入隊したんです。」
炭治郎が思い出すように言った。
「家族が鬼に殺されて、生き残った妹が鬼になってしまったんです。その妹を人間に戻すために、俺は鬼舞辻無惨を探しているんです。」
その名を言った瞬間、隣にいる鬼の匂いが変わったのに炭治郎は気がついた。
そして名前の顔を見ると、その表情は憎しみに染まっていた。
炭治郎は、名前の匂いと表情から、名前から香る匂いが他の鬼とは違う理由のひとつを見つけだした。
「名前さん…貴女はもしかして無惨を恨んでいるんですか?」
炭治郎の話を聞きながら憎い相手の名前を聞いた直後、一瞬名前は自我を失った。
自分の境遇と炭治郎の境遇が似通っており、自分の記憶を呼び起こしたからである。
名前は炭治郎の問いかけに対して、真っ直ぐ目を見返して答えた。
「はい。私は無惨を殺すためだけに生きています。」
名前の答えを聞き、炭治郎は驚きと同時に珠世の言葉を思い出していた。
『鬼は鬼舞辻のことを話すことが出来ない、呪いがかかっているのです。』
しかし、名前は無惨の名を口にしたどころか無惨を殺すとまで言い放った。
(呪いが外れている…!鬼舞辻が作った鬼にも関わらず、自力で!!)
禰豆子が人間に戻る助けになるのではないかと炭治郎は考え、名前に提案をした。
「名前さん。俺の知り合いに無惨を倒すために研究を進めている鬼がいます。その方に会っていただけないでしょうか。
貴女の血を調べることで、鬼舞辻を倒す手助けや禰豆子が人間に戻る薬が出来るかもしれないんです。」
炭治郎は頭を下げた。
「お願いします。力を、貸してください。」
(まさか、鬼狩りに頭を下げられる日が来るとは思ってもいなかった。)
名前は炭治郎の後ろをついていきながら山の中を歩いていた。
(鬼狩りとの協力関係か…。)
名前は先程の炭治郎の提案を受け入れた。
名前としても、無惨を倒す手段が増えるのは良いことだし、自分が鬼から人間に戻れるのなら万々歳だ。
それに加え、炭治郎が名前の血を調べると言ったとき、自分の血の力を知る良い機会だと思ったのだ。
この判断が名前にとって吉と出るか凶と出るか、それは今は誰にも分からない。
しかし鬼となって孤独に生きてきた名前にとって、同じ境遇の炭治郎に出会ったこと、無惨を倒したい鬼が他にいると知れたことは、非常に大きな糧となった。
「うわっ!?」
思わず後ずさると、猪は刀を構えながら名前をじっと見つめていた。
(まだあの山の中だ…というか、私、まだ生きてる…。)
意識を失ったのはそんなに長い時間ではないようだった。
藤の花と自らの血の匂いが漂っており、先程猪の男と戦って蓄積した疲労もまだ残っていた。
「おい!健太郎!!コイツ起きたぞ!」
猪の男は急に大声を出し、誰かに声をかけた。
すると、猪の男の後ろからもう一人の人間が現れた。
「良かったです。目覚めてくれて!
初めまして。俺は竈門炭治郎です。鬼である貴女にお聞きしたいことがあります。」
初めて人間を食べた、死体安置所の前で出会った少年が緊張した面持ちでこちらを見ていた。
名前は、意識を失う前にこの少年が猪の男から庇ってくれたことを思い出し、疑問を投げかけた。
「なぜ私を庇ったの?」
「俺には鬼に聞きたいことがあります。貴女からは伊之助への敵意を全く感じなかったので話が出来ると思ったんです。」
名前の目を真っ直ぐ見て、炭治郎はそう答えた。
名前は炭治郎の目を見返し、ちらりと後ろに立つ猪の男に目をやる。
(竈門さんが言っていることは本当だと思う…。けれど私がひとつでも変な動きをしたら、おそらく二人とも切りかかってくる。
どちらにしろ、この状態じゃ私は上手く動くこともできないけど。)
名前は深く息を吐き諦めたような笑顔を炭治郎に向けた。
「私は名前です。あの猪の男に切られて死ぬはずでした、まずは庇っていただきありがとうございました。」
名前が手をついて深く頭を下げると、炭治郎は驚いた様子だった。
(鬼なのに、ここまで知性や理性が残っている…。まるで珠世さんのようだ。)
炭治郎は名前を見てそう思った。
名前はそのまま言葉を続けた。
「竈門さんの聞きたいことが、私に答えられるものならお答えします。」
炭治郎は鼻を利かせ、その言葉が嘘ではないことを確認した。
後ろで伊之助が飽きてどこかに行ってしまった気配を感じたが、炭治郎は気にしないことにした。
炭治郎は名前に近づき、隣に座り込んだ。
その行動に今度は名前が驚いた。
「あの、弱っているとはいえ私は鬼ですよ。隣に座るなんて、そんな無防備なことして大丈夫ですか?」
「大丈夫です。名前さんからはそんな匂いしないから。」
炭治郎はあははと笑いながら言った。
名前は戸惑っていた。
自分に聞きたいことがあると言ったこの鬼狩りが自分を庇ったのは、情報を聞き出すためで、聞き出したあとは即刻首を切られると思っていた。
その人物が刀を鞘に収め、隣に座り込むなんて誰が予想しただろうか。
そんな名前を他所に、炭治郎は質問を投げかけた。
「名前さんはいつから鬼に?」
「えっと、半年くらい前です。」
そうなんですねー、と朗らかに言う炭治郎にますます戸惑いを覚える名前。
「俺も半年前くらいに鬼殺隊に入隊したんです。」
炭治郎が思い出すように言った。
「家族が鬼に殺されて、生き残った妹が鬼になってしまったんです。その妹を人間に戻すために、俺は鬼舞辻無惨を探しているんです。」
その名を言った瞬間、隣にいる鬼の匂いが変わったのに炭治郎は気がついた。
そして名前の顔を見ると、その表情は憎しみに染まっていた。
炭治郎は、名前の匂いと表情から、名前から香る匂いが他の鬼とは違う理由のひとつを見つけだした。
「名前さん…貴女はもしかして無惨を恨んでいるんですか?」
炭治郎の話を聞きながら憎い相手の名前を聞いた直後、一瞬名前は自我を失った。
自分の境遇と炭治郎の境遇が似通っており、自分の記憶を呼び起こしたからである。
名前は炭治郎の問いかけに対して、真っ直ぐ目を見返して答えた。
「はい。私は無惨を殺すためだけに生きています。」
名前の答えを聞き、炭治郎は驚きと同時に珠世の言葉を思い出していた。
『鬼は鬼舞辻のことを話すことが出来ない、呪いがかかっているのです。』
しかし、名前は無惨の名を口にしたどころか無惨を殺すとまで言い放った。
(呪いが外れている…!鬼舞辻が作った鬼にも関わらず、自力で!!)
禰豆子が人間に戻る助けになるのではないかと炭治郎は考え、名前に提案をした。
「名前さん。俺の知り合いに無惨を倒すために研究を進めている鬼がいます。その方に会っていただけないでしょうか。
貴女の血を調べることで、鬼舞辻を倒す手助けや禰豆子が人間に戻る薬が出来るかもしれないんです。」
炭治郎は頭を下げた。
「お願いします。力を、貸してください。」
(まさか、鬼狩りに頭を下げられる日が来るとは思ってもいなかった。)
名前は炭治郎の後ろをついていきながら山の中を歩いていた。
(鬼狩りとの協力関係か…。)
名前は先程の炭治郎の提案を受け入れた。
名前としても、無惨を倒す手段が増えるのは良いことだし、自分が鬼から人間に戻れるのなら万々歳だ。
それに加え、炭治郎が名前の血を調べると言ったとき、自分の血の力を知る良い機会だと思ったのだ。
この判断が名前にとって吉と出るか凶と出るか、それは今は誰にも分からない。
しかし鬼となって孤独に生きてきた名前にとって、同じ境遇の炭治郎に出会ったこと、無惨を倒したい鬼が他にいると知れたことは、非常に大きな糧となった。