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第1話『部長は病室にてミッションを言い渡す』
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『大事な話があるからレギュラー達は明日部活終わりに病院に来てくれないかな?』
と、立海大附属中の男子テニス部部長である幸村精市がレギュラー達にメッセージアプリでメッセージを飛ばしたのは昨夜のこと。
テニスの強豪である立海は今年の全国大会で3連覇を狙っているのだが、その部長である幸村が昨年病で倒れ、今もなお入院の身である。
そんな彼がレギュラー達を集めて大事な話をするのだからただごとではないと考える者も多い。
病気に関する悪い話だろうか、それともテニスを続ける意思がなくなったのだろうか、色々と考えるも話を聞かないことには判断しようがないので幸村の言う通り、立海のレギュラーメンバー達は部活後、彼の入院する病院へと向かった。
「やぁ、みんな来てくれてありがとう」
幸村の病室へと行くと、大事な話があるとは思えないほど本人は元気な様子であった。
「幸村。それで大事な話とは一体何なのだ?」
副部長である真田弦一郎が腕を組みながらすぐさま本題に入ろうとした。
その近くで後輩の切原赤也が「副部長ってデリカシーなさすぎじゃないスか? いくらなんでもいきなりすぎ……」と本人に聞こえないよう小さな声で隣に立つ丸井ブン太に伝える。
丸井は風船ガムを膨らませながら「まぁ、それが目的なんだしいいんじゃねぇの?」と返した。
「ふふっ。真田は知りたがりだな。まぁ、話は早い方がいいだろう。今回みんなに集まってもらったのは他でもない。我が部に関することだ」
我が部に関すること。その言葉を聞いて周りの空気が張り詰めた。集められたレギュラー達が真剣に幸村の話に耳を傾けようとしているのだ。
「実は前々から思っていたことなんだが……我がテニス部には圧倒的に足りないものがある」
「足りないもの、ですか?」
カチャッと眼鏡の位置を整える柳生比呂士が尋ねた。
関東大会15連覇、全国大会2連覇の実績を持つ立海の男子テニス部にまだ足りないものがある。一体それは何なのかと何人か息を呑んでその答えを待った。
「女子マネージャーだよ」
真剣な眼差しで彼はそう告げた。当然だろ? という表情も含めて。
彼の雰囲気に呑まれそれそうになるものの、呼び出されたメンバーの何名かは疑問符を浮かべる。
「……意味が分からん」
真田だけは眉間に皺を寄せながら幸村に意味を求めた。
「何がどう分からないんだい? これは非常に大事なことだよ。そもそも運動部にマネージャーがいない時点でかなりの大問題だ。俺は1年の頃から何故なのかとずっと疑問だった。テニスに集中出来ないくらいに」
「いや、そこはテニスに集中するべきだろ」
思わずジャッカル桑原もツッコミを入れる。そんな彼に幸村はにっこり笑いながら「いいよ、ジャッカル。腕が上がったね」と桑原のツッコミに満足気であったが、本人に至ってはそんなことを褒められても困るんだが、と軽く溜め息をつく。
「さて、話を戻そう。我が部は男子テニス部だ。そのためどうしても男臭さから免れないとも言えよう。そんなむさ苦しい男だけの声援……とてもではないがやる気は出ないよね」
「まぁ、華が欲しいのは確かじゃな。からかいのありそうな奴ならなおよし」
幸村の意見に賛成の意思が見えつつある仁王雅治が同意するように頷いた。
「仁王もこう言ってくれてるし、みんなに女子マネージャーを探してもらいたい」
「相変わらずお前は俺のデータの予想を軽く外してくるな」
顎に指を添えて話す柳蓮二は幸村の話す内容が予想していたことと違っていたらしく、また新たな情報を頭に叩き入れた。
「へぇ、軽く、なんだ?」
「重たい話でないことはお前のその性格からして最初から分かりきっていた。おそらく暇潰しか、遊び相手でも欲しかったのだろうと読んでいたのだがな」
「あながち間違いじゃなくね? 似たようなもんじゃん」
丸井がそう呟くが柳は「完璧な予想ではないので間違いだ」と頑なであった。
「幸村。さっきから聞いていればお前が女子マネージャーを欲する目的がさっぱり分からん。そもそもうちの部にマネージャーなどいらんだろう」
「え? 真田はまだ分からないのかい? さっきから言ってるように我が部は男臭いんだ」
「男子テニス部だからな……」
桑原がぼそりと呟く。そりゃそうだと丸井も頷いた。
「俺はね、癒しが欲しいんだ。そう、それこそ女子マネージャーだよ。暑苦しい砂漠のような男達の中でひっそりしながらも目を惹く一輪の花の如く。そんな見るだけで癒しを与える女子マネージャーが俺には、いや、我が部には必要なんだっ!」
「癒しを与えるかは置いておいてマネージャーが在籍する分には俺も賛成だな。部員が多いからといって庶務を彼らばかりに任せると誰がどこまで何をしたか、または練習もしたのか、といちいち把握しなければならないのはこちらだ。それならば雑用等を全て任せてもいい人間を置いておく方が効率的だろう」
柳の話を聞いた真田は「なるほど……」と、少し考え込む。そのような理由ならばマネージャーを入れるのもやぶさかでないと思いながら。
そんな彼の様子を見た幸村があと一押しだと目を輝かせ、話を続けた。
「そう! 柳の言う通りそういう意味ももちろんあるんだ」
(ほんとなんスかね……)
「ならば男子マネージャーでも構わんだろう。女子である必要はない」
「真田は俺の話聞いてた!? 潤いが欲しいって言ったよね!? オアシスが必要なんだよ! 俺達の部にはなぜか女子成分が圧倒的に足りない!」
「男子テニス部ですからね……」
今までにないほど必死な形相だった。部長ならではの圧……ではなく、欲望に忠実な姿である。
そのような部長の姿を見て圧倒されながらも柳生は冷静な言葉を発した。
そしてとうとう副部長が声を荒らげる。
「幸村! いい加減にせんか! 仕事を任せるのに男も女も関係ないだろう! 我儘を言うな!」
部長よりも迫力のある真田の怒鳴りつける声になぜか切原までびくりと肩を跳ねさせる。よく怒鳴られているからなのか、つい自分が怒られているのだと錯覚してしまったようだ。
「……我儘、だって?」
すると、幸村は俯いた様子でポツリと小さく言葉を漏らした。
「俺は……早くこんな病室から抜け出してテニスをしたいのに今はそれすらも叶わないんだよ……。テニスをさせろって言ってるわけじゃないんだ。その代わりにと無理のないお願いをしてるのにそれすらも我儘だと言うのかい?」
「そ、それは……」
幸村を襲った病のことはもちろんのこと全員が知っていることだ。免疫系の病気を患い、ずっと入院している幸村はもう何ヶ月もテニスに触れていない。
そんなテニスをしたくても出来ない彼によるお願いと言われてしまったら真田も強く言えずに口ごもってしまう。
「せめて、これくらいの願いを聞き入れてもいいじゃないか……」
弱々しい声と震える手は僅かな力でシーツを握る。顔の表情は見えないが、あまりにも痛々しく悲痛なものに見えて仕方ない真田は黒い帽子を深く被り軽く溜め息を吐いた。
「……分かった。お前の望みを聞こう」
「真田……」
「その代わり、絶対に戻ってこい。いいな?」
「……あぁ、恩に着るよ」
ゆっくり顔を上げた幸村の表情は穏やかな笑みを浮かべていた。
感動的なシーンで思わず柳生もハンカチを取り出し、眼鏡を上げて目から溢れる涙を拭う。
そんな中、桑原は「とはいえ、幸村の望んでるのは女子マネージャーなんだよな……」と心の中で口にし、少し格好がつかないなとも考えていた。
「さて、真田からも許可が出たことだし、実はマネージャー候補としてすでにピックアップはすんでるんだ」
空気を変えるように手でパンッと叩き嬉しげな笑顔で幸村は1枚のメモを取り出した。
あまりの切り替えの早さに真田は言葉を失っていて、そんな様子を見た仁王と丸井、切原は笑いこらえるのに必死だった。
そして幸村は真田に気にすることなく話を続ける。
「無所属かつ、人間性に問題なくマネージャーとして発揮出来そうな三人だ」
幸村が柳にメモを手渡す。柳がそのメモに書かれた人物の名を1人ずつ口にした。
「3年I組赤宮麻美。3年C組九条秋。3年B組西成遥、か。これはまた濃い面子だな」
読み上げた三人の名前に残りのメンバー達は聞き覚えがあったり、知っていることもあり、少々驚いた様子を見せる。
(麻美……だと?)
胸の内とはいえ真田にしては珍しく女子を名前で呼ぶ。彼にとって麻美はよく知る人物だった。いわゆる幼馴染みという仲。
幼い頃から互いに家を行き来してきたが、小学校高学年に上がってから思春期ゆえか二人の交流は減っていた。
とはいえなぜ彼女の名が上がるのかは分からない。
「赤宮といや……ジャッカル、お前んとこのクラスにいたよな? すげー美人だけど、すげーおっかねぇって噂の奴」
「あぁ……いるが、あいつは難しいんじゃねーか?」
「何スか、そのすげー美人ですげーおっかねぇって」
切原が丸井と桑原の話に食いついた。美人だけどおっかない人物をマネージャー候補としてあげるのだから気にならないわけがないだろう。
そんな彼の質問に答えようと柳が口を開く。
「赤宮麻美。バランスの良い体格の持ち主で立海でも一二を争うほどの麗人。しかし性格に難アリ。一匹狼のようで常に一人で過ごしていて人を寄せつけない。運動能力もずば抜けていることもあり、腕っ節はいいようで彼女に良からぬ企みを向けようとするならすぐに返り討ちにされる。そのせいか敵も多く喧嘩も絶えないのだとか」
「えーと、つまりすげー強い女子ってことっスかね?」
「まぁ、簡単に言やそうだろぃ」
「そう。赤宮麻美は女子どころか男子にすら勝るという腕っ節と負けず嫌いの気質がうちにぴったりだと思ってね。甘っちょろい奴はみんな彼女に任せたらいいかなって」
「けどよ、幸村。俺は同じクラスだから確信すらあるが、あいつはたまに部活勧誘を受けているけど全部蹴ってるみてーだし、マネージャーを引き受けるとは思えねぇんだが……」
「そこを何とかするのが君の仕事だジャッカル!」
「って、俺が勧誘するのかよ!」
「大丈夫大丈夫。ブン太もつけてあげるから」
「ついでのように俺を巻き込むなよ!」
「君達は優秀なダブルスペアだから。大丈夫!」
こんなに根拠のない大丈夫を部長から告げられることはなかなかないだろう。桑原と丸井は部長の無理難題にチャレンジせざるを得ない状況となった。
「続いて九条秋。彼女を知る者は多いだろう。何せ生徒会長の片倉率いる生徒会のメンバーの一人。副会長だからな」
「蓮二。お前も書記として生徒会の一員だっただろう。彼女と直接顔を合わせることもあるが、人選的にはどうだ?」
「九条は先ほどの赤宮とは反対に菩薩のような慈愛に満ちた人物だ。他人を気にかける優しい性格ゆえか、自分を犠牲にするよう場面も見受けられる。そのため優柔不断の気があるのか決断力は弱い部分もある」
「そう。赤宮さんが鞭ならまさに彼女は飴のような存在。飴と鞭、どちらかが偏っていてはうちの部のためにもならないからね。だからこの二人は絶対に欲しいところなんだ。あと性格の良さは俺も保証する。いつも俺の元へプリントを届けに来てくれるからね。おそらく今日もこのあと来るだろうから、真田、蓮二。君達の力を借りて何としてでも九条さんをマネージャーに入れよう」
同じクラスだから秋が幸村の病室に学校のプリントを届けることが多いため、幸村も秋の人となりをよく理解していた。
「承知した」
「……約束したから仕方あるまい」
協力を要請された真田と柳は共に頷く。真田に至っては渋々ではあるが。
「幸村部長。その二人の確保は確実なのは分かったんスけど、もう一人は最悪捕まらなくてもいいってことっスか?」
「西成さんのことだね。彼女は彼女で必要な人材だ。赤宮さんが厳しさ担当、九条さんが優しさ担当、そして西成さんはコミュニケーション担当だ」
「コミュニケーション……? それは必要なものでしょうか?」
いまいちピンとこない柳生が尋ねる。幸村は「もちろん」と力強く説いた。
「複数人のマネージャーを置くということは彼女同士のコミュニケーションも大事になるだろう。赤宮さんは他人に対する壁が厚くてね。おそらく最初は俺達と会話するのも難しいかもしれない。九条さんは人当たりがいいから問題ないが、多分赤宮さんが拒む度に彼女も躊躇して上手くコミュニケーションを取れないだろう。しかし、西成さんはそんな厚い壁さえもぶち壊す力がある」
「西成遥。ムードメーカーとトラブルメーカーを合わせ持つ何かと賑やかな人物だな。明るく人懐っこい性格のため男女問わず友人が多いようだ。クラスに馴染めず一人でいる生徒などには自ら声をかけて構い倒す傾向があるので精市がコミュニケーション担当と言うのもよく分かる。ただし、運動、勉学共に成績は平均点を下回るのが難点ではあるな」
「あぁ、なるほど。確かにあやつは誰だろうと声をかけるし、コミュ力が高いからのぅ」
「ただ空気読めないだけだと思うけどなー。マネージャーとして動けるかは分かんねーし」
同じクラスの仁王と丸井は遥のことをよく知っているのか、幸村が言うことに一理あると思いつつもその能力には些か疑問があった。
「そこは何とかなるよ。うちには参謀や紳士がいるのだから」
(指導しろということか)
(押し付けられましたね……)
「というわけだから同じクラスの仁王と丸井……あ、丸井は赤宮さん引き入れ担当だから忙しくなるな。それなら代わり仁王とダブルスを組むことが多い柳生に任せよう」
「私、ですか。努力はしてみましょう」
顔見知りではないため力になれるかは分からないが部長からの指名ならばやるだけやるしかないと柳生は腹を括る。
仁王はというと他人事のように小さく口笛を吹いていた。
「仁王。君にはもうひとつお願いがあるんだ。聞いてくれるかい?」
「ピヨッ」
幸村は仁王にとあるお願いを託し、真田と柳、幸村以外のメンバーは病室をあとにした。
と、立海大附属中の男子テニス部部長である幸村精市がレギュラー達にメッセージアプリでメッセージを飛ばしたのは昨夜のこと。
テニスの強豪である立海は今年の全国大会で3連覇を狙っているのだが、その部長である幸村が昨年病で倒れ、今もなお入院の身である。
そんな彼がレギュラー達を集めて大事な話をするのだからただごとではないと考える者も多い。
病気に関する悪い話だろうか、それともテニスを続ける意思がなくなったのだろうか、色々と考えるも話を聞かないことには判断しようがないので幸村の言う通り、立海のレギュラーメンバー達は部活後、彼の入院する病院へと向かった。
「やぁ、みんな来てくれてありがとう」
幸村の病室へと行くと、大事な話があるとは思えないほど本人は元気な様子であった。
「幸村。それで大事な話とは一体何なのだ?」
副部長である真田弦一郎が腕を組みながらすぐさま本題に入ろうとした。
その近くで後輩の切原赤也が「副部長ってデリカシーなさすぎじゃないスか? いくらなんでもいきなりすぎ……」と本人に聞こえないよう小さな声で隣に立つ丸井ブン太に伝える。
丸井は風船ガムを膨らませながら「まぁ、それが目的なんだしいいんじゃねぇの?」と返した。
「ふふっ。真田は知りたがりだな。まぁ、話は早い方がいいだろう。今回みんなに集まってもらったのは他でもない。我が部に関することだ」
我が部に関すること。その言葉を聞いて周りの空気が張り詰めた。集められたレギュラー達が真剣に幸村の話に耳を傾けようとしているのだ。
「実は前々から思っていたことなんだが……我がテニス部には圧倒的に足りないものがある」
「足りないもの、ですか?」
カチャッと眼鏡の位置を整える柳生比呂士が尋ねた。
関東大会15連覇、全国大会2連覇の実績を持つ立海の男子テニス部にまだ足りないものがある。一体それは何なのかと何人か息を呑んでその答えを待った。
「女子マネージャーだよ」
真剣な眼差しで彼はそう告げた。当然だろ? という表情も含めて。
彼の雰囲気に呑まれそれそうになるものの、呼び出されたメンバーの何名かは疑問符を浮かべる。
「……意味が分からん」
真田だけは眉間に皺を寄せながら幸村に意味を求めた。
「何がどう分からないんだい? これは非常に大事なことだよ。そもそも運動部にマネージャーがいない時点でかなりの大問題だ。俺は1年の頃から何故なのかとずっと疑問だった。テニスに集中出来ないくらいに」
「いや、そこはテニスに集中するべきだろ」
思わずジャッカル桑原もツッコミを入れる。そんな彼に幸村はにっこり笑いながら「いいよ、ジャッカル。腕が上がったね」と桑原のツッコミに満足気であったが、本人に至ってはそんなことを褒められても困るんだが、と軽く溜め息をつく。
「さて、話を戻そう。我が部は男子テニス部だ。そのためどうしても男臭さから免れないとも言えよう。そんなむさ苦しい男だけの声援……とてもではないがやる気は出ないよね」
「まぁ、華が欲しいのは確かじゃな。からかいのありそうな奴ならなおよし」
幸村の意見に賛成の意思が見えつつある仁王雅治が同意するように頷いた。
「仁王もこう言ってくれてるし、みんなに女子マネージャーを探してもらいたい」
「相変わらずお前は俺のデータの予想を軽く外してくるな」
顎に指を添えて話す柳蓮二は幸村の話す内容が予想していたことと違っていたらしく、また新たな情報を頭に叩き入れた。
「へぇ、軽く、なんだ?」
「重たい話でないことはお前のその性格からして最初から分かりきっていた。おそらく暇潰しか、遊び相手でも欲しかったのだろうと読んでいたのだがな」
「あながち間違いじゃなくね? 似たようなもんじゃん」
丸井がそう呟くが柳は「完璧な予想ではないので間違いだ」と頑なであった。
「幸村。さっきから聞いていればお前が女子マネージャーを欲する目的がさっぱり分からん。そもそもうちの部にマネージャーなどいらんだろう」
「え? 真田はまだ分からないのかい? さっきから言ってるように我が部は男臭いんだ」
「男子テニス部だからな……」
桑原がぼそりと呟く。そりゃそうだと丸井も頷いた。
「俺はね、癒しが欲しいんだ。そう、それこそ女子マネージャーだよ。暑苦しい砂漠のような男達の中でひっそりしながらも目を惹く一輪の花の如く。そんな見るだけで癒しを与える女子マネージャーが俺には、いや、我が部には必要なんだっ!」
「癒しを与えるかは置いておいてマネージャーが在籍する分には俺も賛成だな。部員が多いからといって庶務を彼らばかりに任せると誰がどこまで何をしたか、または練習もしたのか、といちいち把握しなければならないのはこちらだ。それならば雑用等を全て任せてもいい人間を置いておく方が効率的だろう」
柳の話を聞いた真田は「なるほど……」と、少し考え込む。そのような理由ならばマネージャーを入れるのもやぶさかでないと思いながら。
そんな彼の様子を見た幸村があと一押しだと目を輝かせ、話を続けた。
「そう! 柳の言う通りそういう意味ももちろんあるんだ」
(ほんとなんスかね……)
「ならば男子マネージャーでも構わんだろう。女子である必要はない」
「真田は俺の話聞いてた!? 潤いが欲しいって言ったよね!? オアシスが必要なんだよ! 俺達の部にはなぜか女子成分が圧倒的に足りない!」
「男子テニス部ですからね……」
今までにないほど必死な形相だった。部長ならではの圧……ではなく、欲望に忠実な姿である。
そのような部長の姿を見て圧倒されながらも柳生は冷静な言葉を発した。
そしてとうとう副部長が声を荒らげる。
「幸村! いい加減にせんか! 仕事を任せるのに男も女も関係ないだろう! 我儘を言うな!」
部長よりも迫力のある真田の怒鳴りつける声になぜか切原までびくりと肩を跳ねさせる。よく怒鳴られているからなのか、つい自分が怒られているのだと錯覚してしまったようだ。
「……我儘、だって?」
すると、幸村は俯いた様子でポツリと小さく言葉を漏らした。
「俺は……早くこんな病室から抜け出してテニスをしたいのに今はそれすらも叶わないんだよ……。テニスをさせろって言ってるわけじゃないんだ。その代わりにと無理のないお願いをしてるのにそれすらも我儘だと言うのかい?」
「そ、それは……」
幸村を襲った病のことはもちろんのこと全員が知っていることだ。免疫系の病気を患い、ずっと入院している幸村はもう何ヶ月もテニスに触れていない。
そんなテニスをしたくても出来ない彼によるお願いと言われてしまったら真田も強く言えずに口ごもってしまう。
「せめて、これくらいの願いを聞き入れてもいいじゃないか……」
弱々しい声と震える手は僅かな力でシーツを握る。顔の表情は見えないが、あまりにも痛々しく悲痛なものに見えて仕方ない真田は黒い帽子を深く被り軽く溜め息を吐いた。
「……分かった。お前の望みを聞こう」
「真田……」
「その代わり、絶対に戻ってこい。いいな?」
「……あぁ、恩に着るよ」
ゆっくり顔を上げた幸村の表情は穏やかな笑みを浮かべていた。
感動的なシーンで思わず柳生もハンカチを取り出し、眼鏡を上げて目から溢れる涙を拭う。
そんな中、桑原は「とはいえ、幸村の望んでるのは女子マネージャーなんだよな……」と心の中で口にし、少し格好がつかないなとも考えていた。
「さて、真田からも許可が出たことだし、実はマネージャー候補としてすでにピックアップはすんでるんだ」
空気を変えるように手でパンッと叩き嬉しげな笑顔で幸村は1枚のメモを取り出した。
あまりの切り替えの早さに真田は言葉を失っていて、そんな様子を見た仁王と丸井、切原は笑いこらえるのに必死だった。
そして幸村は真田に気にすることなく話を続ける。
「無所属かつ、人間性に問題なくマネージャーとして発揮出来そうな三人だ」
幸村が柳にメモを手渡す。柳がそのメモに書かれた人物の名を1人ずつ口にした。
「3年I組赤宮麻美。3年C組九条秋。3年B組西成遥、か。これはまた濃い面子だな」
読み上げた三人の名前に残りのメンバー達は聞き覚えがあったり、知っていることもあり、少々驚いた様子を見せる。
(麻美……だと?)
胸の内とはいえ真田にしては珍しく女子を名前で呼ぶ。彼にとって麻美はよく知る人物だった。いわゆる幼馴染みという仲。
幼い頃から互いに家を行き来してきたが、小学校高学年に上がってから思春期ゆえか二人の交流は減っていた。
とはいえなぜ彼女の名が上がるのかは分からない。
「赤宮といや……ジャッカル、お前んとこのクラスにいたよな? すげー美人だけど、すげーおっかねぇって噂の奴」
「あぁ……いるが、あいつは難しいんじゃねーか?」
「何スか、そのすげー美人ですげーおっかねぇって」
切原が丸井と桑原の話に食いついた。美人だけどおっかない人物をマネージャー候補としてあげるのだから気にならないわけがないだろう。
そんな彼の質問に答えようと柳が口を開く。
「赤宮麻美。バランスの良い体格の持ち主で立海でも一二を争うほどの麗人。しかし性格に難アリ。一匹狼のようで常に一人で過ごしていて人を寄せつけない。運動能力もずば抜けていることもあり、腕っ節はいいようで彼女に良からぬ企みを向けようとするならすぐに返り討ちにされる。そのせいか敵も多く喧嘩も絶えないのだとか」
「えーと、つまりすげー強い女子ってことっスかね?」
「まぁ、簡単に言やそうだろぃ」
「そう。赤宮麻美は女子どころか男子にすら勝るという腕っ節と負けず嫌いの気質がうちにぴったりだと思ってね。甘っちょろい奴はみんな彼女に任せたらいいかなって」
「けどよ、幸村。俺は同じクラスだから確信すらあるが、あいつはたまに部活勧誘を受けているけど全部蹴ってるみてーだし、マネージャーを引き受けるとは思えねぇんだが……」
「そこを何とかするのが君の仕事だジャッカル!」
「って、俺が勧誘するのかよ!」
「大丈夫大丈夫。ブン太もつけてあげるから」
「ついでのように俺を巻き込むなよ!」
「君達は優秀なダブルスペアだから。大丈夫!」
こんなに根拠のない大丈夫を部長から告げられることはなかなかないだろう。桑原と丸井は部長の無理難題にチャレンジせざるを得ない状況となった。
「続いて九条秋。彼女を知る者は多いだろう。何せ生徒会長の片倉率いる生徒会のメンバーの一人。副会長だからな」
「蓮二。お前も書記として生徒会の一員だっただろう。彼女と直接顔を合わせることもあるが、人選的にはどうだ?」
「九条は先ほどの赤宮とは反対に菩薩のような慈愛に満ちた人物だ。他人を気にかける優しい性格ゆえか、自分を犠牲にするよう場面も見受けられる。そのため優柔不断の気があるのか決断力は弱い部分もある」
「そう。赤宮さんが鞭ならまさに彼女は飴のような存在。飴と鞭、どちらかが偏っていてはうちの部のためにもならないからね。だからこの二人は絶対に欲しいところなんだ。あと性格の良さは俺も保証する。いつも俺の元へプリントを届けに来てくれるからね。おそらく今日もこのあと来るだろうから、真田、蓮二。君達の力を借りて何としてでも九条さんをマネージャーに入れよう」
同じクラスだから秋が幸村の病室に学校のプリントを届けることが多いため、幸村も秋の人となりをよく理解していた。
「承知した」
「……約束したから仕方あるまい」
協力を要請された真田と柳は共に頷く。真田に至っては渋々ではあるが。
「幸村部長。その二人の確保は確実なのは分かったんスけど、もう一人は最悪捕まらなくてもいいってことっスか?」
「西成さんのことだね。彼女は彼女で必要な人材だ。赤宮さんが厳しさ担当、九条さんが優しさ担当、そして西成さんはコミュニケーション担当だ」
「コミュニケーション……? それは必要なものでしょうか?」
いまいちピンとこない柳生が尋ねる。幸村は「もちろん」と力強く説いた。
「複数人のマネージャーを置くということは彼女同士のコミュニケーションも大事になるだろう。赤宮さんは他人に対する壁が厚くてね。おそらく最初は俺達と会話するのも難しいかもしれない。九条さんは人当たりがいいから問題ないが、多分赤宮さんが拒む度に彼女も躊躇して上手くコミュニケーションを取れないだろう。しかし、西成さんはそんな厚い壁さえもぶち壊す力がある」
「西成遥。ムードメーカーとトラブルメーカーを合わせ持つ何かと賑やかな人物だな。明るく人懐っこい性格のため男女問わず友人が多いようだ。クラスに馴染めず一人でいる生徒などには自ら声をかけて構い倒す傾向があるので精市がコミュニケーション担当と言うのもよく分かる。ただし、運動、勉学共に成績は平均点を下回るのが難点ではあるな」
「あぁ、なるほど。確かにあやつは誰だろうと声をかけるし、コミュ力が高いからのぅ」
「ただ空気読めないだけだと思うけどなー。マネージャーとして動けるかは分かんねーし」
同じクラスの仁王と丸井は遥のことをよく知っているのか、幸村が言うことに一理あると思いつつもその能力には些か疑問があった。
「そこは何とかなるよ。うちには参謀や紳士がいるのだから」
(指導しろということか)
(押し付けられましたね……)
「というわけだから同じクラスの仁王と丸井……あ、丸井は赤宮さん引き入れ担当だから忙しくなるな。それなら代わり仁王とダブルスを組むことが多い柳生に任せよう」
「私、ですか。努力はしてみましょう」
顔見知りではないため力になれるかは分からないが部長からの指名ならばやるだけやるしかないと柳生は腹を括る。
仁王はというと他人事のように小さく口笛を吹いていた。
「仁王。君にはもうひとつお願いがあるんだ。聞いてくれるかい?」
「ピヨッ」
幸村は仁王にとあるお願いを託し、真田と柳、幸村以外のメンバーは病室をあとにした。