「さてさて、やって参りましたミクスド大会都大会編！」
「場所は変わんないけどね」

　ミクスドの取材も頑張るぞ！　と意気込みを入れようとしたら越前に茶々を入れられてしまった。

「言葉のあやだよ。まったく越前ってば分かってないな～。帰国子女だから？」
「だってそうじゃないすか」
「まぁ、そうだけど。ところでミクスドの初戦はさっき戦ったばっかのルドルフらしいけど、越前的には勝てると思う？」
「知らない。興味ない」
「自分の学校なんだからちょっとは興味を持ってくれないかな……」

　取材にもならない。クールというべきなのか、ただ関心がないのか。おかしいな……あたしが中学１年生の時はもっとこう、全力で楽しんでたはずなのに。今もだけど。

「そいや、越前はミクスドペアで出場しないよね？　やっぱ合わないの？」

　最初の頃は越前もミクスド練習してたはずだけど今はあんま見なくなった気がする。多分、ミクスド練習しても成果が見られない人は男女共に外されているっぽい。
　そう思うと麻美はよく外されなかったなぁ。まぁ、練習試合は問題はあまりなさそうだったし、前回の試合が酷かったから、次はないぞ的な扱いだろうか。

「そもそも俺ダブルスしたくないし」
「好き嫌いは良くないなぁ」
「一人で相手をぶっ飛ばすのがいいんじゃないッスか。むしろ相手がダブルスで俺はシングルスでも構わないし」
「うーん。なんという自信。でも実際に越前は強いもんね」
「まぁね」

　少しは謙遜してくれ１年生よ。そんな当たり前と言わんばりな態度を取られても困るよ、あたし。というかまるで麻美じゃないか。

「今まで負けなしなの？」
「……」

　あ。睨まれた。聞いただけなのに。でも答えないということは越前でも負けたことあるってことかぁ。

「まぁ、負けなしの人なんてそうそういやしないんだし、別に悪いことじゃないんだからそう睨まないでくれたまえ。過去は過去。それに今は強いじゃん！　今は負けてないんだからさっ」
「……毎日負けてる」
「へ？」

　思いもよらない言葉に思わず首を傾げる。毎日負けてる？　越前が？　そんな馬鹿な。
　越前なりのアメリカジョークなのだろうと思ったあたしは彼の背中をバンバン叩きながら笑う。

「あっははは！　越前ってばあたしを騙そうとするなんて酷いぞっ！　いくら毎日テニス部に取材をしてないからって毎日負けてるなんて信じるわけないっしょ？」
「ちょっ、痛っ」
「あたし勝ってるとこしか見てないし越前が負けるとこ想像出来ないもん。だからこれからも勝ち続けておくれ」
「……ほんと、何も分かってないくせに」

　はぁ、と溜め息をつかれてしまった。冗談言ってたくせに酷くない！？

「まぁ、あんたが見てる前では負けることないけど」
「でしょー？　越前は負け知らずでこれからも頑張ってね！」
「負け知らずじゃないし……」

　ボソリと呟く言葉が聞き取りづらくて「ん？」と聞き返すも越前はすぐに「何でもない」と、ふいっとそっぽ向く。
　……越前、もしや反抗期なのかな？　成長の証として仕方のないことだけど、それをあたしに向けるのはちょっと違くない？

「越前……あたし先輩だってこと忘れてない？」
「先輩らしいことしましたっけ？」
「こんなにもフレンドリーに話しかけてるのにっ？」
「頼んでない」
「ひぃん……」

　越前は相変わらずである。どうしたらもっとこのミラクルクールボーイと仲良くなれるのか。出来ればもっと先輩として扱ってほしいところだ。