自己中心の主人公1、優柔不断の主人公2、おバカキャラの主人公3の名前設定となります。
恋を霞ませた魔法使い
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次の授業は体育。C組である秋はD組の女子と合同体育なので着替えを行うため、体操着を持ち更衣室へと移動する準備を始めていた。
(あ、向日だ……)
ふと教室の窓を見下ろすと、すでに体操着に着替えた向日とその友人達が楽しそうに話をしている様子が見えた。
D組である向日もC組男子と合同体育なのだが、女子と男子では同じ場で授業は出来ないため、顔を合わせることはない。
どうやらテンションが上がっているのか、向日はその軽い身のこなしで身体を解すように大きくジャンプをしたり、バク転を決めたりしている。
(凄いなぁ……向日。あんなに跳べるなんて……)
格好いい。思わず口にしてしまいそうなほど見蕩れてしまう。
そして初めて向日と会話したときのことをふと思い出す。
ちょうど一年ほど前の二年の頃だった。中庭の掃除をしていた秋は小さなか細い声が聞こえ掃除をする手を止めた。
にゃー、みぃ、とまるで小動物の鳴き声のようなものが耳に入るのでどこから聞こえるのか辺りを探してみたところ、頭上から聞こえることに気づき上を見上げる。
すると木の枝に猫がいるのを発見した。学園に迷い込んで来た猫なのだろうと察したが、その場から動けずに下を見ながら何度も鳴いている。
(もしかして降りれなくなったのかもしれない)
木に登ったのはいいが、そのあと降りれなくなったと考えた秋はなんとかして猫を降ろしてあげなければと思案する。
とはいえ、猫は随分と高い所まで登っているので木に登ったことのない秋が同じく登るのはなかなかに難しい。
試しに木に近づいてその肌を撫でてみるが、どうやって足を掛けたらいいのか、どうやって登るのか、秋には分からなかった。
そうしている間にも猫は不安そうな声で鳴くので秋は別の方法を考える。
(先生に訳を話してはしごとか借りれば……)
それなら大丈夫だろう。この場から離れるのは少し不安だけど、何もせず見てるわけにはいかなかったため秋は職員室に向かおうとしたそのときだった。
「あっ、猫じゃん!」
秋しかいなかったその場に別の人物の声が耳に入る。声の主の方へと振り向けば、そこには当時彼女の身長より低めか同じくらいの高さだった向日岳人の姿があった。
綺麗に整え赤みがかった髪は真っ先に目につく。まるで女子生徒のようだったが、男子制服を見てすぐに女子ではないことに気づいた。
向日は猫がいる木の元へ歩み寄れば秋へと目を向ける。
「もしかして降りれない感じか?」
「あ、うん。おそらくそうだと思うんだけど、とりあえずはしごを持って来ようかなって……」
「時間かかるだろ? 俺に任せとけ」
「えっ?」
言うや否や、向日は猫のいる木に登り始めた。慣れたような動きで簡単に登る彼はあっという間に猫がいる枝まで辿り着いた。
あんなにすぐに登れるなんて、と目を大きくさせた秋だったがまだ猫を降ろしてはいないので安心は出来ない。
木に登った彼が猫を驚かせてしまい、飛び降りさせてしまっては元も子もないので秋は注意するように声をかけることにする。
「あの、驚かせないように気をつけてねっ」
「わーってるって。……ほら、降ろしてやるからこっち来い」
猫の足場となる枝に足を掛けると、近づき過ぎないようにそして威圧感を与えないようにゆっくりとその場に座り込み、手を差し出してこちらに来させようと話しかける。
猫は戸惑いながらも逃げることも出来ないし、降りることも出来ないのでそろりそろりと少しずつ向日の手へと距離を詰める。
鼻先で向日の指先の匂いを嗅ぎ、小さく鳴く猫。まるで縋るような姿だった。
向日は優しく猫を抱えると、恐怖を与えないようにゆっくりとその場を立つ。
(でも、あの状態から降りることが出来るのかな……)
やっぱりはしごを持ってくるべきか、と相手の男子に尋ねようとしたところ、先に声をかけたのは相手の方からだった。
「お前、危ないからもう少し下がっとけよ!」
「え? あ、うん」
もしものことを考えてそう言ってくれたのだろうか。そう考えて秋は言われた通りその場から後ろへ何歩か下がる。
「これくらいでいい?」
「おう、いいぜ! そっから動くなよ! ……よっ、と!」
え。秋は声を出したか出ていないか分からない言葉が漏れる。
それもそのはず、小柄な男子が猫を抱えてその場から飛び降りたのだから。
「あ、危な━━」
慌てて彼の元へと駆け寄ろうとしたが、相手はくるりと空中で前転をして綺麗な着地を決める。それも駆けつけようと身体を動かした秋の真正面で。その距離は目と鼻の先だ。
あまりにも近い距離にお互いが驚きに目を丸くさせた。
「!」
「ビッ、ビらせんなよ! 動くなって言ったろ!?」
猫を抱えながら空いてる手を胸に当てて、もうすぐでぶつかったかもしれない恐怖に向日の心臓はバクバクしていた。
秋も同じく、胸の鼓動が大きくなり息が止まるかと思った。
「ご、ごめんなさいっ。危ないと思ってつい……」
「大丈夫だから下がらせたんだろ。動くなっつったのによ……まぁ、ぶつからなかったから良かったけど」
ふぅ、と息を吐いて、向日は猫をその場に下ろす。助けられた猫はようやく地に足を着くことが出来て嬉しかったのか、すぐに二人の前から姿を消した。
「まったく、お礼くらいしてけっての」
素っ気ないと思ったのか、少し愚痴る向日だったが、秋は未だに信じられないものを見た気分が抜けない。
「あの、あの子を助けてくれてありがとうございました」
「ん? あぁ、いや、お前に言ったわけじゃねぇけど……怪我がなさそうで良かったな」
「うん……えっと、あなたの名前を聞いても大丈夫?」
「あぁ、俺は二年の向日岳人」
「向日、だね。私も同じ二年の九条秋って言うの」
「知ってる知ってる。生徒副会長だろ?」
当時、秋は二年のときから生徒副会長に就任していた。
一年から生徒会に所属していてその頑張りが認められたこともあり、三年間ずっと生徒会長の座にいた跡部からの指名によって彼女は二年から副会長を務めている。
「知ってたんだね」
「まぁ、それなりに有名だしな。それじゃあ、俺は掃除に戻るぜ。じゃあな」
そう告げて、向日は自身の持ち場へと去って行った。
「……」
秋はその背中が見えなくなるまで見つめ、先程の一連を思い出した。
躊躇うことなく飛び降り、軽い足取りで着地する。その姿はまるで羽根の生えた天使のようにも見えて、一瞬世界が変わったような気がした。
キラキラと輝いていて、その素晴らしい身体能力に感動を覚えるほど。
その証拠にまだ胸の鼓動が治まらない。昂るような気持ちは秋の中で新しい感情が芽生えたが、まだその感情の名前に気づかない。
(間近で見ると本当に向日のアクロバティックな技は凄いよね……)
少し前にも女子に絡まれた所を向日が三階から飛び降りて助けてくれたけど、あのときも彼を天使のようだと思ったことは記憶に新しい。
「秋~」
自身の名前を呼ぶ声に秋はハッとして、呼びかけた相手へと振り返る。そこには同じクラスの芥川が眠そうに欠伸をしながら立っていた。
「ふわぁ~……ねぇ、そろそろ行かないと時間なくなるんじゃない?」
眠い目を擦りながらそう呟く芥川に秋は時間を確認する。
「あ、そうだね。教えてくれてありがとう、ジロー。急いで着替えて来るからジローも早く着替えてね」
残り時間が僅かだと気づいた秋は慌てて教室を出て芥川にも急ぐように伝えると、彼はこくこく頷きながら秋を見送った。
芥川はちらりと窓の外を眺めると、彼もまた向日とその友人達の姿を見つけた。同時に秋が眺めていた様子だということも理解する。
「……」
頭を掻きながら何とも言えない表情の芥川は半年前のことを思い出した。
(あ、向日だ……)
ふと教室の窓を見下ろすと、すでに体操着に着替えた向日とその友人達が楽しそうに話をしている様子が見えた。
D組である向日もC組男子と合同体育なのだが、女子と男子では同じ場で授業は出来ないため、顔を合わせることはない。
どうやらテンションが上がっているのか、向日はその軽い身のこなしで身体を解すように大きくジャンプをしたり、バク転を決めたりしている。
(凄いなぁ……向日。あんなに跳べるなんて……)
格好いい。思わず口にしてしまいそうなほど見蕩れてしまう。
そして初めて向日と会話したときのことをふと思い出す。
ちょうど一年ほど前の二年の頃だった。中庭の掃除をしていた秋は小さなか細い声が聞こえ掃除をする手を止めた。
にゃー、みぃ、とまるで小動物の鳴き声のようなものが耳に入るのでどこから聞こえるのか辺りを探してみたところ、頭上から聞こえることに気づき上を見上げる。
すると木の枝に猫がいるのを発見した。学園に迷い込んで来た猫なのだろうと察したが、その場から動けずに下を見ながら何度も鳴いている。
(もしかして降りれなくなったのかもしれない)
木に登ったのはいいが、そのあと降りれなくなったと考えた秋はなんとかして猫を降ろしてあげなければと思案する。
とはいえ、猫は随分と高い所まで登っているので木に登ったことのない秋が同じく登るのはなかなかに難しい。
試しに木に近づいてその肌を撫でてみるが、どうやって足を掛けたらいいのか、どうやって登るのか、秋には分からなかった。
そうしている間にも猫は不安そうな声で鳴くので秋は別の方法を考える。
(先生に訳を話してはしごとか借りれば……)
それなら大丈夫だろう。この場から離れるのは少し不安だけど、何もせず見てるわけにはいかなかったため秋は職員室に向かおうとしたそのときだった。
「あっ、猫じゃん!」
秋しかいなかったその場に別の人物の声が耳に入る。声の主の方へと振り向けば、そこには当時彼女の身長より低めか同じくらいの高さだった向日岳人の姿があった。
綺麗に整え赤みがかった髪は真っ先に目につく。まるで女子生徒のようだったが、男子制服を見てすぐに女子ではないことに気づいた。
向日は猫がいる木の元へ歩み寄れば秋へと目を向ける。
「もしかして降りれない感じか?」
「あ、うん。おそらくそうだと思うんだけど、とりあえずはしごを持って来ようかなって……」
「時間かかるだろ? 俺に任せとけ」
「えっ?」
言うや否や、向日は猫のいる木に登り始めた。慣れたような動きで簡単に登る彼はあっという間に猫がいる枝まで辿り着いた。
あんなにすぐに登れるなんて、と目を大きくさせた秋だったがまだ猫を降ろしてはいないので安心は出来ない。
木に登った彼が猫を驚かせてしまい、飛び降りさせてしまっては元も子もないので秋は注意するように声をかけることにする。
「あの、驚かせないように気をつけてねっ」
「わーってるって。……ほら、降ろしてやるからこっち来い」
猫の足場となる枝に足を掛けると、近づき過ぎないようにそして威圧感を与えないようにゆっくりとその場に座り込み、手を差し出してこちらに来させようと話しかける。
猫は戸惑いながらも逃げることも出来ないし、降りることも出来ないのでそろりそろりと少しずつ向日の手へと距離を詰める。
鼻先で向日の指先の匂いを嗅ぎ、小さく鳴く猫。まるで縋るような姿だった。
向日は優しく猫を抱えると、恐怖を与えないようにゆっくりとその場を立つ。
(でも、あの状態から降りることが出来るのかな……)
やっぱりはしごを持ってくるべきか、と相手の男子に尋ねようとしたところ、先に声をかけたのは相手の方からだった。
「お前、危ないからもう少し下がっとけよ!」
「え? あ、うん」
もしものことを考えてそう言ってくれたのだろうか。そう考えて秋は言われた通りその場から後ろへ何歩か下がる。
「これくらいでいい?」
「おう、いいぜ! そっから動くなよ! ……よっ、と!」
え。秋は声を出したか出ていないか分からない言葉が漏れる。
それもそのはず、小柄な男子が猫を抱えてその場から飛び降りたのだから。
「あ、危な━━」
慌てて彼の元へと駆け寄ろうとしたが、相手はくるりと空中で前転をして綺麗な着地を決める。それも駆けつけようと身体を動かした秋の真正面で。その距離は目と鼻の先だ。
あまりにも近い距離にお互いが驚きに目を丸くさせた。
「!」
「ビッ、ビらせんなよ! 動くなって言ったろ!?」
猫を抱えながら空いてる手を胸に当てて、もうすぐでぶつかったかもしれない恐怖に向日の心臓はバクバクしていた。
秋も同じく、胸の鼓動が大きくなり息が止まるかと思った。
「ご、ごめんなさいっ。危ないと思ってつい……」
「大丈夫だから下がらせたんだろ。動くなっつったのによ……まぁ、ぶつからなかったから良かったけど」
ふぅ、と息を吐いて、向日は猫をその場に下ろす。助けられた猫はようやく地に足を着くことが出来て嬉しかったのか、すぐに二人の前から姿を消した。
「まったく、お礼くらいしてけっての」
素っ気ないと思ったのか、少し愚痴る向日だったが、秋は未だに信じられないものを見た気分が抜けない。
「あの、あの子を助けてくれてありがとうございました」
「ん? あぁ、いや、お前に言ったわけじゃねぇけど……怪我がなさそうで良かったな」
「うん……えっと、あなたの名前を聞いても大丈夫?」
「あぁ、俺は二年の向日岳人」
「向日、だね。私も同じ二年の九条秋って言うの」
「知ってる知ってる。生徒副会長だろ?」
当時、秋は二年のときから生徒副会長に就任していた。
一年から生徒会に所属していてその頑張りが認められたこともあり、三年間ずっと生徒会長の座にいた跡部からの指名によって彼女は二年から副会長を務めている。
「知ってたんだね」
「まぁ、それなりに有名だしな。それじゃあ、俺は掃除に戻るぜ。じゃあな」
そう告げて、向日は自身の持ち場へと去って行った。
「……」
秋はその背中が見えなくなるまで見つめ、先程の一連を思い出した。
躊躇うことなく飛び降り、軽い足取りで着地する。その姿はまるで羽根の生えた天使のようにも見えて、一瞬世界が変わったような気がした。
キラキラと輝いていて、その素晴らしい身体能力に感動を覚えるほど。
その証拠にまだ胸の鼓動が治まらない。昂るような気持ちは秋の中で新しい感情が芽生えたが、まだその感情の名前に気づかない。
(間近で見ると本当に向日のアクロバティックな技は凄いよね……)
少し前にも女子に絡まれた所を向日が三階から飛び降りて助けてくれたけど、あのときも彼を天使のようだと思ったことは記憶に新しい。
「秋~」
自身の名前を呼ぶ声に秋はハッとして、呼びかけた相手へと振り返る。そこには同じクラスの芥川が眠そうに欠伸をしながら立っていた。
「ふわぁ~……ねぇ、そろそろ行かないと時間なくなるんじゃない?」
眠い目を擦りながらそう呟く芥川に秋は時間を確認する。
「あ、そうだね。教えてくれてありがとう、ジロー。急いで着替えて来るからジローも早く着替えてね」
残り時間が僅かだと気づいた秋は慌てて教室を出て芥川にも急ぐように伝えると、彼はこくこく頷きながら秋を見送った。
芥川はちらりと窓の外を眺めると、彼もまた向日とその友人達の姿を見つけた。同時に秋が眺めていた様子だということも理解する。
「……」
頭を掻きながら何とも言えない表情の芥川は半年前のことを思い出した。