「……それが、あなたの犯行と理由なんだね」
「そうよ……あんた達が西成さんのことをもっと考えたら良かったのに！　あんた達は西成さんの友達なんかじゃない！　友達失格よ！　早く西成さんを━━」
「待って！」

　悔しげに怒鳴る水瀬の言葉を遮ったのは彼女の後ろにいる遥だった。

「どうしてあたしの友達を水瀬さんが決めるの……？」
「それはっ……」
「あたしの友達はあたしが決めるよ。麻美と秋は誰がなんと言おうと大事な友達だし、その友達を悪く言うのは許せないよ……」
「っ……」

　悲しげな表情をしながら呟く遥に水瀬は言葉を詰まらせる。

「それにマネージャーになるって決めたのはあたしだよ。確かに誘われたけど無理やりじゃないし、判断したのはあたし自身だもん」
「……嘘……わた、し、西成さんが嫌がってると思って……」
「ううん。全然。楽しくやってるよ」

　きっぱりと答える遥に水瀬はようやく自分が勘違いの末、とんでもないのとをやらかしたことに気づき、その場に崩れ落ちた。

「私……西成さんの嫌なことをしてたの……？」
「普通に考えたら分かんだろ」
「麻美、そんなこと言わないで」

　追い討ちをかける麻美に秋が軽く口頭で注意する。

「……水瀬さん。あたしは友達が出来ても出来なくても話しかけてくれたら絶対に嬉しかったよ。変な言い方しちゃったから勘違いしたんだよね？　ごめんね、最初から友達になろうって言えば良かったよね」

　しゃがみ込んでそう語りかける遥の言葉に水瀬はホロリと涙をこぼした。

「どうやら俺の出番は必要なかったみたいだな」

　そこへ教室の外で待機していた跡部が姿を現す。
　今回の事件はレギュラーファンの誰かの犯行かと考えていたのでマネージャー達が容疑者に接触し、ボロを出したあとボイスレコーダーで証拠を収めた跡部が出て来て言い逃れが出来ないように畳み掛ける予定だった。

「水瀬あずさ。お前のやらかした罪は大きいぜ。ただの勘違いでしたで済む問題じゃねぇ」
「……はい。この度は……皆様に多大なる迷惑をかけました……部室内の破損した分は全部、弁償します……」
「お前が全て払える額じゃねぇぞ」
「もちろん、理解しています。両親に話して工面してもらい……私が稼げるようになったらしっかり両親に返します」

　淡々と自分が犯した罪を償う姿勢を見せるものの、生気は感じられない。全てどうでも良くなった姿にも見える。

「それで、お前は今後どう過ごすつもりだ？」
「ここまでのことを仕出かして、更に西成さんにも悲しませた私が学園に居座るほど面の皮は厚くないので学園から去ります」
「えっ！？」

　さすがにそこまでは遥も望んでいなかったので彼女は慌てて、その場に座り込む水瀬の肩を掴んだ。

「そこまでしなくてもいいよ！　もう、反省してるんでしょ？　もうこんなことしないならいいじゃん！　ねっ？　跡部も学校辞めちゃうなんてさすがにやりすぎだと思うよねっ！？」
「本人がそう決めるなら止める権利はねぇよ」
「そんな……」
「……跡部。私も追い出せば解決っていうのはちょっと違うと思う」

　秋も遥と同じように学園を去ることまでは望んではいなかった。罪をなすりつけられたとはいえ、誰かのために何かをした水瀬に少なからず悪い印象は抱けなかった。その方法は間違いだとしても。
　麻美はというと、どいつもこいつも甘ちゃんだな、と言いたげに不愉快そうな表情のままだった。

「待て。こいつの処分を決めるのは俺じゃねぇ。一番の被害者に決めてもらう」

　一番の被害者。つまりもっとも疑われた人物のことだった。