翌日、氷帝テニス部に女子マネージャーが三人も入部をしたという話はその日の朝練までに多くの生徒が知ったようで、いつもより多いギャラリーがテニス部のフェンスを囲む。

「昨日より鬱陶しいな、部外者の数」
「多分、私達の存在が一夜にして伝わっちゃったんだろうね。遅かれ早かれこうなってたと思うよ」
「あたしなんて昨日の夜からのスマホに色んな子達からなんでマネージャーになれたの！？　って沢山のお便りも届いてたよ」

　男子テニスコートを覗く多くは女子生徒。そんな彼女達が注目するのは今回ばかり人気の部員達ではなく、新しくマネージャーとなった三人だった。
　嫉妬、羨望、好奇心の視線が三人へと突き刺さる。マネージャー達を見てコソコソヒソヒソと話す者も多い。

「うーん……さすがに目立つかな」
「ぜーったいに後々女子から呼び出されて、マネージャー辞めてくれない？　って圧力があるんだよ！　あたし、漫画でよく見たもん！」
「ハッ。そんなの、一発食らわせて黙らせてやればいいだろ」
「……あたしと秋は麻美みたいに凶暴なことが出来ないか弱い女子なんだよ？」

　そんな遥の言葉に麻美は彼女の脳天に肘鉄を食らわせる。
　「おぐっ！？」という声と共に強烈な一撃を貰ってしまった遥は頭を抱えて痛みに悶絶した。
　そんな彼女達の前に一人の部員がやってくる。

「はぁ……なんなんですか、あの見物人の数は。これじゃあ、静かに練習も出来やしない。それもこれも全部あなた方のせいですよね？」

　マネージャー反対派の日吉が嫌みたっぷり口にしながら不満げな表情を彼女達に向ける。

「昨日からネチネチネチネチと陰気臭そうに文句言っていたキノコか。わざわざ胞子振りまいてんなよ」
「は？　あなたの目は節穴ですか？　どこをどう見たらキノコで胞子を振りまいているように見えるんです？　あぁ、あなたのその目は飾りなんでしょうね」
「あ？　下級生のくせに上級生を馬鹿にしてんの？　生意気なキノコが」

　麻美と日吉が互いに火花を散らしながら売り言葉に買い言葉のような悪態をつく。
　慌てて秋が二人の間に入り、喧嘩を止めようとする。

「二人とも落ち着いてっ。麻美も日吉くんもいがみ合わないで！」
「喧嘩売ってきたのは向こうだろ」
「だからって騒ぎを大きくしたら部活どころじゃなくなるでしょ」
「はぁ……もうマネージャー気取りですか。言っておきますが、俺はまだあんた達を認めてないので。それだけはお忘れなく」

　ハッ、と鼻で笑う日吉は三人を蔑むような視線を向けて、マネージャー達の前から立ち去った。

「……昨日の長太郎とはまた違う意味で麻美に物怖じしない二年生だなぁ。しかし、完全にあたし達を目の敵にしちゃってるね」
「あのキノコ、とっとと再起不能になるまで潰すか」
「麻美、そんなことしたらダメだからね？　……でも、仕方ないことだと思うよ。今までマネージャーを必要としなかっただけに私達がマネージャーとして採用されることは前代未聞なんだから。それに人間なんだからみんながみんな賛成するとも限らないんだしね」
「秋ってば大人～！」

　そんな朝練での出来事があったマネージャー達ではあるが、その日遥が口にしていた内容が現実となる。