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関東大会開幕VS青学
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第1試合━━。忍足、向日対菊丸、桃城のダブルスが始まる。青学側のペアを見て疑問に思う氷帝メンバーが何人かいる中、宍戸が口を開いた。
「なんで青学の奴ら黄金ペアを出さねぇんだ?」
「ごーるでん? 凄いペアなの?」
キンキラキンじゃんー! と輝かしいそのコンビ名に遥が反応すると滝が続けて説明をする。
「青学の大石、菊丸のもっとも強敵なダブルスコンビだよ。昨年も全国にその名を轟かせているし、油断出来ない相手だね」
「その黄金ペアの一人である菊丸くんは今試合に出てる人なんだよね?」
秋の言う通り、今氷帝のダブルスと対戦しているのが黄金ペアの片割れである菊丸英二だった。それを見た跡部は鼻で笑う。
「ハッ。都大会ではちゃんと黄金ペアが出場したってのに急増コンビをぶつけてくるとはナメられたもんだな」
「でも、その大石さんの姿が見えないですね……何かあったんじゃないでしょうか?」
青学側の応援席やベンチに目を向けても大石秀一郎と思わしき姿が見えなかったため、鳳はそれが出場しない理由なのではないかと考えた。
今度はそれを聞いた麻美が鼻で笑う。
「ハッ。情けねぇ。体調管理もろくに出来ないとはな」
「麻美、まだそうと決まったわけじゃないから決めつけるのは良くないよ?」
「どちらにせよ、適当に組ませたダブルスが出てきた時点でこの試合の勝ちは当然だろ」
「おぉ、まるで悪役の台詞だね! つまり、フラグってやつだ! 発言には気をつけるのだぞっ、麻美!」
「くだらないことで私に注意すんな下僕が!」
「理不尽な暴言っ!」
試合の真っ只中だというのに麻美と遥は仲良くじゃれ合っていた。遥にとっては「どこが!?」と否定するだろうが、秋の目から見たらそう映ってしまう。
けれど、勝てる要素があると思うと秋もどこか安心して観戦が出来る。
現に今は忍足と向日ペアが優勢であり、見せつけるかのような月面宙返りを決める姿は秋の胸を大きく高鳴らせた。
なんて格好良くて綺麗なんだろう。ずっと見ていたくなるような身軽さは本当に羽が生えた天使のように見える。とにかく秋は釘付けだった。
部活中は何だかんだ動き回っているので試合を観戦する暇はない。だから大会中にずっと試合を見られることは秋にとってとても楽しみだった。
そして実際に目の当たりにした向日のテニス。彼から一時も目が離せなかった。出来ることならずっと見ていたいくらいに。
「それにしても忍足もやるな」
「えっ?」
そこで秋はハッとする。麻美が突然忍足のことを褒めたのだから。それは珍しいことだし、なぜ彼女がそう口にしたのか秋には分からなかった。
「相手の2年とはいえ強烈なスマッシュを打ち返しやがった。ただの伊達眼鏡じゃないってわけか」
「忍足にしてはやるではないかっ!」
「当然だ。奴はうちの天才だからな。青学の天才にだって引けを取らねぇぜ」
どうやら忍足が桃城のスマッシュを返したようだ。羆返しというスマッシュを無効化した技で。
そこで秋は気づいた。思っていた以上に向日しか目に入っていなかったことを。
好きだと自覚したせいなのか、まさか他のメンバーの動きが見えなくなるくらいに集中して彼を見ていたとは。
向日だけじゃなく忍足にも応援しなければいけないのに好きな相手に見とれていたなんて……そう思うと秋は恥ずかしくなり、ちゃんと試合を見なきゃとしっかり全体を見るように努めた。
試合は問題なく氷帝が4-0でリードしている。このまま点を取れば確実に勝てるはず。
菊丸の動きもいつものようではないと他のレギュラー達の話を聞きながら、やはり慣れないペアで大会を臨むのは賭けでしかなかったのだろうと思った━━が、いつからだろう。試合の空気が変わり始めた。
「おっ。ラッキー! 当たっちゃったよ」
桃城がまるでそう来ると予想していたかのようにボールを返し、ポイントを決め。
「完ペキパーペキパーフェクトってね!」
前衛担当とも言える菊丸が後衛に走り、股抜きショットをするがそれを返球しても桃城のスマッシュが炸裂した。ここで驚くことは前衛で攻撃するタイプの菊丸が後衛でフォローしたということ。
そんな先程までの動きと全く違う理由はただひとつ。オーストラリアンフォーメーションという陣形を始めてからだ。
「あのオーストラリアンフォーメーションからコンビネーションが何故か格段に良くなっているぜ」
跡部も試合展開が変わった原因に気づくもののどこか腑に落ちなかった。
そうしている間にいつの間にかゲームは4-4と追いつかれてしまった。そんな現状に遥がぽつりと呟く。
「ねぇ……さすがにヤバいんでない?」
なんであんなすぐに4ゲーム取っちゃうのさ!? と訴える遥に麻美も不機嫌そうな顔をし始める。
「跡部。あのなんちゃらフォーメーションってのは急造コンビが簡単に出来るもんなのか?」
「出来りゃ全てのダブルスプレイヤーが使ってるはずだぜ。あとオーストラリアンフォーメーションだ」
「つまり、急増コンビだと思っていたが本当は熟練のダブルスプレイヤーだったっつーわけか?」
「それはないな。黄金ペアがオーストラリアンフォーメーションを見せたのも都大会からだ。いくら菊丸の奴がやったことあるからって桃城の奴まで簡単に出来るわけがねぇ。なぁ、樺地?」
「ウス」
「はあ? じゃあなんであんな簡単にマスターしてやがんだよ」
「俺に怒るな。なんであの二人がうちのダブルスに対抗出来るかなんざ……いや、見ろ」
ふと、跡部が何かに気づいた。彼の視線は敵陣である青学へと向けられる。
そこには青学のレギュラージャージではなく学校指定のジャージを羽織り、菊丸と桃城に向けて腕を突き出す大石の姿があった。
「奴らは二人じゃねぇ。三人でダブルスをやっているんだ」
「な、なんだってー!? と、大袈裟に言ってはみたがどゆことよ? 遥さんに分かるように説明よろ!」
「……。つまり、桃城に伝授したんだろ。ダブルスの何たるかをな。大石の知識と経験を他人に上手く伝えるのもそうだが、それを飲み込み臆せず挑む桃城にあえて得意なプレイを外しフォローに回る菊丸。どれかが欠けてりゃああならなかっただろうな」
「しっかし、岳人の奴もう体力落ちてるぜ」
宍戸の言う通り、コートに立つ向日の動きが鈍くなっていた。息を切らせて汗を流し、アクロバティックのキレも悪くなる。
「向日先輩はあのムーンサルト殺法で掻き乱し、一気に試合を決める速攻型っスからね」
こくっと頷く鳳に麻美が横から口を出す。
「速攻型なのは嫌いじゃないな」
「赤宮先輩は向日先輩の戦闘スタイルが好きなんですか?」
「そりゃあ手っ取り早くて時間の無駄にならないし。……言っとくけど別に跳ぶのがいいとかじゃないからな」
「あ、はい」
「……」
手を前に組む秋の力がぐっと込められた。不安と焦りが秋の中で芽生える。いや、本当は向日達の方がこの感情を抱えているのかもしれないけど、観戦する秋も同じ気持ちになった。
「接戦になる事くらい考えとけっての」
「相手をナメてかかるとこうなるんだよ」
跡部と宍戸はダブルス2の二人を心配するどころか、こうなる状況になったのは自業自得とでも言いたげに悪態ついていた。
特に宍戸の言葉は重く感じる。相手を見くびったせいでレギュラー落ちとなった宍戸のことを忍足と向日も知らないわけではない。
それなのに同じ道を歩むチームメイトに宍戸は苛立ちを抱かずにはいられなかったのだ。
そんな彼の言葉を聞いた麻美はフッと笑い、宍戸へと目を向ける。
「学習してるじゃん」
「俺は同じ間違いはしねぇっつーの」
照れ隠しするようにふいっと顔を逸らす宍戸に鳳が「いいなぁ、宍戸さん褒められて……」と、どこか羨ましげに彼を見ていた。
けれど秋にはそんな会話すら耳に入らず、4ゲーム取っていたはずなのにいつの間にか追いつかれてしまい、とうとう同点だったはずが4-5と青学にリードを許してしまう。
(岳人……)
お願い、頑張って。そう強く願う秋は何とかまた逆転をしてほしいと祈るような気持ちで向日を見守った。
「忍足が攻め始めたね」
滝が呟くと何人かは体力切れでへばる向日から忍足へと注目し始めた。
まるでパートナーをカバーするかのように忍足は青学優勢のこの流れをどうしても変えようと奮起するが桃城が忍足を抑え込もうとする。
「ね、ね、萩。忍足と岳人勝てると思う?」
「うーん……最初は勝てると思ったけど、負ける可能性が見えてきたのも事実だね。せいぜい注意するのは菊丸だろうと思ってたけど、想像以上に青学の2年……なかなかにやるねー」
「うぇー……いきなり組んだコンビに負けるのはさすがに二人もプライドがズタボロにされるんでない?」
「そう思うのが間違いなのかもしれないね。急造ペアだろうと戦わない限り実力は分からないんだし。だから宍戸の言う通り軽んじるのは確かに良くない。そのせいで精神的にも追い詰められる結果になるからね」
「……」
遥と滝の会話を小耳に挟みながら麻美は桃城を見つめていた。そして記憶の中で彼の姿があったことを思い出す。
そう、確か跡部達がストリートテニス場で油を売っていた時に見かけたツンツン頭の奴だ。
あの時はどちらかと言うと跡部に猿山の大将だと喧嘩を売っていた帽子を被った1年の印象が強かった。
「この一球に全てを懸ける!!」
試合の方はというと忍足がロブを上げ、桃城が高くジャンプしたところだった。跳躍力の高い彼が高打点から放つダンクスマッシュという強力なスマッシュを打つ絶好のチャンスボール。
この一撃で決めると宣言する桃城のその言葉に跡部は小馬鹿にするように笑った。
「ツメの甘い奴だぜ。お前のダンクだろうと忍足には……」
「いや、違うな」
跡部の言葉を遮り、よく見ろと言わんばかりに麻美が告げた。
彼女の言う通り、桃城はチャンスボールをわざと空振りしたのだ。桃城が打つはずだったそのボールは彼の相方である菊丸がスマッシュを放つ。
まさかの展開に桃城の打球を羆返しで返そうとした忍足は反応が遅れ、対処出来ずに終わってしまう。
そしてゲームセットという審判の声が響いた。
「なんで青学の奴ら黄金ペアを出さねぇんだ?」
「ごーるでん? 凄いペアなの?」
キンキラキンじゃんー! と輝かしいそのコンビ名に遥が反応すると滝が続けて説明をする。
「青学の大石、菊丸のもっとも強敵なダブルスコンビだよ。昨年も全国にその名を轟かせているし、油断出来ない相手だね」
「その黄金ペアの一人である菊丸くんは今試合に出てる人なんだよね?」
秋の言う通り、今氷帝のダブルスと対戦しているのが黄金ペアの片割れである菊丸英二だった。それを見た跡部は鼻で笑う。
「ハッ。都大会ではちゃんと黄金ペアが出場したってのに急増コンビをぶつけてくるとはナメられたもんだな」
「でも、その大石さんの姿が見えないですね……何かあったんじゃないでしょうか?」
青学側の応援席やベンチに目を向けても大石秀一郎と思わしき姿が見えなかったため、鳳はそれが出場しない理由なのではないかと考えた。
今度はそれを聞いた麻美が鼻で笑う。
「ハッ。情けねぇ。体調管理もろくに出来ないとはな」
「麻美、まだそうと決まったわけじゃないから決めつけるのは良くないよ?」
「どちらにせよ、適当に組ませたダブルスが出てきた時点でこの試合の勝ちは当然だろ」
「おぉ、まるで悪役の台詞だね! つまり、フラグってやつだ! 発言には気をつけるのだぞっ、麻美!」
「くだらないことで私に注意すんな下僕が!」
「理不尽な暴言っ!」
試合の真っ只中だというのに麻美と遥は仲良くじゃれ合っていた。遥にとっては「どこが!?」と否定するだろうが、秋の目から見たらそう映ってしまう。
けれど、勝てる要素があると思うと秋もどこか安心して観戦が出来る。
現に今は忍足と向日ペアが優勢であり、見せつけるかのような月面宙返りを決める姿は秋の胸を大きく高鳴らせた。
なんて格好良くて綺麗なんだろう。ずっと見ていたくなるような身軽さは本当に羽が生えた天使のように見える。とにかく秋は釘付けだった。
部活中は何だかんだ動き回っているので試合を観戦する暇はない。だから大会中にずっと試合を見られることは秋にとってとても楽しみだった。
そして実際に目の当たりにした向日のテニス。彼から一時も目が離せなかった。出来ることならずっと見ていたいくらいに。
「それにしても忍足もやるな」
「えっ?」
そこで秋はハッとする。麻美が突然忍足のことを褒めたのだから。それは珍しいことだし、なぜ彼女がそう口にしたのか秋には分からなかった。
「相手の2年とはいえ強烈なスマッシュを打ち返しやがった。ただの伊達眼鏡じゃないってわけか」
「忍足にしてはやるではないかっ!」
「当然だ。奴はうちの天才だからな。青学の天才にだって引けを取らねぇぜ」
どうやら忍足が桃城のスマッシュを返したようだ。羆返しというスマッシュを無効化した技で。
そこで秋は気づいた。思っていた以上に向日しか目に入っていなかったことを。
好きだと自覚したせいなのか、まさか他のメンバーの動きが見えなくなるくらいに集中して彼を見ていたとは。
向日だけじゃなく忍足にも応援しなければいけないのに好きな相手に見とれていたなんて……そう思うと秋は恥ずかしくなり、ちゃんと試合を見なきゃとしっかり全体を見るように努めた。
試合は問題なく氷帝が4-0でリードしている。このまま点を取れば確実に勝てるはず。
菊丸の動きもいつものようではないと他のレギュラー達の話を聞きながら、やはり慣れないペアで大会を臨むのは賭けでしかなかったのだろうと思った━━が、いつからだろう。試合の空気が変わり始めた。
「おっ。ラッキー! 当たっちゃったよ」
桃城がまるでそう来ると予想していたかのようにボールを返し、ポイントを決め。
「完ペキパーペキパーフェクトってね!」
前衛担当とも言える菊丸が後衛に走り、股抜きショットをするがそれを返球しても桃城のスマッシュが炸裂した。ここで驚くことは前衛で攻撃するタイプの菊丸が後衛でフォローしたということ。
そんな先程までの動きと全く違う理由はただひとつ。オーストラリアンフォーメーションという陣形を始めてからだ。
「あのオーストラリアンフォーメーションからコンビネーションが何故か格段に良くなっているぜ」
跡部も試合展開が変わった原因に気づくもののどこか腑に落ちなかった。
そうしている間にいつの間にかゲームは4-4と追いつかれてしまった。そんな現状に遥がぽつりと呟く。
「ねぇ……さすがにヤバいんでない?」
なんであんなすぐに4ゲーム取っちゃうのさ!? と訴える遥に麻美も不機嫌そうな顔をし始める。
「跡部。あのなんちゃらフォーメーションってのは急造コンビが簡単に出来るもんなのか?」
「出来りゃ全てのダブルスプレイヤーが使ってるはずだぜ。あとオーストラリアンフォーメーションだ」
「つまり、急増コンビだと思っていたが本当は熟練のダブルスプレイヤーだったっつーわけか?」
「それはないな。黄金ペアがオーストラリアンフォーメーションを見せたのも都大会からだ。いくら菊丸の奴がやったことあるからって桃城の奴まで簡単に出来るわけがねぇ。なぁ、樺地?」
「ウス」
「はあ? じゃあなんであんな簡単にマスターしてやがんだよ」
「俺に怒るな。なんであの二人がうちのダブルスに対抗出来るかなんざ……いや、見ろ」
ふと、跡部が何かに気づいた。彼の視線は敵陣である青学へと向けられる。
そこには青学のレギュラージャージではなく学校指定のジャージを羽織り、菊丸と桃城に向けて腕を突き出す大石の姿があった。
「奴らは二人じゃねぇ。三人でダブルスをやっているんだ」
「な、なんだってー!? と、大袈裟に言ってはみたがどゆことよ? 遥さんに分かるように説明よろ!」
「……。つまり、桃城に伝授したんだろ。ダブルスの何たるかをな。大石の知識と経験を他人に上手く伝えるのもそうだが、それを飲み込み臆せず挑む桃城にあえて得意なプレイを外しフォローに回る菊丸。どれかが欠けてりゃああならなかっただろうな」
「しっかし、岳人の奴もう体力落ちてるぜ」
宍戸の言う通り、コートに立つ向日の動きが鈍くなっていた。息を切らせて汗を流し、アクロバティックのキレも悪くなる。
「向日先輩はあのムーンサルト殺法で掻き乱し、一気に試合を決める速攻型っスからね」
こくっと頷く鳳に麻美が横から口を出す。
「速攻型なのは嫌いじゃないな」
「赤宮先輩は向日先輩の戦闘スタイルが好きなんですか?」
「そりゃあ手っ取り早くて時間の無駄にならないし。……言っとくけど別に跳ぶのがいいとかじゃないからな」
「あ、はい」
「……」
手を前に組む秋の力がぐっと込められた。不安と焦りが秋の中で芽生える。いや、本当は向日達の方がこの感情を抱えているのかもしれないけど、観戦する秋も同じ気持ちになった。
「接戦になる事くらい考えとけっての」
「相手をナメてかかるとこうなるんだよ」
跡部と宍戸はダブルス2の二人を心配するどころか、こうなる状況になったのは自業自得とでも言いたげに悪態ついていた。
特に宍戸の言葉は重く感じる。相手を見くびったせいでレギュラー落ちとなった宍戸のことを忍足と向日も知らないわけではない。
それなのに同じ道を歩むチームメイトに宍戸は苛立ちを抱かずにはいられなかったのだ。
そんな彼の言葉を聞いた麻美はフッと笑い、宍戸へと目を向ける。
「学習してるじゃん」
「俺は同じ間違いはしねぇっつーの」
照れ隠しするようにふいっと顔を逸らす宍戸に鳳が「いいなぁ、宍戸さん褒められて……」と、どこか羨ましげに彼を見ていた。
けれど秋にはそんな会話すら耳に入らず、4ゲーム取っていたはずなのにいつの間にか追いつかれてしまい、とうとう同点だったはずが4-5と青学にリードを許してしまう。
(岳人……)
お願い、頑張って。そう強く願う秋は何とかまた逆転をしてほしいと祈るような気持ちで向日を見守った。
「忍足が攻め始めたね」
滝が呟くと何人かは体力切れでへばる向日から忍足へと注目し始めた。
まるでパートナーをカバーするかのように忍足は青学優勢のこの流れをどうしても変えようと奮起するが桃城が忍足を抑え込もうとする。
「ね、ね、萩。忍足と岳人勝てると思う?」
「うーん……最初は勝てると思ったけど、負ける可能性が見えてきたのも事実だね。せいぜい注意するのは菊丸だろうと思ってたけど、想像以上に青学の2年……なかなかにやるねー」
「うぇー……いきなり組んだコンビに負けるのはさすがに二人もプライドがズタボロにされるんでない?」
「そう思うのが間違いなのかもしれないね。急造ペアだろうと戦わない限り実力は分からないんだし。だから宍戸の言う通り軽んじるのは確かに良くない。そのせいで精神的にも追い詰められる結果になるからね」
「……」
遥と滝の会話を小耳に挟みながら麻美は桃城を見つめていた。そして記憶の中で彼の姿があったことを思い出す。
そう、確か跡部達がストリートテニス場で油を売っていた時に見かけたツンツン頭の奴だ。
あの時はどちらかと言うと跡部に猿山の大将だと喧嘩を売っていた帽子を被った1年の印象が強かった。
「この一球に全てを懸ける!!」
試合の方はというと忍足がロブを上げ、桃城が高くジャンプしたところだった。跳躍力の高い彼が高打点から放つダンクスマッシュという強力なスマッシュを打つ絶好のチャンスボール。
この一撃で決めると宣言する桃城のその言葉に跡部は小馬鹿にするように笑った。
「ツメの甘い奴だぜ。お前のダンクだろうと忍足には……」
「いや、違うな」
跡部の言葉を遮り、よく見ろと言わんばかりに麻美が告げた。
彼女の言う通り、桃城はチャンスボールをわざと空振りしたのだ。桃城が打つはずだったそのボールは彼の相方である菊丸がスマッシュを放つ。
まさかの展開に桃城の打球を羆返しで返そうとした忍足は反応が遅れ、対処出来ずに終わってしまう。
そしてゲームセットという審判の声が響いた。