幼女戦記(二次創作)

 「大尉殿もお人が悪いですよね」
 「はあ、なんだ唐突に」

 隣で琥珀色の液体を呷る男に発言の真意を問う。同期の、それもお互いが休暇中のサシの飲みなのだから彼好みのビールでも注文すれば良いものを、明日にアルコールを残したくないという理由で先に宿舎に戻るノイマンを見送った後に入った二件目の、其れも偶然、昨今では市場に出回ることの少なくなった故郷のビールが置いてある酒場で、彼には馴染みが無いであろう味と香りを共有している此の状況は現実感がまるでなかった。そんな時にケーニッヒの吐いた言葉は、久方振りに口にしたハイマートの味を堪能し大層良い気分の自分を少しだけ現実に引き戻す。


 「女性に誠実のつもりでいるのでしょうが其れが反って残酷だな、と」  
 「……貴官も大概だと思うが」
「軟派の失敗を擦り合うつもりで言ってませんよ」

 体躯の良い男二人がこうしてカウンターに肩を並べて静かに酒を呷る様子は端から見た異性には大層魅力的に映ったことであろう。惜しむべきはこんな時分に酒場を訪れるフリーの女性が居ないということであるが。

 「大尉殿の女性遍歴は存じ上げませんが…、朴念仁って言われません?」

 ドキリ、心臓が一度大きく波打った振動がジョッキを持つ右手に電気が走るように伝播して琥珀色の液体が揺らいだ。彼の言葉はいつもそうだ。直接的な言葉を選ばず遠巻きに真意を問うてくる遣り方をする。そして自分の性分的にも彼の遣り方とは相性が悪い自覚があるので降参の意でヴァイスは両手を軽く挙げた。

 「大尉殿のその素直さはある意味美徳ですね」
 「貴官に嘘は通じないだろうからな」

 向けられた視線と瞳に宿る熱の意味を履き違えてならないと律していたことを第三者に勘付かれる程に分かり易い振る舞いをしていたのだろうか、と最近の行動を振り返ってみる。ボロは出していない筈だ、……多分。
 
 「大尉殿はいつから気付いて御有りで?」
 「…黙秘権を行使させてくれ」  
 「俺には構わないですけど」

 ケーニッヒは此方が拍子抜けするくらいあっさりと引き下がる言葉を口にしたかと思いきや、手元のジョッキを飲み干した口元がにんまりと弧を描いていたことに、その様子を横目で見ていたヴァイスの口角がひくりと引き攣る。
 
 「知らない振りを何時まで突き通せるか見物ですね」

 ……最早愉しんでるなこいつ。

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