忍たま乱太郎
夢小説設定
夕刻まで延びた屋外での授業から解放され急ぎ足で委員会活動に向かった留三郎と別れた伊作は、夕餉まで残された時間をどのように過ごそうかと首を傾げて考える。
何時であれば当番日でなくとも自然と医務室に足が向いたけれど、昨日からずっと自身の内で蟠っている感情の置き場が定まらないままの状態で彼女と遭うことは極力避けたいと思い、薬草園や図書室等の頭に浮かんできた候補は全て却下して長屋で時間を潰すという無難な選択を取ることにした。
(明日には顔を合わせることになるだろうけど)
雨森先輩は新野先生に教えを乞いに頻繁に医務室に訪れては半ば保健委員のようなことをしていた。彼女は正式な保健委員ではない為に当番は割り当てられていないけれど、彼女に用があるならば先ずは医務室へ向かえば探す手間が省ける程度には高頻度で医務室に入り浸っている。今日だって伊作が踵を返さずに医務室を訪れたのなら、きっと先日干し上げが終わった生薬の薬研と調合を丁寧に教えて貰えることになるのだろう。
新野先生や先輩方に抱く尊敬の念とは別に、『善法寺君は飲み込みが早いね』と彼女から褒められた事が特別に嬉しくて、其の時に芽生えた感情が恋心に変化するにはそう時間は掛からなかった。だが、沙夜に此の想いを打ち明けるつもりは毛頭無く、ずっと変わらない関係を保ったまま彼女の卒業を送るのだろうと漫然と考えていたところに『房中術』という不可避の課題が伊作を現実に引き戻す。
恋慕う感情はあれどつい先日までは特別扱いして欲しいとも思わず『先輩と後輩』という居心地の良い関係でいられることに満足していたのは確かだ。何時からか彼女の柔肌を想像して夜に自身を慰めるようになっていたことは否定をしないが、どうしてか彼女と
答えが出ぬまま長屋で一人悶々と考えていると、面格子から投げ込まれた何かが文机の上に落ちた。其れは三折りにされた指令書で『明ケ六ツ 正門ニテ待テ』としか読み解けなかったが、具体的な記載がないことから上級生先導の校外任務だろうことは予想が付く。そして同時に『上級生との校外任務』の含意を深読みして、其れを否定出来ない条件が整っていることに気が付かない振りを出来る程伊作は鈍感では居られない。
格子窓から射し込んでいた入日陰は何時しか角度を変えて伊作の手元に薄い影を落とす。指令書の墨の色が格子の影と馴染んでいく様を眺めながら残された時間は幾許も無いことを自覚して、伊作はぎゅっと目蓋を伏せた。