マッシュル-MASHLE-
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あの後、どうやって彼と別れて自室まで戻ってきたのか思い出せない。早退も告げずに勝手に帰ってきてしまったかもしれないと一瞬不安に駆られるも、職場に連絡を入れようにも身体も思考も鉛のように重く、今は他に思考を割ける程の余裕がエステルには無かった。
窓から望む景色はいつの間にか夕闇にのまれていて、自室の灯りも点けぬまま薄暗い部屋でエステルは一人踞 ると、堰を切ったようにはらはらと涙が溢れた。ずっと、彼の言葉が頭を離れない。
(どうして、今更)
ゲヘナ家の後継者問題は急務であることは元婚約者の立場から十分に理解していた。血統主義の貴族でさえ血を絶やさない為に側女を置くぐらいなのだから、代々黒炎の剣を継いでいく為に子を成すことがゲヘナ家にとってどれだけ重要なのかは仮に当事者でなくとも分かる。だから、彼の為に出来る最善を取ってエステルから婚約破棄を申し出た。正式な手続きも終えてから既に五年近くの年月が経っている。
ただ、当事十八歳の学生だったエステルと神覚者カルドの婚約が破談になった後、ゲヘナ家は表立った動きをみせていない。元々エステルとの婚約自体も身内だけで済ませていた為そこまでおかしくはない話なのであるが、カルド自身の女性関係すらエステルの耳に入るような噂一つ流れてこないのは確かに違和感があった。
が、それもいずれ新たな縁談が纏まればスムーズに事が運ぶのだろうと思い、深入りもせずひとりの友人としての関係でいようと努めていた。カルドが誰を選んでも祝福しようと固く心に決めて、未練も押し隠して振る舞えていたと思っていた。
(もう望みはしないと決めていたのに)
差し伸べられた彼の手を取ってしまえたらどんなに幸せだろうか。諦めてしまっていた未来を夢見ても良いのだろうか。カルドに触れられた左手は手袋越しに微かに伝わった彼の体温を覚えている。
今は隠されている手袋の下は『あの頃』の儘なのだろうかと彼の肌を思い出して、エステルは紅潮していく自身の顔を両手で覆い隠した。
窓から望む景色はいつの間にか夕闇にのまれていて、自室の灯りも点けぬまま薄暗い部屋でエステルは一人
(どうして、今更)
ゲヘナ家の後継者問題は急務であることは元婚約者の立場から十分に理解していた。血統主義の貴族でさえ血を絶やさない為に側女を置くぐらいなのだから、代々黒炎の剣を継いでいく為に子を成すことがゲヘナ家にとってどれだけ重要なのかは仮に当事者でなくとも分かる。だから、彼の為に出来る最善を取ってエステルから婚約破棄を申し出た。正式な手続きも終えてから既に五年近くの年月が経っている。
ただ、当事十八歳の学生だったエステルと神覚者カルドの婚約が破談になった後、ゲヘナ家は表立った動きをみせていない。元々エステルとの婚約自体も身内だけで済ませていた為そこまでおかしくはない話なのであるが、カルド自身の女性関係すらエステルの耳に入るような噂一つ流れてこないのは確かに違和感があった。
が、それもいずれ新たな縁談が纏まればスムーズに事が運ぶのだろうと思い、深入りもせずひとりの友人としての関係でいようと努めていた。カルドが誰を選んでも祝福しようと固く心に決めて、未練も押し隠して振る舞えていたと思っていた。
(もう望みはしないと決めていたのに)
差し伸べられた彼の手を取ってしまえたらどんなに幸せだろうか。諦めてしまっていた未来を夢見ても良いのだろうか。カルドに触れられた左手は手袋越しに微かに伝わった彼の体温を覚えている。
今は隠されている手袋の下は『あの頃』の儘なのだろうかと彼の肌を思い出して、エステルは紅潮していく自身の顔を両手で覆い隠した。