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宛がわれた部屋で漸く独りになれたゴクラクは、服飾部から支給された制服のまま寝台に寝転び、溜め込んでいた緊張と疲労を吐き出すように長い息を漏らした。
姉上に背中を押されて心晴れやかに祖国を発ったは良いものの、ゴクラク自身魔女協会の活動を阻害した罪は重く受け止めていて、上層部の寛大な処置が言い渡されるまでの間あらゆる処罰も覚悟を決めて時を過ごしていただけに解放感も
(天井が高い、な)
仰向けの体勢のままぼんやりと暗い天井を眺めていると、梁もなくキャンバスのように視界に拡がる均一的な模様が見慣れぬ建築様式であることに今更ながらに落ち着かなく思えてきて、男はぐっと目蓋を閉じた。このまますとんと眠りに落ちてくれれば良いのだが、今日一日で起きた出来事が渦潮のようにぐるぐると駆け巡っては交感神経を刺激していくようで、ゴクラクの期待に反して目も身体も冴えてきてしまう。
ゴクラクは眠ることを諦めて寝台から身を起こすと、フローリングに落ちていた
日中は太陽の光を受けて白く輝く建造物と青い空のコントラストで目が眩む程の首都ナタリーの街並みは夜の帳が下りてからは淡い灯りに包まれていた。
故郷の、高く聳え立つ赤壁の岩壁が青緑色の瓦屋根を見下ろす光景とは程遠いけれど、潮風が窓硝子を掠める度に街の灯りが揺れているように目に映り、其の様子が軒先に提灯に灯した故郷の街並みを想起させてゴクラクは郷愁に駆られる思いがした。仮に祖国に留まる選択をしていたのなら、今頃は花風舞う此の季節を十年振りに愛でることも出来たのであろう。故郷の空を舞い上がる花弁が溶けたような柔らかな風も姉上が作る花冠の甘い香りも全てが愛おしい記憶だ。───花の名前一つでさえ未だに覚えられないのだけれど。
(此の街の空気も決して嫌いじゃない、が)
故郷の匂いが身体から抜けてしまうのが惜しく思えて、ゴクラクは錠に掛けていた指先を下ろし張り出し窓に背を向ける。そしてフローリングに落ちていた薄桃色の花弁を掬いベッドサイドチェストの上にそっと置くと、今度は沈むように寝台に身体を預けてそのままゆっくりと目蓋を閉じた。
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