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『此処に来るのに随分と時間が掛かってしまった』と微苦笑混じりに謝意を口にした男は、劉の記憶するどの表情よりも随分と柔らかい笑みを浮かべて目の前に現れた。
「俺は対顔の報告を求めたつもりは無かったのだが」
「……怒ったか?」
「貴様には他に道もあっただろう」
言葉は返さず雷蔵は静かに眉を下げる。劉が生前、絵師碓心としての一面を認識していたとは考え難いが、嘗て『人斬り』と冷罵した彼が雷蔵に
彼の遺志を継ぎそして己の
(どうせ其方と会う前に失くした命だ)
刀の代わりに筆を手にする人生は本来存在し得なかった。身を立てる術も幽烟と雁木屋主人によって見出だされたものであり、名を捨てた後も碓水幽烟の表の顔を見倣って生きようにも雷蔵自身が絵師と受け入れることは終ぞ無かった。
「刀を握る以外のことは俺には出来なかったようだ」
「愚直なまでの生き方は死んでも治らなかったとは、な」
そう言うと劉は静かに杯を煽った。態々彼の表情を覗き見ずとも険が取れた顔をしているのを感じ取って、雷蔵もまた杯を一口煽り空を見上げた。二人が腰を下ろす大樹の千枝には雪色に染まった桜のような花が帳幕をめぐらせ咲き溢れている。
「悔いが無かったとは言えぬが、今は不思議と晴れやかな心地だ」
膝元に下ろした杯に白い花弁が一つひらりと舞い込み透き通る酒の上を滑っていく。其れは暫し笹舟のように留まった後、溶けるようにゆっくりと杯の底へ沈んでいった。
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