幼女戦記(二次創作)


 
 この世界に女の身体で生を受けて得をした記憶など数えられる程度しかない。広報写真に使われるだけの容姿を持っていたとしても所詮はプロパガンダ。どうせ利用されるならば永続的に後方勤務にして欲しいものだとそんな嘆願は出せる筈もなく。撮影期間に合わせて部隊ともども前線から離れられるともあらば、束の間の休息を謳歌出来る部下達が羨ましくもあった。私は拘束される身であるのに、と。
 
 「―――再度確認致しますが、同行するのは本当に小官で宜しかったので?」
 「名目上待機中ではあったとしても今更副長を欠いたとて支障はなかろう」
 
 ターニャはヴァイスの含意を敢えて汲み取ることはしなかった。参謀職会合ならいざ知らず『こういった』呼び出しに際してはどう考えても副官が適任ではないかと思うのは当然と云えば当然であろう。席官序列でヴァイスの次席にあたるケーニッヒには指揮官代理の責を任せてあるとは云え、療養休暇でも無いのに自分の領分を取り上げられたヴァイスの顔には未だに困惑の色がちらちらと覗く。
 
 「それとも予定が何か?」
 「いいえ、私的な時間を作る程度ですよ」
 
 予定が全く無い訳では無かったが、緊急連絡を意識して派手な予定は組まないようにする主義の男であった。たまの休養日なのだから他の隊員と同じく少し位羽を伸ばしても良いだろうに、と思うけれど、だからこそ彼の真面目な性分が今のターニャには都合が良い。
 
 「…副官を同行させると雲雀ひばりを一匹増やすことになるのでな」
 「───『雲雀』、とは?」
 
 上官の言葉の意味が理解出来ず、ヴァイスは自身の頭上に疑問符を浮かべて彼女に問い返すも、ターニャから言葉が返ってくることは無かった。
 彼女の苦虫を噛み潰したような表情が引き攣った笑顔に変わっていく様子をヴァイスが見届けることになるのは、今からあと半刻程後のことになる。
 
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