幼女戦記(二次創作)

 今次戦争の体系から己が外れた存在であることは十二分に理解していた。それこそ騎兵の時代であれば己の腕一本でもそれなりの戦果を打ち立てられていただろうが、砲撃によって地を均す暴力的なまでの威力差を前にして、近接戦闘における個人の技量なんてものは誤差の範囲でしか無い。魔導師の兵科運用が秀でた帝国ですら腰帯に提げた長剣を取り回す者など殆ど存在して居ないのだから、己という存在が極めて異質なのではないかと、型をなぞるだけの張り合いの無い鍛練をただ熟す度に、独り、だだっ広い回廊に閉じ込められている気がして為らなかった。

 「育雛箱からの選別は『彼』で宜しかったので?」
 「卵歯も取れていない若鶏だが、副官や貴様等中尉連中が推すなら確かなのだろう」

 珈琲杯を片手に新兵の経歴書を眺める大隊長殿は、ゆるりと口角を上げたかと思うと、机に両肘を立てて寄りかかり口元の前で指を組んだ。
 
 「……もしかしたら貴様は気に入るかもしれないな」
 「背中を預ける仲間となる者ですので、気に掛けるという点であればそうではありますが」
 
 机に伏せられた書面に手を伸ばした時、折しも、けたたましく鳴るベルの音に二人の会話はふつりと途切れ遮られることとなる。ライン司令部からの呼集要請を受領し手早く出立の準備を終えた上官は『まあ何れ解るだろうさ』と言い残して執務室を後にした。
 彼女の机に伏せられた『彼』の経歴書にその答があるような気がしたが、書面の情報だけでは一時の慰みにも為らないだろうと思い、ケーニッヒは彼女の暗示した言葉に、今は背を向けることを選び、そして何れ来るという『何か』を期待して、上司に遅れて彼もまた執務室を後にした。
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