幼女戦記(名前変換)
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(最悪だ)
時刻はAM4:00。未だ夜も明けぬ中途半端な時分。そして最悪の目覚め。
ヴィリバルト・ケーニッヒは部屋を同じくする同僚が何時も通り規則正しく喧しい寝息を立てていることを確認して、ゆっくりと上体を起こし人知れず頭を抱えた。夢見が悪い朝というのは別に珍しいことでも何でも無い。
(それにしたって内容があまりにも…!!)
同僚を起こさないよう小さく溜息をつく。其れと同時に猛烈に舌打ちがしたい衝動に駆られたが流石に其れはぐっと抑え込んだ。
まるで追体験のように脳裏に鮮明に蘇ってくる光景に眩暈を覚える。己の欲望と現実の曲解を混ぜ込んで更に収拾がつかなくなったどうしようも無い内容にはただ呆れることしか出来なかった。
(ついに、か)
覚悟はしていた。夢に出ずとも『そういう』目でみたことが全く無かった訳では無い。寧ろ今日の今日まで夢に出て来なかった事が不思議なくらいで。
男性の性欲処理は特に軍隊においては死活問題である。軍人と言えどもその前に人間であるので性欲を抑えるのは酷な環境には違いない。軍公認の売春宿は用意されているものの、看護兵や事務補助員に加え、女性軍人という数少ない異性の存在を『そういう』対象として見てしまうのは致し方無い事であった。更に言えば魔導適性が判明すれば男女関係なく半強制的に徴兵される帝国魔導師といえど女性は極僅かに過ぎないというのに我が部隊は大隊長を含めて女性軍人が三名。割合にしてたったの6パーセントしかないこの数値が他部隊と比べて如何に異常であるか今更ながらに考えさせられる。
我ら二〇三航空魔導大隊は圧倒的な存在感を放つデグレチャフ少佐が手ずから育成し統率する部隊であるからその部隊員は粒揃いも良いとこで、あの地獄の選抜試験を乗り越え今日まで苛烈な任務も遂行して来た自他ともに認める戦闘狂集団である。そんな中で部隊の女性比率が高いなんていうことは些細な問題に過ぎない。ただ、軍人という職業柄只でさえ俗世から切り離された環境に身を置いているというのに、この部隊にいると他の部隊事情とか常識的な思考とか…そういった感覚も少々麻痺しがちになっていた。
創作紛いの経歴と鬼神の如く戦果を打ち立て続ける少佐殿は兎も角として、セレブリャコーフ・ベルイマン両少尉は如何にも歴戦の猛者という出で立ちではなく、体躯も民間人の其れだった。寧ろ容姿に関しては二人とも恵まれてすらある。
だから、───だからという言葉で片付けたくはないのだが、『そういう』会話で二人の名前が挙がるのは避けられようも無かった。
流石に大隊内であの二人を無理矢理手籠めにしようと画策する者は居ない(と思う)。とはいえ、各方面軍を渡る我ら大隊の存在は非常に目立つ。そして年若い女性士官をそこらの男が放っておく訳はなく、事実、声を掛けられることも少なくない。が、二人ともにこやかに返り討ちにするくらいにはそういう対応が手馴れていた。
だからこそ有り得ないのだ。
自分に良い様に抱かれているベルイマン少尉の姿なんて。
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夢というのは本人が呆れる程に都合の良いものをみせるらしい。
普段隠された白い肌も想像でしかない筈なのに、滑らかでいて酷く扇情的な肢体を柔らかなシーツの波に押さえ付けて乱れさせていたのは紛れもない自分自身だった。
彼女の頭の横で押さえ縫い留めた腕は抵抗する力を失い弛緩しているだけで、乱れた呼吸と涙を滲ませた虚ろな緋色の瞳は何処か諦観を漂わせていた。それが無性にケーニッヒの加虐心を煽ってくるので、腰を一際強く打ち付けて悲痛な嬌声をあげさせて……彼女の思考力を完全に奪うつもりで強く抱いた。
───この感情は間違いなく歪んでいるということをケーニッヒ自身十二分に理解していた。
彼女には優しくありたいというのも決して嘘ではないが、己の性癖から考えるに彼女を『泣かせたい』と思うのと同時に『啼かせたい』という感情が身体の奥底でふつふつと沸き立っている事も紛れもない本心であった。
肉親や仲間を除いて誰か一人を特別に想いたい等という考えに自分が至るとは露にも思わなかったのだ。行き場の無い昂りの捌け口として異性の存在は必要であるが、肉体関係を持つ間柄と云えども所謂恋人同士のような甘い交遊を重ねて来た訳でもなし、その先の熱をぶつけ合える相手であればそれはそれで良いと思っていた。軍属になってからはそれこそ一夜の恋人と契りを交わすだけで後腐れ無い関係しか築いてこなかったし、よくよく考えれば民間人であった頃も今とそう大して変わらない異性関係しか持たなかったものであったから自分は生来こういう性分なのだと理解していた………筈なのに。
「………サガ」
言い慣れぬ音の羅列に違和感を覚えて咄嗟に口元を覆う。夢の中で彼女の事をそう呼んでいたかは覚えていない。それでも、名前一つ声に出すだけでこんなにも搔き乱される程度には参ってしまっているから、本当にどうしようもない。
───嗚呼、糞。どうしてこうなったんだ。
彼女の白銀色の長い髪が、赤い瞳が、……寝台で乱れる姿が脳裏に焼き付いて離れない。
( ───今は無性に女を抱きたい )
込み上げてきた精はティッシュに吐き出して捨てた。
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