幼女戦記(名前変換)
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あの後、どのようにして彼と別れて不夜番の任に就いたのかまるで思い出せない。
日中の厳しい暑さを恋しく思える程に極端な寒暖差のある夜の砂漠の不夜番において、今までは魔力反応を隠匿しつつ毛布一枚で凌ぐしか手立てがなかった筈なのに、可笑しなことに日が落ちても尚、交感神経が活性化したままの身体は寒さを忘れられている。自律神経の乱れは免疫の低下を招くのだと過去に同僚が言っていたのをふと思い出して、大きく呼吸を繰り返して身体を落ち着かせようと努めてみたが、無意識下で何度も反芻される彼との遣り取りが未だに脳裏に焼き付いて離れず、其の時の自身を思い出しては叫び出したくなる衝動がサガの体温を更に上昇させていた。胸元に吹き付けたヴァイオレットの香りも彼女の心を余計に乱して、顔の火照りがずっと治まらない。
(出来ることなら時間を巻き戻したい)
滅多に訪れない二人っきりというシチュエーションであったのに、焦るばかりで会話どころか真面な言葉すら出てこなかった自分を顧みては落ち込み、きっとこの先何度も今日の事を思い出しては悔やむのだろうとサガは未来の自分に思いを馳せた。焦ったり後悔したり感傷に浸ったり…、と
サガの普段の様子から彼女がヴァイスに片想いをしていると察するのは割と容易なことで、ただ、余りにも純度が高い其れを表立って揶揄う者は部隊内に存在しなかった。人間性に問題がある者は苛烈な大隊選抜訓練で振り落とされたと考えるのが妥当と思える程、ニ○三大隊の現構成員は何かと弁えているというか意外と大人な対応を取る者が多い。サガは若年層の中でもターニャを基点として下から数えた方が早く周囲が大人なのは言うべくもないが、そんな彼等の気遣いにサガは人知れず感謝する一方で、肝心の想い人は恋愛方面だけは朴念仁を極めていたので、周囲を介せずともサガの恋心は一向にヴァイスに伝わることがなかった。
(そういうところも好きなのだけれど)
サガ自身もヴァイスに面と向かってこの想いを言葉にしたことがないので、伝わらない理由を彼だけに押し付けるつもりはない。───ただ、本心を言えば『気付いて欲しい』のだ。自分勝手だとわか
サガは深く溜息を吐いた。彼女の予想に反して呼気は白く曇ることなく、宵闇色に溶けたまま霧散していく。
故郷とは比にならない煌々とした星明かりが彼女の瞳に降り注ぎ、暗がりに慣らされていた目が眩んで軽度の眩暈を覚える。乾燥しきった南方大陸では空気中の塵よりも目に飛び込む満天の星屑の方が多い気がして、その考えを誰かに共有したいとふと思ったけれど、一番最初に過った
「───…すき」
溢れた想いは誰にも聞かれることなく風に乗って何処か遠くへ流されていった。時を同じくして、煌めいた一筋の光が流星痕となって暫し夜空に留まったのを視認したけれど、そう思い切り良く何度も口に出せる想いではないのだと諦めて、彼女は開き掛けた口を噤む。
(願っているだけじゃ伝わらないのは自分でもよく
臆病な自分から目を背けたくなり、サガは抱えた膝に顔を埋めて、彼の姿を思い浮かべながら少しだけ泣いた。
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