幼女戦記(名前変換)
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何時もより三十分早く目が覚めて早々に身支度を終えたサガは、本日二杯目となる珈琲を淹れて出勤までの時間をウェザーニュースをぼんやりと眺めながら潰していた。暦上では夏も終わりを迎える時期であるのだが、厳しい暑さを肌で感じられなくなるにはまだまだ時間が掛かりそうだと、青空に映える積乱雲と乾ききって熱を孕んだベランダを窓越しに交互に見遣る。聴き流している朝のウェザーニュースが地方の天気予報に切り替わったのに気付いてサガは再び室内に視線を戻した。週明けまでの晴天を伝える予報に合わせて本日より各交通機関の運転再開を報せる言葉を聴きながら、卓上カレンダーの太丸で囲われた昨日の日付に斜線を足した記憶が蘇ってくる。
本来であれば昨日は支店の立ち上げ準備で地方出張に出ている恋人が約一ヶ月振りに帰ってくる予定だったのだが、生憎の荒天による飛行機の終日全面運休の影響で、一日遅れの本日午前に直接本社戻りへと変更になった。サガは携帯端末に残る昨日のメッセージの遣り取りを見返しながら、送信取消したメッセージを思い出して意図せず溜息を一つ漏らす。
【今週末は一緒に何処か出掛けたいです】
マンスリーマンションでの約一ヶ月の地方滞在はかなりのフラストレーションが溜まる日々であったことは想像に難くない。話題には上がらなかったが今週末は泥のように休みたいのが彼の本音だろう。そんな彼を自分の我が儘に付き合わせてしまうのは申し訳ないと思い直してメッセージは直ぐに消したのだが、送信前に踏み留まらなかった後悔を反芻してサガは今朝も自己嫌悪に陥っていた。
既読になる前に送信取消をしたので内容は彼に知られることはなかったけれど、送信取消した事実だけは通知されてしまうので、『野良猫の写真を送ろうとしたら間違ってピントがブレたものを送信してしまった』と写真の連投と苦しい言い訳をして遣り過ごした。が、機微に敏い彼のことだ、可笑しな挙動に何かしら違和感を覚えているに違いない。
(一緒に居れられるなら其れだけで良いのに)
事前に予定を合わせて旅行場所も決めていた夏期休暇が急遽代打で行くことになったケーニッヒの地方出張によりキャンセルせざるを得なかった事情と、ケーニッヒの出張期間中にサガの休暇は終えてしまったこともあり、ここ一ヶ月以上ケーニッヒから相当気を遣われているのが犇々 と伝わってきて、自己都合の押し付け未遂をしたサガの罪悪感に拍車を掛けた。
彼は本社で残務処理が予想されるので予め今日会う約束を取り付けていなかったのは幸いだった。所属部署もフロアーも違う彼と就業時間内に接点を持つことはまず無いし、互いに出社時間も異なるからロビーやエレベーターホールで姿を見ることも今までに無かったので、自己嫌悪に苛まれたまま彼に鉢合うことはない筈だ。負の感情を抱えて本音が溢れた結果関係が悪化することは何としても避けたかった。───早く会いたい気持ちはあるけれど。
来週末であれば互いに余裕も出て来るだろうと思い、アプリを起動して、【おはようございます】とスタンプに添えて来週の予定を伺うメッセージを送信して携帯端末をテーブルに臥せた。もしかしたら既に飛行機の中かもしれないと考えながら出勤時間までのんびり珈琲を啜っていると、着信を伝えるバイブレーションが震えた。サガは口に含んだ珈琲を飲み込んでから発信者名を確認すると急いで受電マークをスワイプする。
「今夜のつもりだった。都合が悪いとは知らなくてごめん」
背後でチェックインを促す空港アナウンスが反響する中、恋人の謝罪から始まる急な通話に驚きつつ、サガは弁明する。
「今日は予定は特にないのですけど、…流石にお疲れかなと思いまして」
「寧ろ今日会えないのは俺がしんどい」
「…私もです」
『…良かった』と独り言を溢したケーニッヒが安堵の脱力をしているのが電話越しに伝わってきて、先程まで鬱々としていたサガの感情は上向きになる。
「夕飯に何かリクエストはありますか」
「サガの作るものなら何でも…と言いたいところだが、今日は外食で良いか?実はもう予約してあって」
ケーニッヒの言うリストランテは、著名なホテル併設のランチですら予約困難と聴く場所で、名前を聴かされた瞬間サガは携帯端末を耳に当てたまま言葉を失った。血の気の引いた表情をケーニッヒに見られなくて良かったと思いながら、そこまで彼に気を遣わせてしまったのかと焦る。
「もしかして今日は何かの記念日でしたか…?」
自分が忘れているだけかもしれないと思い、怒られることを承知で恐る恐る訊ねてみる。
「記念日ではないけど」
「旅行の件の埋め合わせのつもりでしたらそこまでして頂く必要ないですよ?」
八時発の首都行きを告げる搭乗アナウンスが電話越しにサガの耳に届く。午前中に本社に着く為には彼が搭乗すべき便になるのだろうが、彼の真意を問いたい気持ちが先行して、搭乗を急く言葉を掛けることが出来なかった。
サガの口調が呆然としていることに気が付いたケーニッヒは、笑いをくつくつと喉の奥で噛み殺している。一頻り堪え切った後、『気にし過ぎだ』とサガの杞憂を突っ跳ねた。
「埋め合わせの意味ではないと言ったら嘘になるが…俺は記念日にするつもりだから」
彼はそう言うと待ち合わせ場所と時間を告げて一方的に通話を打ち切った。サガは直ぐに折り返し電話を掛けるが『System is not getting the response from …』と流れ出したのを聴き、諦めて終話ボタンをスワイプし、携帯端末を握り締めたままテーブルに突っ伏す。
(結局、どういう意味かは教えてくれなかったけれど)
耳に残る彼の言葉を反芻する度に顔から耳までじわじわと紅潮していくのを自覚して、このままでは今日一日仕事にならないと連絡の取れない恋人に恨み言を吐いた。
本来であれば昨日は支店の立ち上げ準備で地方出張に出ている恋人が約一ヶ月振りに帰ってくる予定だったのだが、生憎の荒天による飛行機の終日全面運休の影響で、一日遅れの本日午前に直接本社戻りへと変更になった。サガは携帯端末に残る昨日のメッセージの遣り取りを見返しながら、送信取消したメッセージを思い出して意図せず溜息を一つ漏らす。
【今週末は一緒に何処か出掛けたいです】
マンスリーマンションでの約一ヶ月の地方滞在はかなりのフラストレーションが溜まる日々であったことは想像に難くない。話題には上がらなかったが今週末は泥のように休みたいのが彼の本音だろう。そんな彼を自分の我が儘に付き合わせてしまうのは申し訳ないと思い直してメッセージは直ぐに消したのだが、送信前に踏み留まらなかった後悔を反芻してサガは今朝も自己嫌悪に陥っていた。
既読になる前に送信取消をしたので内容は彼に知られることはなかったけれど、送信取消した事実だけは通知されてしまうので、『野良猫の写真を送ろうとしたら間違ってピントがブレたものを送信してしまった』と写真の連投と苦しい言い訳をして遣り過ごした。が、機微に敏い彼のことだ、可笑しな挙動に何かしら違和感を覚えているに違いない。
(一緒に居れられるなら其れだけで良いのに)
事前に予定を合わせて旅行場所も決めていた夏期休暇が急遽代打で行くことになったケーニッヒの地方出張によりキャンセルせざるを得なかった事情と、ケーニッヒの出張期間中にサガの休暇は終えてしまったこともあり、ここ一ヶ月以上ケーニッヒから相当気を遣われているのが
彼は本社で残務処理が予想されるので予め今日会う約束を取り付けていなかったのは幸いだった。所属部署もフロアーも違う彼と就業時間内に接点を持つことはまず無いし、互いに出社時間も異なるからロビーやエレベーターホールで姿を見ることも今までに無かったので、自己嫌悪に苛まれたまま彼に鉢合うことはない筈だ。負の感情を抱えて本音が溢れた結果関係が悪化することは何としても避けたかった。───早く会いたい気持ちはあるけれど。
来週末であれば互いに余裕も出て来るだろうと思い、アプリを起動して、【おはようございます】とスタンプに添えて来週の予定を伺うメッセージを送信して携帯端末をテーブルに臥せた。もしかしたら既に飛行機の中かもしれないと考えながら出勤時間までのんびり珈琲を啜っていると、着信を伝えるバイブレーションが震えた。サガは口に含んだ珈琲を飲み込んでから発信者名を確認すると急いで受電マークをスワイプする。
「今夜のつもりだった。都合が悪いとは知らなくてごめん」
背後でチェックインを促す空港アナウンスが反響する中、恋人の謝罪から始まる急な通話に驚きつつ、サガは弁明する。
「今日は予定は特にないのですけど、…流石にお疲れかなと思いまして」
「寧ろ今日会えないのは俺がしんどい」
「…私もです」
『…良かった』と独り言を溢したケーニッヒが安堵の脱力をしているのが電話越しに伝わってきて、先程まで鬱々としていたサガの感情は上向きになる。
「夕飯に何かリクエストはありますか」
「サガの作るものなら何でも…と言いたいところだが、今日は外食で良いか?実はもう予約してあって」
ケーニッヒの言うリストランテは、著名なホテル併設のランチですら予約困難と聴く場所で、名前を聴かされた瞬間サガは携帯端末を耳に当てたまま言葉を失った。血の気の引いた表情をケーニッヒに見られなくて良かったと思いながら、そこまで彼に気を遣わせてしまったのかと焦る。
「もしかして今日は何かの記念日でしたか…?」
自分が忘れているだけかもしれないと思い、怒られることを承知で恐る恐る訊ねてみる。
「記念日ではないけど」
「旅行の件の埋め合わせのつもりでしたらそこまでして頂く必要ないですよ?」
八時発の首都行きを告げる搭乗アナウンスが電話越しにサガの耳に届く。午前中に本社に着く為には彼が搭乗すべき便になるのだろうが、彼の真意を問いたい気持ちが先行して、搭乗を急く言葉を掛けることが出来なかった。
サガの口調が呆然としていることに気が付いたケーニッヒは、笑いをくつくつと喉の奥で噛み殺している。一頻り堪え切った後、『気にし過ぎだ』とサガの杞憂を突っ跳ねた。
「埋め合わせの意味ではないと言ったら嘘になるが…俺は記念日にするつもりだから」
彼はそう言うと待ち合わせ場所と時間を告げて一方的に通話を打ち切った。サガは直ぐに折り返し電話を掛けるが『System is not getting the response from …』と流れ出したのを聴き、諦めて終話ボタンをスワイプし、携帯端末を握り締めたままテーブルに突っ伏す。
(結局、どういう意味かは教えてくれなかったけれど)
耳に残る彼の言葉を反芻する度に顔から耳までじわじわと紅潮していくのを自覚して、このままでは今日一日仕事にならないと連絡の取れない恋人に恨み言を吐いた。
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