幼女戦記(名前変換)
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「なっ、なっ…!」
「落ち着け」
「しょ、小官が中尉殿の御髪を整えても、よ、よ、宜しいのですか!?」
「だからそう言っているだろう」
「はああ……まだ夢でもみているのでしょうか……」
彼女にしては珍しい興奮気味の声をあげて、高まる感情とにまにまと弛む表情筋をどうにかして制御しようと両手で頬を押さえ込んでいる。未だに信じられないとむにむにと頬を摘まむその様子につられて自分も思わず破顔した。抑えきれない衝動を抱えながらも彼女の手には何時の間にか官給品の櫛がしっかりと握られていて、余りにも用意周到さに隣のセレブリャコーフ少尉も声を上げて笑っている。荷が制限されている行軍装備に櫛を紛れ込ませているというのは彼女らしいといえば彼女らしい行動ではあるが、大方セレブリャコーフ少尉用、あわよくばデグレチャフ少佐狙いだっただけに、自分からの申し出は想定外の事態だったのだろう。
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心穏やかに眠りについてからの翌朝4:30。起床予定時刻よりも前に目覚めた直後、上半身を起こすと通路を挟んだ向こう側から熱烈な視線を浴びせられた。それは以前感じた柔らかな春の陽射しと形容するには相応しくない程に熱を帯びた眼差しで、ベルイマン少尉特有の
「ヴィーシャどうしましょうっ!ケーニッヒ中尉が、中尉殿が!か、髪をおろしていらっしゃいます!!」
「サガは一度起きてからまた寝るのも早かったかr」
「ああなんて勿体無いことをしたのでしょう昨夜の私……!!」
心の底から悔やんでいる表情とセレブリャコーフ少尉の肩を掴んで揺すっている彼女が無性に可笑しくて口元を手で覆い喉の奥でくつくつと笑いを堪える。
当初は遠慮がちだったベルイマン少尉のフェチズムはもう隠す気すらないらしい。通路を挟んで向こう側にいる彼女と視線がかち合うと両手で口元を覆って声なき声を上げた。……彼女の回りには幻覚だろうか、ハートが飛び交っている。
「寝起きの姿は超絶レアです!なんて梳かし甲斐がありそうなハリとコシのある直毛……!!」
「サガの琴線に触れたのはそこなんだ」
「はい、第一に髪質。ハリとコシは特に誇って良いと思います。髪に気を遣っている一般女性に劣らず…と言うのは失礼かもしれませんがそこまで癖の無い髪質は遺伝的なものなので最早真似出来ない領域ですね。しかも男性でこの長さまで保持出来ているのは大変眼福……ごほん、女性が嫉妬する美しさですよ。櫛通りも非の打ち所がないです。第二に色味ですね。基本色のバーントアンバーが素晴らしいのは勿論ですけれど日に当たると光に透けて朽葉色に染まる毛先もとても素敵ですね此処潜水艦内の照明の下ですと赤みが入ってボルドー寄りになるところとかそれに近いものはライン戦線の塹壕房で」
「うわぁ…」
普段の穏やかな気性の彼女とは思えない暴走っぷりに隣のセレブリャコーフ少尉は引きながらも笑いが止まらない。主に騒がしいのはベルイマン・セレブリャコーフ両少尉なのだが、起床予定時刻前にこうも騒がしくしていると『まだ寝かせておいてくださいよ中尉殿』と苦情の向かう先は何故か自分だったりする。『減るもんじゃないし触らせて遣れば?』とノイマンが横になりながらそう言うので、飽くまで仕方無いなあという体を取りながら、自身の寝台からベルイマン少尉の元に移動した…そして冒頭の遣り取りに戻る。
徐々に起き出した同僚・部下にこの光景を茶化されるも、衆目に晒されて彼女に髪を触られる状況は初めてではないだけに今更恥ずかしく思うこともないが、グランツ辺りが何やら意味ありげな視線を寄越してくるので、何か言われる前に一つ大きな溜め息混じりに口を開く。
「男連中も俺のようにベルイマンの餌食になりたくなければマメに切っておけよ」
「ヴァイス中尉が狙われたら危機感を持つことにします」
「次の犠牲者がヴァイス中尉という風潮、一理ある」
「お前ら…」
ベルイマン少尉に対して散々な言われようであるが、俺の背中越しにその遣り取りを眺める彼女は小さく声を上げて楽しそうに笑っている。一部自分から言い出したことだが"餌食"とか"犠牲者"だとかの表現は流石に言い過ぎたかな、と少し心配に思ったけれど、『皆さんの髪が長ければどんなに素敵でしょうか』と、彼女が楽しそうに呟く声色からそれは杞憂に終わったようだった。───突然飛び火を食らうことになった副長には心の中で謝罪しておくとして。
「そうだ、帝都に戻りましたら何かお礼をさせて下さい。…ペンダントのお返しもまだ出来ておりませんし」
こそりと耳打ちするような声量で付け加えた言葉に後ろを振り返る。彼女と目が合うと、これでは髪を梳かせませんよ、と彼女は櫛を持ったまま困ったような笑みを浮かべ、再度前を向くように促される。昨夜決心がついたばかりのことで今後どのタイミングで打ち明けるか決めあぐねていただけに、彼女の申し出は良い機会になるかもしれない…、丁寧な手付きで後ろ髪梳かされる心地好さに目を細め其のまま目蓋を閉じた。
「そうだな…では飯でも集らせて貰うとするか。休暇の予定空けとけよ」
「わざわざ休暇にですか?小官は構いませんが」
サガは
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