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名の無い僕らの

「……またか」

深夜、1度だけ鳴ったスマホ。
眠い目を擦って、静かに扉を開けた。

「…………」
「とりあえず上がりなよ」
「……うん」

✩ ⋆ ✩ ⋆ ✩ ⋆ ✩ ⋆ ✩ ⋆ ✩ ⋆ ✩

「なにか飲む?」
「……いらない」

招かれたきみは、部屋の端でうずくまる。

同世代の人からして小柄なその身体は、そうしているともっと小さくてそのまま消えてしまいそうな気すらする。

「……ねぇ」
「……」
「いなくならないでよね」
「……どうして」
「ぼくはきみの名前を知っているから」

ふと近づいたベランダから落とした目線。
街灯がぽつぽつと照らす道路を歩く人が1人。

帰路に着くサラリーマンなのか、それとも今から出かけるフリーターなのか。ぼくにそれが分かるはずもないし、今下を歩いている人はきっと、それを上から見つめるぼくが何者なのか分からない。

ここにはたくさん人がいて、けれどもぼくらはその殆どがどこの誰なのか、知りもしない。
毎日多くの人とすれ違うけれど、誰なのか分からなければそれはただの背景だ。

有名人が死んだら騒ぎになる。毎日他にもたくさん死んでいるのに。
それはその人が有名だからだ、名が有るからだ。
たとえ明日、ぼくやきみが死んだとて、無名な、名の無いぼくらの死はきっと、この世界の大半の人には知られもしない。

僕らの死は、ぼくらの名前を知っている人達の間にしか無い。

「……知らなかったら、いなくなってもいいの」
「いいよ」
「……薄情なやつ」
「きみだってそうじゃないか」
「そうだね」

6畳半に、遠くの町のネオンが夜を連れてくる。

ネオンが消えて、太陽が朝を連れてくる頃にはきっと、いつものようにきみは居なくなるのだろう。そして、この夜がなかったかのようにきみは、あの教室で無邪気な笑顔を見せるのだろう。

ぼくは、教室のきみを知らないし分からない。
きみを囲むたくさんの人が、ぼくときみの間に大きな壁を作っている。
きっときみも、教室の隅にいるぼくのことなんて知らないし分からない。

だからいま、ここには誰も居ない。
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