蜘蛛の巣
2 審判
「どうぞ、お待ちしておりました。田辺さんで宜しいですね。」
田辺を待ち構えていたのは、応対室としてる一室だった。部屋の真ん中に置かれたテーブルとソファ。向こう側に座っているのは長い糸のような細い髪を一つにまとめ流した男、糸前だ。
「は、はあ...よくわかりましたね」
「ここは我々の本拠地のようなものです。厳重な審判を通った依頼人以外の侵入は許しておりませんので」
(それにしては、階下に誰もいなかったし探知機のような機会もあったようには思えないが....)
口にするにはおげさすぎるのではないかと田辺は思ったが、そういう糸間の目はたとえ依頼人といえども部外者であるのには変わりないためか、その目に油断も隙もなかった。その目は田辺の心の中まで見抜かれそうで思わず目をそらす。その先にある人物を見つけた。
大きな応対室の出窓に腰掛け外を眺めている男がいた。
その横顔は実に端正な顔立ちで、瞳は青灰色。噂に聞く執刑人であることがわかった。
(名前も知らないし初めて見たが、噂通りの目の色だな...)
思わず見つめているとそばにいた両目の隠れた男がこちらを見た....気がした。またも思わず顔を逸らし糸間に視線を動かす。
「もう一度ご依頼を確認しましょう。何をご依頼なさりますか」
「あ...はい...。私は兵士教育学校の教師をしております。そこにはご存知の通り御神体の一角である安倍清陽が在籍しております。」
田辺は緊張の面持ちでぽつりぽつりと話し始めた。
田辺を案内したペンは、田辺を観察するのが飽きたのか、執刑人、椿に構ってもらおうと足元で何やら喋っている。
そちらをチラチラと見ながら田辺は続けた。
「我々も彼女にはいち生徒であると同時に、世界を守る一角であるため厳重な注意を払っています。しかしながら最近彼女の身に危険が及んでいるという噂があるんです」
「ええ...そこまでは前もってお話を伺っておりました。今日はそこを詳しく教えていただきたいのです。どういった危険が?」
「.....はい....。どうやら他生徒の中に妖が紛れ込んでいるようなのです。我々も犯人を見つけようと水面下で捜索しているのですが....」
田辺は項垂れながら首を横に振った。見つけられないといった意味だろう。糸間が女性のような長い指先を口元に添えてふむと考える素振りを見せる。
「....目星はついているのですか」
「はい...1番有力である生徒が....」
男は胸元から一枚の写真を取り出した。
そこには銀の髪の人間離れした美貌をした赤目の少女だった。
「神花牡丹という女生徒なのですが...」
田辺はそこで息を詰まらせた。少女の名を出した途端場の気温が一気に下がった気がしたのだ。ハッとなって顔を上げる。
しかし目の前の情景は何も変化はない。
「彼女が何故?」
糸間は何も感じていないのか普通に写真を見ながら聞く。田辺も気のせいだと思い直して、説明する。
「彼女は生徒でありながら素性は謎に包まれ、成績も常にトップを抑えているのです。しかし優秀な生徒であると一概に言えず....それが...技能力テストで彼女は自分の力を見せたことが1度もないのです。しかし相手役の生徒は全員その場に倒れて意識を失っている....。普通の人間の仕業ではありませんよ。それに....重度の男嫌いなせいで彼女に言い寄った生徒は全員殺されかけています。あれもはややりすぎのレベルで、大義名分を盾に生徒を殺すつもりなんです!!彼女は最近清陽と一緒に行動しているのを見かけるのです!」
田辺はその様子を思い出しているのか、両手を握った手は震えている。しかし彼は異様だった。
「そして何より...彼女の容姿が人間離れしている...あの美貌、17とは思えない美しさだ....」
その顔は恍惚としていたのだ。教師が生徒を思って見せる表情ではない。
糸間はそれに気づいていないの淡々と話を進める。
「なるほど....確かに彼女は麗しい容姿をしていらっしゃる」
糸間はそう言って田辺を見やった。その目は殺気立っていた。
「それで彼女をどうしろと?」
処置の準備体制に入ったのだろうか。処刑人一行は長である椿が必殺の傾向があるためか、駆逐や全滅を希望する依頼がほとんどなのだ。しかし今回は違った。
「疑いだけだから殺す必要は無いんです.....捕縛してこの場所に軟禁していただければと...」
そう言って机の上に出したのはどこかの住所が書かれた紙だった
「....見覚えのない住所ですね...どちらですか?」
「国の危険人物の行動を制限する、いわば監視室のようなものですよ」
「...そうですか。」
糸間は、少女の写真と住所の書いてある紙を手に取り、一旦口を閉ざした。
「やってくれるんですよね?!」
「...一通り依頼内容を把握致しました。その上でお答えします。残念ですがこの依頼お受けできません」
「な....!何故?!」
田辺は机を両手で叩き立ち上がった。
チャコとペンがビクリと身体を震わせ、椿の足元に捕まり、椿の目が男に向けられた。
「我々が対処するに値しない内容だからです」
あくまでも冷静な糸間に対し、田辺の冷静さは徐々に失っていった。
「なんだと....?!引き受けるって言ったじゃないか...!御神体の危機に関わってるんだぞ?!引き受けるに値しないと言っている場合か!」
「....我々は引き受けるとはまだ1度も言っておりません」
「ふざけるな!!引き受けたから私を呼んだんだろう!!」
「......我々は前もって依頼を聞く時点では引き受けるなどという言葉は使わないのですよ。」
「....っ.....!?」
静かにしかししっかりと糸は言い切り、立ち上がった田辺を見上げる。
「貴様ら....前線の要と言われて調子に乗るなよ!!お前らは世界を守るためにいるんだよ!!仕事を選ぶな!!」
「前線の要と言われているからこそ、必要最低限の行動で最大限の対処を行っているのです。他の2柱のようにすべてに中途半端な対応をしていても東西の妖怪達の進行は止められません」
「.....何だとぉ.....!?貴様ら.....」
田辺は懐に手を入れそこに装備していた拳銃に触れ、糸間を睨んだ。彼もまた1人の兵士教育者だ。銃の扱いには手馴れている。教育者といってもいつでも出陣できるように自前に武器は装備するよう命令されているのだ。
田辺は銃を抜き取ると同時に、目の前の糸間に目を向けた。
「っ......」
その目に映ったのは糸間ではなく、針の先だった。
「たかが教師が俺たちに手出しちゃダメだよ」
いつの間にか接近していたのは、さっき椿のそばにいた両目の隠れた男刺針だった。刺針が田辺の目の前に針を突き出していたのだ。
田辺がゆっくりと銃に触れた手を戻して両手を上げると刺針はあっさりその針を下ろし、iPadを取り出した。
「はい」
何の説明もなしに突き出された映像には、写真の少女が映っていた。その映像は少し手ブレがあり、誰かが彼女を撮影しているようだ。とはいえ盗撮のようではなく、すぐそばで正面から撮っている。
「あんたの言ってる牡丹ちゃん。一足先に監視してるんだよね。」
「は?」
「まあ彼女が安倍清陽に危害を加えないようにじゃなくて彼女"に"危険が及ばないためだけど」
その時、映像の中で牡丹が後ろを振り向いた。その先には数人の男が下卑た顔をして立っていた。
カメラは牡丹を映すのをやめ前に出たのか、そこ男達だけが映る。音声はないが、男達がなにかニヤつきながら喋っていた。
田辺は気づいたら大量の汗をかいていた。
糸間は立ち上がり刺針の隣で田辺を見つめ、刺針は笑顔を保ったままだ。
男達が近づこうと1歩踏み出した時、その後に影が現れた。
_瞬間男の中の1人の首が飛んだ。
それに気づいた時には隣の男は頭上から8つの蜘蛛の足のようなものが胴体に突き刺さってそのまま頭まで引き裂かれた。そして最後の一人はいつの間にか腹に穴が空いていた。その奥に真っ赤に染まったネズミが走っていったように見える。
田辺の全身からは大量の汗が吹き出していた。
「あららーあの人たちセンセイだった?やられちゃったけど」
一緒に見ていた刺針が血だらけの映像を見てもさも楽しそうに口角を上げながら田辺に確認した。
「や...やっぱりこいつだ!!こいつが犯人だ!!この化け物を従えて安倍家の御神体を狙って...」
その時机が田辺の足にぶつかった。意外と強めに衝突したせいで反動で田辺は後ろのソファへもたれるように倒れた。
机を蹴ったのは椿だった。椿は下駄を履いた片足を机の上に乗せて田辺を見下ろす。
「.....教えてやろう。花園牡丹は俺の送った2人目の偵察だ。」
「....は?」
画面には牡丹と一緒に映る灰色髪の少女、音津の姿が。音津は画面の先に田辺がいることを知っているかのように、悪戯な笑みを浮かべて手を振っていた
「なに....」
「あいつを囮にしててめえみたいな輩を炙り出す為にな。」
「は?!ま、待ってくれ!!」
その時頭上から縄が蛇のように降りてきて彼の首に巻き付く。そのまま垂直に上に吊り上げられた。
「あぐ....?!」
男は首の骨ががくりと音がなった。
「....言われた通り、処刑したよ。椿さん。これで仕事は終わったよね。次は僕を殺す算段をつけてくれるよね」
男の死体を縄ごと上から落とし、その近くまで歩いてきたのは天吊。無気力な死んだ目を椿に向けるが、椿はそんな彼の目よりも無情で冷徹な目で一言だけで応えた。
「....ご苦労。」
「....ああ....また騙された....。悔しい。やっぱり僕は少しの希望も持たずに死んだ方がいいんだ」
相違って自虐しながら天吊は死体の繋がったロープを犬のリードのようにズルズルと引きずりながら部屋を出て言った。
「取り憑かれていたのでしょうね。牡丹さんに寄せる想いに漬け込んだのでしょう」
その後ろ姿を見おくってから糸間がiPadの画面を見ながら言った。
「西洋妖怪に取り憑かれた奴らへ俺達ができる救済は殺すだけだから。しょうがないね」
針が尖った歯を見せてニコニコ笑いながら言った。
「椿さん。その人が言ってた軟禁場所一応抑えてみるね」
「ああ頼む」
そうして田辺は自ら蜘蛛の巣に入り込んだのに気づかず、本拠地で人生の幕を閉じることとなった。
「どうぞ、お待ちしておりました。田辺さんで宜しいですね。」
田辺を待ち構えていたのは、応対室としてる一室だった。部屋の真ん中に置かれたテーブルとソファ。向こう側に座っているのは長い糸のような細い髪を一つにまとめ流した男、糸前だ。
「は、はあ...よくわかりましたね」
「ここは我々の本拠地のようなものです。厳重な審判を通った依頼人以外の侵入は許しておりませんので」
(それにしては、階下に誰もいなかったし探知機のような機会もあったようには思えないが....)
口にするにはおげさすぎるのではないかと田辺は思ったが、そういう糸間の目はたとえ依頼人といえども部外者であるのには変わりないためか、その目に油断も隙もなかった。その目は田辺の心の中まで見抜かれそうで思わず目をそらす。その先にある人物を見つけた。
大きな応対室の出窓に腰掛け外を眺めている男がいた。
その横顔は実に端正な顔立ちで、瞳は青灰色。噂に聞く執刑人であることがわかった。
(名前も知らないし初めて見たが、噂通りの目の色だな...)
思わず見つめているとそばにいた両目の隠れた男がこちらを見た....気がした。またも思わず顔を逸らし糸間に視線を動かす。
「もう一度ご依頼を確認しましょう。何をご依頼なさりますか」
「あ...はい...。私は兵士教育学校の教師をしております。そこにはご存知の通り御神体の一角である安倍清陽が在籍しております。」
田辺は緊張の面持ちでぽつりぽつりと話し始めた。
田辺を案内したペンは、田辺を観察するのが飽きたのか、執刑人、椿に構ってもらおうと足元で何やら喋っている。
そちらをチラチラと見ながら田辺は続けた。
「我々も彼女にはいち生徒であると同時に、世界を守る一角であるため厳重な注意を払っています。しかしながら最近彼女の身に危険が及んでいるという噂があるんです」
「ええ...そこまでは前もってお話を伺っておりました。今日はそこを詳しく教えていただきたいのです。どういった危険が?」
「.....はい....。どうやら他生徒の中に妖が紛れ込んでいるようなのです。我々も犯人を見つけようと水面下で捜索しているのですが....」
田辺は項垂れながら首を横に振った。見つけられないといった意味だろう。糸間が女性のような長い指先を口元に添えてふむと考える素振りを見せる。
「....目星はついているのですか」
「はい...1番有力である生徒が....」
男は胸元から一枚の写真を取り出した。
そこには銀の髪の人間離れした美貌をした赤目の少女だった。
「神花牡丹という女生徒なのですが...」
田辺はそこで息を詰まらせた。少女の名を出した途端場の気温が一気に下がった気がしたのだ。ハッとなって顔を上げる。
しかし目の前の情景は何も変化はない。
「彼女が何故?」
糸間は何も感じていないのか普通に写真を見ながら聞く。田辺も気のせいだと思い直して、説明する。
「彼女は生徒でありながら素性は謎に包まれ、成績も常にトップを抑えているのです。しかし優秀な生徒であると一概に言えず....それが...技能力テストで彼女は自分の力を見せたことが1度もないのです。しかし相手役の生徒は全員その場に倒れて意識を失っている....。普通の人間の仕業ではありませんよ。それに....重度の男嫌いなせいで彼女に言い寄った生徒は全員殺されかけています。あれもはややりすぎのレベルで、大義名分を盾に生徒を殺すつもりなんです!!彼女は最近清陽と一緒に行動しているのを見かけるのです!」
田辺はその様子を思い出しているのか、両手を握った手は震えている。しかし彼は異様だった。
「そして何より...彼女の容姿が人間離れしている...あの美貌、17とは思えない美しさだ....」
その顔は恍惚としていたのだ。教師が生徒を思って見せる表情ではない。
糸間はそれに気づいていないの淡々と話を進める。
「なるほど....確かに彼女は麗しい容姿をしていらっしゃる」
糸間はそう言って田辺を見やった。その目は殺気立っていた。
「それで彼女をどうしろと?」
処置の準備体制に入ったのだろうか。処刑人一行は長である椿が必殺の傾向があるためか、駆逐や全滅を希望する依頼がほとんどなのだ。しかし今回は違った。
「疑いだけだから殺す必要は無いんです.....捕縛してこの場所に軟禁していただければと...」
そう言って机の上に出したのはどこかの住所が書かれた紙だった
「....見覚えのない住所ですね...どちらですか?」
「国の危険人物の行動を制限する、いわば監視室のようなものですよ」
「...そうですか。」
糸間は、少女の写真と住所の書いてある紙を手に取り、一旦口を閉ざした。
「やってくれるんですよね?!」
「...一通り依頼内容を把握致しました。その上でお答えします。残念ですがこの依頼お受けできません」
「な....!何故?!」
田辺は机を両手で叩き立ち上がった。
チャコとペンがビクリと身体を震わせ、椿の足元に捕まり、椿の目が男に向けられた。
「我々が対処するに値しない内容だからです」
あくまでも冷静な糸間に対し、田辺の冷静さは徐々に失っていった。
「なんだと....?!引き受けるって言ったじゃないか...!御神体の危機に関わってるんだぞ?!引き受けるに値しないと言っている場合か!」
「....我々は引き受けるとはまだ1度も言っておりません」
「ふざけるな!!引き受けたから私を呼んだんだろう!!」
「......我々は前もって依頼を聞く時点では引き受けるなどという言葉は使わないのですよ。」
「....っ.....!?」
静かにしかししっかりと糸は言い切り、立ち上がった田辺を見上げる。
「貴様ら....前線の要と言われて調子に乗るなよ!!お前らは世界を守るためにいるんだよ!!仕事を選ぶな!!」
「前線の要と言われているからこそ、必要最低限の行動で最大限の対処を行っているのです。他の2柱のようにすべてに中途半端な対応をしていても東西の妖怪達の進行は止められません」
「.....何だとぉ.....!?貴様ら.....」
田辺は懐に手を入れそこに装備していた拳銃に触れ、糸間を睨んだ。彼もまた1人の兵士教育者だ。銃の扱いには手馴れている。教育者といってもいつでも出陣できるように自前に武器は装備するよう命令されているのだ。
田辺は銃を抜き取ると同時に、目の前の糸間に目を向けた。
「っ......」
その目に映ったのは糸間ではなく、針の先だった。
「たかが教師が俺たちに手出しちゃダメだよ」
いつの間にか接近していたのは、さっき椿のそばにいた両目の隠れた男刺針だった。刺針が田辺の目の前に針を突き出していたのだ。
田辺がゆっくりと銃に触れた手を戻して両手を上げると刺針はあっさりその針を下ろし、iPadを取り出した。
「はい」
何の説明もなしに突き出された映像には、写真の少女が映っていた。その映像は少し手ブレがあり、誰かが彼女を撮影しているようだ。とはいえ盗撮のようではなく、すぐそばで正面から撮っている。
「あんたの言ってる牡丹ちゃん。一足先に監視してるんだよね。」
「は?」
「まあ彼女が安倍清陽に危害を加えないようにじゃなくて彼女"に"危険が及ばないためだけど」
その時、映像の中で牡丹が後ろを振り向いた。その先には数人の男が下卑た顔をして立っていた。
カメラは牡丹を映すのをやめ前に出たのか、そこ男達だけが映る。音声はないが、男達がなにかニヤつきながら喋っていた。
田辺は気づいたら大量の汗をかいていた。
糸間は立ち上がり刺針の隣で田辺を見つめ、刺針は笑顔を保ったままだ。
男達が近づこうと1歩踏み出した時、その後に影が現れた。
_瞬間男の中の1人の首が飛んだ。
それに気づいた時には隣の男は頭上から8つの蜘蛛の足のようなものが胴体に突き刺さってそのまま頭まで引き裂かれた。そして最後の一人はいつの間にか腹に穴が空いていた。その奥に真っ赤に染まったネズミが走っていったように見える。
田辺の全身からは大量の汗が吹き出していた。
「あららーあの人たちセンセイだった?やられちゃったけど」
一緒に見ていた刺針が血だらけの映像を見てもさも楽しそうに口角を上げながら田辺に確認した。
「や...やっぱりこいつだ!!こいつが犯人だ!!この化け物を従えて安倍家の御神体を狙って...」
その時机が田辺の足にぶつかった。意外と強めに衝突したせいで反動で田辺は後ろのソファへもたれるように倒れた。
机を蹴ったのは椿だった。椿は下駄を履いた片足を机の上に乗せて田辺を見下ろす。
「.....教えてやろう。花園牡丹は俺の送った2人目の偵察だ。」
「....は?」
画面には牡丹と一緒に映る灰色髪の少女、音津の姿が。音津は画面の先に田辺がいることを知っているかのように、悪戯な笑みを浮かべて手を振っていた
「なに....」
「あいつを囮にしててめえみたいな輩を炙り出す為にな。」
「は?!ま、待ってくれ!!」
その時頭上から縄が蛇のように降りてきて彼の首に巻き付く。そのまま垂直に上に吊り上げられた。
「あぐ....?!」
男は首の骨ががくりと音がなった。
「....言われた通り、処刑したよ。椿さん。これで仕事は終わったよね。次は僕を殺す算段をつけてくれるよね」
男の死体を縄ごと上から落とし、その近くまで歩いてきたのは天吊。無気力な死んだ目を椿に向けるが、椿はそんな彼の目よりも無情で冷徹な目で一言だけで応えた。
「....ご苦労。」
「....ああ....また騙された....。悔しい。やっぱり僕は少しの希望も持たずに死んだ方がいいんだ」
相違って自虐しながら天吊は死体の繋がったロープを犬のリードのようにズルズルと引きずりながら部屋を出て言った。
「取り憑かれていたのでしょうね。牡丹さんに寄せる想いに漬け込んだのでしょう」
その後ろ姿を見おくってから糸間がiPadの画面を見ながら言った。
「西洋妖怪に取り憑かれた奴らへ俺達ができる救済は殺すだけだから。しょうがないね」
針が尖った歯を見せてニコニコ笑いながら言った。
「椿さん。その人が言ってた軟禁場所一応抑えてみるね」
「ああ頼む」
そうして田辺は自ら蜘蛛の巣に入り込んだのに気づかず、本拠地で人生の幕を閉じることとなった。
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