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蜘蛛の巣

1 訪問

某日_
 男が恐る恐る建物内に足を踏み入れた。
 変哲のない普通の男は田辺。今日はある依頼をしにこの建物を訪れた。
「ご....ごめんください....どなたかいらっしゃいませんか...」
 建物はここで間違いないはずだがそこは人の気配が感じられずに田辺はお化け屋敷に単身で入ったような気分で心細さを感じた。
 ここは御三家の一つ、執刑人一行の拠点だと言われている建物だ。その集団は、御三家の他二つと違い、内情がよく知られていない。
(けど、あんなに戦果を挙げているから大集団かと思ってたんだが…)
 田辺はそう思いながら人気のない一階を見渡す。1階であろうこの空間は何も物がなく、電気だけが虚しい空間を照らしていた。しかし意外に掃除は行き届いているという異様な雰囲気に背筋が凍っていくのがわかる。静かにこっそりと人がいる階層を探そうと意を決して階段かエレベーター探す。
 田辺は無駄に広いこの空間からやっとエレベーターを見つける。
 電気がついているからエレベーターも起動しているだろうと上へのボタンを押すとすぐに扉が開いた。
 エレベーターもまた変哲のない内装で、田辺にも見慣れた光景だった。
 少し安心して中に入った後にふと気づく。
「....あ...でも何階にいるんだ....」
 どうやらボタンの表示的に20階まであるようだ。しょうがないから適当に押した階に行って人が見つかるまで探そうと決めた。
ボタンを押そうとした時、勝手に10階のボタンが光り、エレベーターが動き始めた。
 どうやらボタンを押すのが遅すぎて外からボタンを押した人がいるようだ。ということは止まった先に人がいるということである。
(しかし大丈夫だろうか。不法侵入だと殺されはしないか)
 執刑人一行はその名の通り、刑罰を与える活動をしている集団である。それはこの世を脅かす陰の存在は勿論、場合によっては人間ですらその手にかける。一応この国を守る一角をになっているし、表立たないだけで1番成果を上げているという噂もある。だがその長である執刑人が冷酷で無慈悲の男であると言われており、田辺はここに来ると決心と覚悟をするには長い時間がかかった。
 そう考えているうちにチンッと十階に停止した音が鳴る。間もなく扉が開かれた。最悪土下座をして許しをもらうしかないと身構えてその扉が開ききるのを待った。
 しかし田辺の視界には誰もいない
(....あれ?)
 外部操作でここに下ろすつもりで止めたのだろうかと、降りようと足を踏み出した時だった。
「あれ、おじさん誰?」
 声がした。思わずビクリと体をはねさせ足を止めた。その声は足元から聞こえた。目だけを足元に向けるとそこにはそっくりな顔の男女の子供がいた。
「は、は~びっくりした。なんで君達みたいな子供がこんなところにいるんだい?」
田辺は気張っていた分、子供に会えたことで全身の力が抜けた。
「おじさん誰?」
 しかしピンクの髪をした男の子は、ロボットのように同じ問いを返してきた。男の子は小首を傾げで真っ直ぐに田辺を見る。子供らしい純粋な目で....否。その目は異様な雰囲気があった。田辺が映り込む大きなその目の奥には明らかに人間の子供の持つオーラではなかった。
 男の子は瞬きをせずに田辺を見つめる。
「た....田辺と言います。先日こちらに依頼を申し込んだ...。今日こちらで直接お話をと言われて...」
 思わず子供相手に敬語になった田辺。
「田辺....」
 すると今まで男の子の横で黙っていた水色の女の子が名前を呟く。そして何か思い当たったのか、伏しがちの目で田辺を見上げた
「糸が言ってた人....客」
 ぽつりぽつりと女の子がいうと、男の子が先程の異様な雰囲気が嘘のように年相応の男の子のようにハツラツとした雰囲気に変わる。
「そうなの?じゃあおじさんぼくたちがあんないしてあげるね!」
「え....あ....うん....」
 田辺は先にたたたたと走っていく少年を追いかける。それを後ろから見つめていたチャコの指先が少し光っていた。
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