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チャコペンの日常(リク

3-3夕

「ッケケケケ....知ってるか?俺に落とされた首にはまだ神経が残ってるから自分の首のない身体を見ることが出来るんだってよお....。」
赤毛の男は毛先を斜めに真直ぐ切り揃え、それを高い位置で一つにまとめていた。長い足の先は骨のようなものが皮膚から突き出し、それが支えるように、巨大な刃物が足の代わりに男の体重を支え直立していた。その刃はまるで、ギロチンのような禍々しいものであった。そのギロチンの刃はもう既に赤く染まっていた。その血は確認せずとも信彦のものなのだろう。いつの間にか上に潜んでいたのだろう。その足のギロチンをその名の通り上から振り下ろし信彦の首を落としたのだ。
「俺ァ…ギロチンなんだが…そりゃあ当の本人しか知らねえんだ」
ギロチンはゆっくりと成哉の方を見た。本来白目のところが真っ黒でそこに赤い瞳が浮かぶその目は殺戮に飢えている目だった。今まで裏の世界で幾度と見てきた快楽殺人鬼よりも遥かに狂っている。
「試してみねえか?」
そういってギロチンはその場から人間離れした超脚力で跳び上がる。空中でそのまま前転しその勢いで足を成哉に向けて振り下ろした。
「っ....!!」
成哉は流石闇業者団体のボスをしているだけあってか、勝算は薄れども、頭は回転していた。
足元にいたペンを掴みあげギロチンへ見せた。明らかにギロチンはペン達を助けに来た。ならばペンを人質に取れば簡単に手は出せないと踏んだのだ。
しかしギロチンは攻撃を辞める素振りを見せなかった。それどころかペンを人質にとった行動が彼を昂らせたようだ。
(まさかこいつ...このガキも一緒に殺す気か.....!?)
成哉が予想外の行動に目を見開いた。だがすぐに立て直す。その可能性も密かに感じていたのだ。なぜなら信彦を殺した時、その足元にいたチャコを放ったらかしに、こちらへ向かって来たからだ。しかも子供である彼女に返り血が飛ぼうとも、惨い光景を見せようとも気遣う素振りを見せなかったからだ。
成哉はペンの後ろに隠し持っていた拳銃をギロチンに向けて引き金を引く。
しかしそれより先にギロチンは仰け反るようにして体を反らせた。拳銃の存在をわかっていたのか....否、彼は避けていたのだ。後ろからの別の攻撃から。拳銃よりの確実に殺しにかかっていた殺意を察して。
「ペンまで殺すのは命令じゃないよ。ギロチン」
「....っ天吊ぅ!!!!」
ギロチンは自分の首へ巻きつこうとしていた赤い縄の先に立っていた男を睨んで、しかし楽しそうに叫んだ。
天吊と呼ばれた男は、いかにも無気力そうにそこに立っていた。首に下げた首吊り用の縄を適当に地面に垂らし、くせ毛の長い前髪から見える目は死んだ目をしている。
ギロチンは地面に着地し、だらりと舌を出す。その下にはチャコやペンとの手の甲にあった花の紋様があった。
「邪魔しやがったなてめえ....!!先にてめえを殺すぞ!!!」
「僕を殺すのは椿さんだから。君じゃない」
そう言いながら、ギロチンへ向けてはなった縄を自分の袖の中に戻していく。
「また新しい敵か....!?」
「こっちのやつは人間だ!!!殺せ!!!」
成哉の部下の数人が弱そうな天吊を狙って拳銃を向けた。
「...え?」
突然焦点がズレた。天吊を見ていたはずの視界が自分の体を見下ろしていた。地面が遠い_____
____彼らが自分たちが首を天井に括られていると気づいた時には骨が外れて息絶えていた。
天井から、吊られた男達の体内のあらゆるものが滴り落ちてきている。それを面倒くさそうに避けながら天吊はギロチンのそばに行く。
もう残った部下は戦う気力をそがれていた。呆然と化け物を見るようなで見つめるだけだった。
「何てめえだけ一杯吊ってんだよ。俺はまだ一匹だぞ」
ギロチンが本来の目的を放っておいて、天吊に詰め寄る。
「しかも相変わらず陰湿な処刑の仕方しやがって。これだから倭国は...。やることが質素すぎる。」
「....落ちた首を片付けるの....やだもん」
彼らは処刑道具の九十九神である。悪に手を染めた妖や人間を処刑するために生み出された彼らは殺すことに躊躇はない。
天吊はギロチンを退かして成哉の元へ歩く。
「君はペンに判決を下されたみたいだね」
「....は?」
「君達が狙ったこの子達の刻印は俺たちの処刑の判断材料なんだよ。言ってる意味...わかる?」
「てめえらは何もんだ....俺を...殺すのか....」
天吊は自分のズボンを膝上までまくった右足に触れる。そこにはギロチンやチャコ達と同じ花のアザが刻まれている。
「....九十九隊。君たちみたいな悪人や悪鬼を殺して回ってる」
「九十九隊....?」
「てめえは死にてえか?死にたかねえか?」
ギロチンが、足を振り上げ、刃を成哉の頭上に置いた。
「.....部下の首をやる。この仕事は1人でできるもんじゃねえ。これだけの人数消せれば十分だろ」
成哉は、下卑た笑みを浮かべて言った。裏社会では、部下を切るのはおかしいことではない。
「せ....成哉さん.....?」
部下達が失望の色を隠せずに、震えた声で縋るような目で成哉を見る。
成哉はその視線を勝ち誇ったように見返した。
「ボスを守るのがてめえら部下だろうがよお。なのにたかが2人に戦意喪失なんて雑魚がよォ!!!」
ぎりぎりと歯ギシリをさせながら成哉は部下達を睨む。
「最後ぐらい俺の役に立てや!!」
「ぎっ......!!」
部下達が同時に体に電撃が走ったようにビクッと直立する。そして白目を向いたかと思えば口から泡を出して次々に地面に倒れていく。
成哉は何もしていない。当の本人でさえ、目の前の光景についていけずに目を見開いてかたまっていた。
唯一九十九隊と名乗る花のアザのある余人だけは動じていなかった。ギロチンは舌をだらりと出してケラケラと笑い。天吊は無感情に死体を眺め。チャコとペンはお互いの傷を確認し合っていた。
「ボスのお前の御所望通り部下の命は全員もらってやったぜ」
ギロチンはギャハハハハハハハハとまた高笑いをしながら倉庫の入口に目を向ける。
死体の元からバチバチと電流が流れ1人の足元に集まっている。しかしその足は裸足であるにもかかわらず焼け焦げることなく、その足をつたって全身へ伝わって行く。電流の中心となっているのか、電流が全身に走っても顔色ひとつ変わっていない。
「てめえも俺の獲物横取りしやがったな、坐」
「すみません。長引いていたように思えたので」
坐は頭をポリポリとかきながらすまなそうにひょこっと頭を下げる。
「まあいい....」
ギロチンがぐるっと成哉の方へ向き直って、ぎぃっ...と足の刃を地面のアスファルトに擦り付けて不快な音を奏でる。
「どうせ、椿に早くしろって言われたんだろ。俺もちょうど飽きたところだ。さっさと最後のこいつ殺して帰るぜ」
ギロチンの赤い目が成哉をとらえる。成哉は蛇に睨まれた蛙のように身体が固まるのを感じる。
「っ.....!!ま、待て!!部下達をくれてやったんだ、俺は助ける約束だろ!!」
「....は?」
それまでの愉快そうに舌を垂らしながら笑っていたギロチンが、ピタリと笑うのをやめた。
「おいおいおい勘違いはよせよ。俺たちは元から誰一人逃すつもりはねえぜ。それはお前が一方的に言った条件だ。俺らは呑むとは一言も言ってねえ」
「ん...、取引するつもりだったんですか。すみません、知らずに殺してしまいました」
坐が遠くから言う。その言葉で成哉は察して顔を青ざめた。先程までの安堵の表情はもはやない。
「そういうことだ。てめえの取引材料は、取引する前に使えなくなっちまったからなあ....?」
「......!!!!」
ギロチンは足を振り上げた。

成哉の表情は絶望に満ちていた。
その首がギロチンに落とされ地面に落ちた後も____
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