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チャコペンの日常(リク

2-2.昼
チャコとペンが自分たちにかぶった影に気づき顔を上げる。
そこに立っていた女性は、素朴ではあるが親しみやすい容姿をしていた。優しそうで明るい笑顔を携えた女性は、威圧感を与えないようにしゃがんで目線を合わせるのを見ると子供の扱いに慣れているようだ。
「こんにちは!」「....」
内気なチャコが一歩後ろへ下がる代わりに、ペンが蟻の巣から離れ立ち上がると元気よく挨拶を返す。表の付き合いはペンの方が得意だ。
「ここで何をしていているのかな?学校は?」
女性は公園を見渡し、親らしき人を探しながら問いかけた。
今日は平日。本来であれば兵士学校付属児童園に預けられているはずの齢の子供だけが大人の付き添いもなく遊んでいるのは異様な光景なのだろう。
「あ...えっと...えっとね」
嘘を付けないペンは、目を泳がせて返事に困る。
世界の殆どを妖に侵略された現代では、数百年前は存在した勉学の励む学校というものは存在しない。代わりに、異能力や特技を生かした兵士を育成する兵士学校が建設されている。そこは年齢はもはや関係なく妖界に対抗すべく力を持った人材は階級に分けられたクラスに入れられて、妖に対抗する兵士として育成されるのだ。幼稚園や保育園も統一され、兵士として訓練されるには早い子供たちが預けられるのが児童園だ。
「.....待機児童....。」
見かねたチャコがポツリと呟いた。
ん?と5歳児の口から出るとは思えない単語に女性は思わず聞き返す。
「数百年前も問題になった...。今は人間界解放軍へ必要な人材を育成するために、現代では保育士の存在の優先度は低く、子供の数に対して人数が追いついてない....って言ってた」
やはり5歳児の口から発せられる内容ではなく、女性は面食らったようにぱちぱちと瞬きを繰り返した。
実際のところ、待機児童はそこまで大きな問題にはなっていない。これは真っ赤な嘘だった。そもそもチャコとペンには児童園に入園する資格はない。妖に親を殺された子供も多く、軍兵として前線に出ている親を持つ子供も少なくない。児童園もまた自立ができない子供であれば年齢は関係無しに入園できる。
しかしそれは人間に限る。妖が世に蔓延るこの時代。妖との子供を孕まされた人間も存在する。その子供が人間界侵略思考を持って生まれないとは限らないのだ。それを危惧した軍政府は、半妖の受け入れは却下している。
チャコとペンには親というものはいない。かと言って妖怪の血がある訳でもない。しかしながら彼らは人間ではないのだ。
「そう!!たいじゅう!!たいじゅうなのぼくたち!」
「たいじゅうじゃない待機児童」
「たいきじどう!」
ペンの一般的な子供っぷりに安心したのか女性は笑顔を取り戻し、再度質問した。
「お父さんかお母さんは?」
「いないよ!」
ペンはなんとか相手の質問を掻い潜れた嬉しさに思わず何も考えずに即答してしまった。
「え?」
「あ.....!!」
ペンがしまった!と言った顔で口を思わず塞ぐ。
親がいない子供は絶対に児童園で保護されるのだ。待機児童だと言ってしまった矢先のボロだ。
ペンがあわあわとチャコと女性の顔を交互に見る。チャコの表情は相変わらずの無表情だったが、その脳内では有り得ないぐらいの思考が巡っていた。
「お父さんとお母さんは妖怪に殺された。...今は近所のお兄さんにお世話してもらってるの。...今日は忙しいから私たちで遊んでた...」
女性の笑顔は先程より少し薄れていた。何かしら事情を抱えている子供だと察したのだろう。
その時、チャコがゆっくりと瞬きしたと思えば、無口の彼女がさらに続けた。
「なんで?」
「え?」
「なんで親がいるか聞いたの?」
チャコの目がまっすぐと女性をとらえた。その瞬間女性の背筋に冷や汗を感じた。
女性は子供相手に気のせいだと気を取り直し必死に笑顔を作る。
「お姉さんはね。この街に怖い人がいないか見回ってるお仕事をしてるの」
相違って左腕にはめた腕章を見せる。そこには[解放軍直轄補導員]と書かれていた。
チャコはそれを見やりもう一度女性の顔を見ると、また口を開いた。
「それで...付き添いがいない私達をどうするの?」
「そうねえ。時間も時間だし、君達のおうちに帰したいかな。」
ダメかな、と女性は眉を下げて控えめに聞いた。
ペンとチャコが顔を見合わせる。そしてペンがにぱっと笑った。
「ほんとに!?じゃああそんでかえろ!!!」
女性は安堵のため息をこっそりつく。先程の冷や汗はやはり気のせいだったのだろうとチャコの顔を見やった。
「ぼくはね!ペンっていうの!で、こっちがチャコちゃん!」
「チャコちゃんとペン君か!よろしくね!ごめんね、突然声掛けちゃって怖かったよね」
「だいじょうぶ!おねえさんはわるいひとじゃないんでしょ?」
そういって女性を見上げるペンは満面の笑みだった。しかしその目は笑っていないように感じた。まるで先ほどのチャコと同じ目だ。
「え...ええそうね」
そう返事した途端にまた純粋な笑顔に戻ったペン。
女性は、前を走っていくペンに引っ張られて走るチャコの背を見ながら、少し恐怖を感じた。
5歳とは思えない思考と語彙力を持つ少女とそして少年の垣間見えた異様な様子。女性は2人がただの子供じゃない気がしてならなかった。
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