それはもうナチュラルに


 しかし俺の心配をよそに、結希は俺をじぃぃ、と見詰めたまま、もう一度顔を伏せる。
 そうね、と小さい声で答えたかと思ったら、続けて「あ゛~」とかいう低い唸り声を洩らした。

「ある意味、この子はそういうのに効く特効薬よ」

 ……いや内容全然見えて来なくて怖ェよ。
 そう、としか答えられず、俺は会話を続けるのを止めた(放棄とも言う)。

 代わりに結希の腕に抱かれているぬいぐるみを観察する。

 デフォルメされた猫のぬいぐるみだ。
 何故か蝶ネクタイとシルクハットを身に着けている。
 どういうモチーフなんだ……?

 いや、それ以前に。

「結希にもそういう趣味あったんだな」

 何か意外、と俺は素で感心していた。
 あんまりそういう「可愛いモノ好き」イメージがなかったというか、口を開けば紫龍の話ばっかりだった気がするので……。

 なんて呑気に捉えていた俺。
 しかし結希は無表情でこう返してくる。

「龍一くんはご存知ないのですね」
「えっ、何!?」

 いきなり改まった口調だったので、普通に驚いて変な声が出た。
 何その切り出し方、無駄に怖いんですが!

 なんて警戒していた俺に、結希はぬいぐるみのお手手を指で動かしながら続ける。

「わたしがこんな風になってるのは、ストレスが上限を超えている時なのですよ……」

 あっ、そうなの?

 フフフ、と言うけど、結希の目は笑っていなかった。
 どうやらこれは、結希なりのストレス発散法だったらしい。

 なるほど……これは俺が知らなくても当然である。
 だって他人に見られたくないことが何と無く理解出来るもんな。

 とか勝手に結希の心情をおもんぱかった(合ってるかは知らない)。

「……それを何でわざわざウチでやった?」

 急に冷静になってそう訊いていた。
 いや、出来ればこんな結希は知りたくなかったかも知れない、と思って。

 しかし結希は「ダメですかぁ~?」とどことなくわざとらしい感じの言い方で訊き返してきた。
 ダメかどうかで言ったら、厳密にはダメじゃないだろう。
 俺が気付かなければ、の条件は付くけど。

 ……それはダメということになるのでは。

 なんて口には出さなかったものの、視線がそう答えていたのかも知れない。
 結希がちょっと真剣な顔付きで訴える。
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