暴露


 そのことに油断して、真鬼は少し気を緩めた状態で話す。

「……こちらの予想よりも早く、最鬼が動き出したんだろう……」
「何故もっと早く言わなかった!?」

 菱人のその荒い声も勿論だが、華倉も真鬼も驚いたのは、行動の方だ。

 菱人が真鬼の胸倉を掴み、手荒く自分の方へ引っ張った。
 その目は誰が見ても怒りに支配されていた。

 気迫に呑まれ、絶句したまま菱人を見詰めるしか出来ない真鬼に代わって、口を開いたのは華倉だ。

「菱兄ィごめん! 真鬼だけのせいじゃなくて、俺たちも事情知ってて、その」
「何故俺に黙っておかなきゃならなかったのかと訊いてるんだ!!」

 ぐい、と胸倉を掴む手に力を入れ直し、菱人はやや俯きながらそう叫んだ。
 真鬼にも、華倉にも聞かせたかったためだ。

 何故黙っている必要があったのか。

 菱人は全く答える気配のない真鬼の服から、乱雑に手を離し、テーブルに片手を付いた。
 舌打ちする音を覆うように、菱人は空いている手で自分の顔を覆った。

「大丈夫、真鬼?」

 その場から動けないままで、けれど華倉は顔だけ真鬼へ向けて、そう訊いた。
 私はいい、と真鬼は襟元を直しながら答え、しかしその視線は菱人の背中を捉えていた。

 最鬼が暴れ出した。
 それはもう、否定し切れない現実だった。

 精神なかみは篠宮家の地下に、今も厳重に保管されているはずだ。
 けれど、最早そんなことが細事であるくらいに、肉体そとみに力が戻りつつある。

 真鬼はそう読んでいた。

 正直、瀧崎家地下に保管されている最鬼の肉体の様子を確認しない限り、迂闊な発言は避けたい。
 けれど、と真鬼はパソコン上に表示されたままの写真に視線を移す。

 これらの被害は、どう見ても鬼の仕業。
 最鬼の肉体が、体力の回復と持久力を得るために、食事を摂り始めたのだろう。

「……お前、万一最鬼が覚醒めざめたときの切り札として、憂巫女の力が必要だ、ってそう言ってたな?」

 手を付いて俯いた体勢のまま、菱人が背後の真鬼にそう投げ掛けた。
 真鬼は頷きながら、ああ、とはっきり返す。
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