霊場
そう考えると急に背筋が冷えて来て、華倉は軽く結論を出そうとする。
しかし魅耶は首を傾げて見せ、そういう訳にも、と渋った。
「折角業者に頼むんですから、1度に済ませたいんですよ」
合理的に考える魅耶を見て、そうか祟りとかの類は怖くないんだな、と華倉は理解した。
華倉はそっちの怖さの方が大きかったのだ。
「今回予算幾らだっけ? 何までやってもらえるっけ?」
華倉がそう訊ねるものの、魅耶もあまりよく覚えていないらしい。
一旦資料を取りに家へ戻ることにした。
仕事関係の書類をまとめてある棚へ向かう途中だった。
座敷の奥の間に、小さく固まる座敷童子の姿が見えた。
「どうした、そんなところで?」
襖を開け、華倉が声を掛ける。
真っ先に顔を上げたのはときだった。
けれど、その表情は青ざめていた。
どうした、と心配になって3人の傍へしゃがみ込む華倉。
一番奥で震えていた紀久が華倉に気が付き、華倉の胸へと抱き着いて来た。
服を掴むその手がガタガタと震えている。
事情が分からず、それでも怯える紀久を宥めていると、巫女様、とときが口を開く。
「……何か……何か、が、いるの」
「何か、って」
青い顔のまま華倉を見上げ、ときは訴える。
しかし訴えが漠然とし過ぎていて、華倉は理解したいのに困惑しか出来ない。
そんなときに代わって、説明するのは灯吉だ。
「よくわかんねぇけど、確かに俺たちを狙ってたんだよ……! 何か、すごく嫌な気分になって、怖いって思って……」
言わんとしていることが掴めない。
しかし座敷童子たちのこの怯えようは、華倉にも異常だと認識出来る。
一向に出て来ない華倉の様子を見に、魅耶も座敷に上がって来た。
灯吉が魅耶を見付け、同じように何者かからの恐怖を訴える。
華倉と魅耶は顔を見合わせ、1つの可能性を見出そうとしていた。
出来れば杞憂であって欲しい、そう思いながら。
2020.10.3