結成前夜


「だから馨落ち着いて」

 そんな2人に喝を入れる馨。
 本当にバンドのことになると、昔から熱い。
 そして誰よりもマジになるので、ちょっと扱いに困るのである。

 そんな馨を落ち着かせるブレーキ役が、司佐だった。
 どうどう、と馨を宥める司佐の声に続いて、忠雪が口を開く。

「それはどういう経緯で?」

 何故僕を知っているの、と忠雪が問い掛ける。
 ああ、とそれに答えるのは、司佐だ。

「いや、僕がたまたまギター弾いてるあんた見掛けてさ。すげぇ上手いし、何て言うか……楽しそうだなって思って」
「うちギターひとりいるけど、もうひとり欲しいなぁってところでさ。それを是非とも忠雪くんに!」
「そうでしたか」

 司佐の素直な話に、忠雪が頷いてる。
 馨もここぞとばかりに押してくる。

 馨の本気がだいぶ伝わってきていただろう。
 そんなところへ、味噌のいい香りが漂ってきた。

「あいよ、味噌バタチャーシュー2つ!」
「旨そう」
「あつあつー!」

 どん、と店主がラーメン丼をふたつ置いた。
 扇は有佐に割りばしをひとつ渡しながら、自分の割りばしを割る。

 早速食べて始めている有佐と扇。
 忠雪はそんな自由なふたりを見ながら、猫舌じゃないんだなー、とか呑気に考えていた。

「あ、済みません、僕塩ひとつ」

 その様子を見ていたら、司佐もつい注文していた。
 確かに美味しそうなのである。
 それを聞いた店主が、豪快に笑う。

「おっ、若ェのに遠慮すんなってー」

 がっつり行け、と言わんばかりである。
 店主が厨房に戻る様子を見ながら、うーん、と考える忠雪。

「うーんそうですねぇ……確かに楽しそうな方々とお見受けしましたが」

 忠雪にとっては珍しいタイプではあった。
 歯切れの悪い忠雪に、馨が不安そうに聞く。
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