addicted to you


 安堵感と、寂しさみたいな胸のもやもやが、同時に沸き上がって来ていた。

 落ち着かなくて、扇の掌を探す。
 きゅ、と扇の指先を掴むと、扇は一旦手を離して、しっかりと掌を重ねるように握り直してくれた。

「……ごめん。ほんとは、ちょっと、心細かったから……」

 虚勢張ってたけど、扇が来てくれて嬉しかったのは、誤魔化せなかった。
 うん、と扇も正直に答えてくれた。

「俺も強引だった。ごめん」
「……ありがと」

 昼の分の薬も用意してあったけど、それ飲まなくても眠れるような気がしていた。
 ここでちゃんと寝れば、次起きたときは、熱も完全に下がってるだろうな、と考えてた。

 でも。

「んぅ」

 何か顔が影で覆われたな、と思ったら、扇の顔があって。
 何の前置きもなく、キスしてきた。

 音を立てた、軽めのキスを数回。

「……何で?」

 本気で意味が分からず、真顔で訊いてしまった。
 でも、扇は答えるより先に、もう1度唇を落とす。

 それは多分初めてされた優しいだけのキスだった。
 こちらへの負担は殆どない、でも、触れている実感は確かに気持ち良くて。

「……また熱上がるじゃん……」
「……ごめん」

 繋いだままの扇の指に、抗議の意を込めて、きゅっと力を加えた。

 でも、扇は多分、俺の本音には気付いてる。
 だからごめんと謝罪の言葉は口にするけど、やめない。

「キスだけ」

 扇のその言葉に偽りがないことは、扇の瞳を見れば明白だった。
 だから、ん、と短く答えて、俺もキスをしてもらうことを選んだ。

 悪いこと、とまではいかないかも知れないけど、ちょっと背徳感は拭い切れない。

 ずるいな、こういうの。
 どんどんハマってくじゃん。


2019.7.24
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