アディクト
良くも悪くも、南辺は噂されているような、問題児ではないことが、俺よりも遥かに真剣に、自分のこと考えているんだということが、衝撃的だったんだ。
その俺の動揺は、南辺にもバレるほど割と露骨だったようで。
何そんな吃驚してんの、と訝しげな南辺の声に問われる。
俺は圧倒されたままのテンションで、おう、と返事。
「てっきり南辺は、高卒フリーターでもいいとか思ってるんじゃないかと……」
「人を勝手に最下底層にカテゴライズするな」
失礼だろ、と南辺に舌打ちされる。
はい、ご尤も。
それは済まん、と頭を下げて、俺はとにかく仕切り直す。
「でもやっぱり、それと喫煙とは別の話だからな! とにかく校舎内での喫煙はやめろ! 内申書にも響くだろ!?」
ぴし、と南辺に指差して、俺は精一杯の誠意で言ってのけた。
これだけは多分事実だと思ったからだ。
それに。
「端から推薦なんか期待してねぇよ。もうバレてることだし、それでいて野放しなんだから、先公も関わりたくないんだろ?」
胡座を掻いた膝の上に肘を乗せて、頬杖を付きつつ、南辺は俺を見据えてそう述べた。
不甲斐ないんだけど、うっかりぎくりとしてしまった。
南辺も気付いてるのか。
喫煙が教師にバレてるってこと。
それでいて見て見ぬふりをされていることも。
正直、どうして教師たちは、南辺のことを放っておくのか、俺には不思議でならなかった。
まぁ確かに、校内での目立った素行不良はこの喫煙だけだし、校外で何かトラブルを起こしたという報告は今のところ入ってないと言うし。
必要以上に関わりたくない心情も、分からなくはない、とは、俺も思う。
でも何か、やっぱり、それって寂しいなと感じてしまう。
これは俺が可笑しいのだろうか。
次の言葉をどうしようか、と色々考えを巡らしている俺を気にも留めない南辺。
ふともう一度ケータイを取り出すと、ん、と小さく声を発した。
何だ、と思ったけど、特に声の掛けようがない俺の前で、南辺は何やらメールの確認をしているようだ。
南辺の表情が、一瞬強張った。
そんな南辺の顔を見るのは初めてだったせいか、俺も戸惑っていた。
南辺はメールに返信したらしい操作を終えると、ケータイをしまいながら立ち上がった。
「説教はもう終わりでいいか?」
俺にそう、確認を取るかのように訊いてきた。
俺は動揺したままだったけど、ぎこちなく、おう、と頷く。
南辺は俺に「じゃ」と短く挨拶をして、そのまま屋上を後にした。
本当に掴めない奴だよなぁ……。
盛大に溜め息を零し、俺は背後の壁に凭れ掛かって脱力する。
ほんと何なのあいつ。
何でこんなに会話を重ねてるのに、ますます分からなくなんの。
全然本音が見えてこないのは何で?
それなのに何で俺はめげずに南辺にちょっかい出してんの?
それが一番不思議だった。
考えても分からないけど、だから見掛けたら、とにかく声を掛けてるんだろう。
そうしていればその内、俺の方の理由は、分かるんじゃないかって思って。
「意味分かんね」
なのにハマってる。
2019.7.24