preparation
医学部受けると決めた時からひしひしと感じていたことだけど、いざ職業医師のスタートラインに立ってみると、急に不安が大きくなる。
そりゃあ必要なことは一通り学んできたし、覚悟もしてるし、気合いもあるけど。
「でも龍一だって超えて来た道だもんね」
「そうだよ~」
むう、と自分に冷静さを与えて、わたしはそう自分に言い聞かす。
うんうんと龍一は頷いてくれるけど、わたしは覚えている。
2年前のその頃、研修医だった龍一と半年まともに会っていない期間があったことを。
でも。
食器も鍋も片付けて、キッチンの電気を消して出て来る龍一。
満足したか、と訊きつつ隣に座って、わたしの顔を覗き込む。
わたしは黙って頷いて、龍一にお礼を述べる。
「……ありがと」
卵雑炊のことも勿論そうだけど、それに至るまでの龍一の気持ちとか、この先の2人のことまで考えていることとか、色々な面で。
だからわたしも、きっとやっていけるだろう。
「まだ夜更かしするの?」
時計を見ると、2時を過ぎていた。
龍一がローテーブルに置きっ放しの本を見ていたので、わたしはそう訊ねる。
「いやー、そろそろ飽きてきたなと思ってて」
どうしよっかな、と呟く龍一。
そんな龍一にわたしは呟く。
「じゃあ寝ようよ。一緒に」
温かいもので小腹が満たされたせいもあって、わたしは再び眠たくなっていた。
何ともなしに龍一にそう言っていた。
龍一はわたしの顔を真顔で見て、それから確認するかのように訊き返す。
「……一緒に?」
「一緒に」
龍一の言葉を、わたしは頷きながら繰り返す。
ふふ、と龍一が鼻から抜けるような笑みを零して、立ち上がる。
「いいね、それ」
そう呟いて、立ち上がろうとしたわたしの手を取る。
リビングの電気を消すと、同時にドアの閉まる音が響いた。
2019.9.5