愛し、背の君。

「こっち行くと、川沿いの遊歩道があるんだ~」

 十字路に差し掛かった頃、左手を指差して、浅岡が言った。
 しかし、鳳凰は素で驚いて、おい、と低めの声で指摘を入れる。

「夜の水辺は危険過ぎるぞ。浅岡殿なら重々承知だろう?」

 そう、ただでさえ、水辺には霊の類が集まり、溜まる。
 夜ともなれば、余計にそれらの活動は勢いを増すのだ。

 浅岡ともあろう人間が、そんなことすら知らないとは思えなかった。
 うっかり本気でそう言ってしまった鳳凰。
 すると浅岡は鳳凰の顔をじっと見詰めて、うん、とあっさり頷く。

「だからホンモノを鳳凰さんに見せてあげようと思って」
「そういう気遣いはやめてくれ」

 可愛らしく首を傾げて見せながら、浅岡が考えていた提案を打ち明けた。

 けれどそれは、どう考えても賛同出来る内容ではなかった。
 真顔で首を横に振り、拒否の意を示す鳳凰。

 それは如何な浅岡でも、遊び半分でやっていいことではなかったからだ。
 えへへ冗談、と浅岡は笑うけれど、冗談だとすれば余計性質が悪い。

「いつか呪われても文句は言えぬぞ……」

 足の向きを変えて、十字路の右手へと進む浅岡に、鳳凰がやや戦慄しながらそう告げておいた。

 浅岡は幼少期から霊や人ならざる者との交流が出来た。
 多少の心構えや、信頼している部分はあるだろうけれど、やはり相手は「異界の異物」である。
 浅岡がまだ生身の人間である以上、警戒だけは続けていて欲しい。

 そう鳳凰が続けて話をすると、浅岡はにっこり笑って「ありがと」と答えた。
 緊張感がない笑顔であった。
 無邪気過ぎるな、とやや心配に思えるのが、唯一の気掛かりである。

 夜の公園は、昼とは全く顔を変えてしまう。
 遊具や砂場があるこの公園は、昼間こそ、幼児を連れた母親や、高齢者たちの憩いの場になっているが、夜ともなれば……である。

 いくつか薄暗い外灯がまばらに光り、ベンチも点在しているため、いちゃつくカップルが多々存在する。

「本当にここでいいのか?」

 下手すると声が聞こえてくるが、と鳳凰が感情を消した顔で浅岡に訊ねる。
 いつの世も色恋は絶えないな、と遠い目で考えていた。

「大丈夫だよー。ここ割と広い公園だから、多分人のいない区域もあるし。それに、酒呑みながら語ってれば周りなんかシャットアウトだよ」
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